第62話

 俺は綾乃のお義父さんのことが気になっていたのだが、聞いていいものなのか、迷って1週間が経った。


 1週間経って聞けてないということは、自分でも聞きづらいこと、というのは分かっている。

 それに、そういう話を聞かれたくない人もいるだろう。


 いずれにせよ、綾乃から話をしてくれる時を待った方が良さそうだと感じた。


「雄星くん!ちょっといい?」


 放課後俺は綾乃に呼び出された。なにか話があるのだろうか、怒ってる様子はなかったし、怒られるようなこともしてない。


「あのね!今週の土曜日夏乃の誕生日なのね?」

「えっ?そうなの?」

「うん!それでね?雄星くんにも来てほしくて」

「いや、夏乃の誕生日なんだろ?俺は行かない方が夏乃の友達とか呼べるだろ」


 俺が行ったら、夏乃の友達呼びづらくなるだろうだったら、俺は行かないほうがいいんじゃないかと考えていた。


「その夏乃が雄星くんも呼びたいって言ってるの」

「本当か?それ」

「なにぃ〜?私を疑ってるのかな?」

「い、いや、そういう訳じゃないけど・・・・・・」

「けど?」

「本当に行っていいの?」

「いいの!」

「わ、わかりました・・・・・・」


 綾乃は笑顔で「了解!」と言いながら、自分の教室に戻っていった。


 俺は今日掃除当番なので朝、綾乃には先に帰ってもいいと言ったのだが、「待ってる!」と言って聞かなかった。


「くろだぁ〜?彼女とのおしゃべりは掃除終わってからにしろな?」

「はい、すみません」


 掃除をしろと怒られてしまった。というよりそんなに話してたか?と思ってしまった。

 まぁ、掃除せずにしゃべってた俺が全部悪いんだけど。


 掃除が終わったあと、担任からは「今度掃除サボって彼女といちゃついてたら特別に掃除してない教室を掃除させてやる」と少し注意を受けてしまった。


 俺は今度は気をつけようと考えるのだが、綾乃に話しかけられて、掃除だから後でと俺は言えるのだろうか・・・・・・・・・俺には言えないな。


「綾乃ー?遅くなってごめん」

「全然大丈夫だよ?それじゃ帰ろっか」

「あー、それなんだけど」

「どうしたの?」

「・・・・・・寄り道してもいい?」


 俺が恥ずかしそうにそう言うと、綾乃はニコニコと嬉しそうに微笑んで「もちろん!」と元気な返事をくれた。


「どこに行くの?」

「いや、夏乃の誕プレ買おうと思って、綾乃だったら何が欲しいとか知ってるかなって思って」

「うーん、夏乃の欲しいもの・・・・・・」


 そうやって綾乃は悩んでいた。とっても悩んだ末たどり着いたのが、キラキラした女の子向けの文房具や小物があるお店に来た。


 絶対に男子1人だったら入れなかった。というか綾乃が居ても正直厳しい。


「あの・・・・・・外出てもいい?」

「だめっ。私もいるんだから大丈夫」

「雰囲気で既にヤバい」


 女子というか、子連れの奥様が多い印象だ。奥様が連れている子供はまるで宝石を見るかのように、目がキラキラしていた。


 そして、俺の隣にも。


「見て!あのシャーペン可愛い〜!」

「綾乃さん?少々はしゃぎすぎでは・・・・・・」

「あっ、えっと・・・・・・コホンッ。な、夏乃の誕生日プレゼント買いに来たんだっけか」


 そう言うと、綾乃は主に文房具を見ている。すると筆箱を手に取った。ウサギのような形のモフモフの筆箱だった。


「綾乃それにするのか?」

「うん、あの子筆箱とか私のお下がりだから」

「俺は・・・・・・どうしよう」

「夏乃はどれでも喜んでくれると思うよ。特に可愛い物ならね」


 そう言われても・・・・・・男子の可愛いと女子の可愛いには差があるような気がして、不安なのだが、良いと思う物があったので、それを買うことにした。


「あっ!雄星くん選んだの可愛いね!」

「そ、そうか?」

「うん!」


 よかったとホッと安心していると、綾乃が笑顔から、ちょっとムッとした表情をしていた。

 少し頬を膨らませてる感じだった。


「ど、どうした?」

「夏乃のプレゼント真剣に選んでるなぁって思って」

「それで怒ってるのか?」

「怒ってはない!怒ってないけど」

「な、なんだよ」

「妹に嫉妬するの、なんかカッコ悪い・・・・・・」


 そう言って綾乃はムッとした表情から今度はしょんぼりしている。

 綾乃はいつも表情の変化が激しいが、今日はいつにもなく、激しい。


「綾乃、誕生日いつ?」

「えっ?5月2日」

「そっか・・・・・・」


 俺がそう言うと、綾乃は何かに気がついたかのように、ニヤニヤしてこちらを見てくる。


「それは期待しても良いのかな?」

「絶対忘れない」

「ふふっ、ありがと。楽しみにしてるね!」


 そう言って綾乃は最終的には笑顔だった。


 5月2日・・・・・・絶対に忘れないようにしよう。俺はスマホのカレンダーに5月2日綾乃の誕生日と記録した。

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