第61話
放課後になり、俺は綾乃と帰るために自分のクラスの下駄箱でスマホを片手に彼女を待っていた。
「ごめん!先生にプリント提出してたら遅くなっちゃった」
綾乃は小走りで、両手を合わせて謝りながら俺の方に近づいてくる。
別にとても待ったという訳でもないので、全然気にしないでいいのだが、一つ気になったことがある。
それは、朝は髪を下ろしていたのに放課後になって髪を縛っているのだ。
「綾乃、髪型変えたんだな」
「あっ、うん!体育の時は縛った方が良いから」
「あー、それでか。すごく似合ってる」
「き、急にどうしたの?」
「いや、別に。思ったことをそのまま口に出しただけだよ」
「・・・・・・ありがとう」
綾乃は「ありがとう」と言っていたものの、顔を下に向けて、そのまま歩いて行ってしまった。
俺もそのあとをすぐに追いかけたが、綾乃がこっちを向く様子はなかった。
「綾乃、どうしたんだよ」
「別にどうもしてないもん」
「嘘つくな、どう考えたって機嫌悪くなってるだろ」
「な、なってない。急に褒められてどんな顔すれば良いか、わからなくなっちゃったの!」
クルッと振り返って、俺の方を見ながら、ぷるぷると震えながら綾乃は言ってくる。
その姿を見て、やっぱり可愛いとしか思えなかった。
学校では、優等生って感じで通ってるが、彼女のこんな一面を俺だけが知ってると思うと、優越感がハンパない。
「なに、にやけてるの!」
「バカにしてるでしょ」と言いながら綾乃は俺の方にジリジリと近づいてくる。
その目つきは少し怖いくらい、俺の方を睨んでいた。
「いやいや、バカになんて」
「ふ〜ん。ならいいや」
返事を返すと、ピタッと足を止めてくれたのでよかった。綾乃があと一歩前に近づいていたら、抱きしめてるところだった。
急にそんなことして、また目を合わせてもらえなくなったら困る。
正直、残念だが仕方がない。
自分の欲を抑えながら俺は綾乃の隣を歩いている。
◆◆◆
「あれっ?夏乃?」
綾乃がそう言って、公園の方を見ている。すこしずつ暗くなるのも早くなってきたので、微妙に顔が見えづらいが、確かに夏乃だった。
とても暗いって訳ではないが、夏乃はまだ小学生なので、綾乃も心配なのだろう。
「お姉ちゃん!おかえりー」
「うん、ただいま〜・・・・・・って違うでしょ!?いつまで遊んでるの!もう暗くなってるでしょ!」
「えー、これから良いところなのにぃ〜」
綾乃は夏乃に帰ってほしくて、夏乃はまだ遊びたい。
テレビ番組でありそうなネタだな。
【大人しく家に帰ってほしい姉VSまだまだ遊びたい妹】
みたいなのが、ありそうだなぁ。とこの姉妹を見ながら考えていた。
「雄星くん、なんで笑ってるの?」
「いやっ、お前ら姉妹見てると、飽きないなぁって思ってさ」
「それどういう意味かな?」
「微笑ましいってことだよ。褒めてる」
綾乃が俺に向けていた表情が穏やかになる。俺だけでなく、夏乃に対しても柔らかくなった。
「夏乃、また今度にしよ?他のお友達ももう帰ってるから・・・・・・ね?」
「うーん、わかった・・・・・・」
夏乃は納得はしてない様子だったが、綾乃がなんとか説得して、家に帰ることが決定した。
すると、夏乃が眠たそうな表情で、俺の方にユラユラと揺れながら近づいてくる。
「黒田〜おんぶー」
「お前なぁ・・・・・・」
と呆れた声で俺が言うともう夏乃は半分夢の中の様な感じだった。
家に帰る=寝れるに直結したのだろうか。夏乃はもう寝息を立てている。
すると綾乃がペシッと夏乃のおでこの辺りを叩く
「コラッ、自分で歩きなさい」
「はぁ〜い」
口をむにゃむにゃさせながらも、夏乃は綾乃に手を引かれて、歩いている。
俺が2人の横を歩いていると、夏乃が無意識なのか俺の手を掴んできた。
俺はこれはこれで良いかと思ってしまった。
「あっ、お義父さんの車だ」
すると、夏乃が急に俺の背中に隠れ出す。俺は訳がわからなかった。
「ど、どうしたんだ?」
俺が綾乃の方に、助けてというサインを目で送ると、綾乃は苦笑いしながら
「夏乃はお義父さんのことあんまり好きじゃないっていうか、私は上手くやってるつもりなんだけど」
「そういえば、苗字が変わったんだよな」
「うん、そうだよ・・・・・・」
綾乃は、なにか悲しそうな表情をしていた。それ以上は聞かなかった。
もし、聞いたら綾乃は教えてくれたのだろうか。俺はそんなことをずっと思いながら、綾乃を家まで送った。
「ありがとう!送ってくれて」
「いーや、大丈夫。それじゃおやすみ〜」
「うん、おやすみ〜」
綾乃は夏乃を抱っこしながら、俺に手を振ってきた。俺の頭の中には、未だにさっきのお義父さんの時の表情が気になって仕方がなかった。
「君はだれかな?」
すると、後ろから、少し低い声で問いかけられてる気がしたので、振り向くと冷たい表情をした、40代くらいの人が立っていた。
「く、黒田ですっ!」
「黒田・・・・・・さん。知り合いに居たかなそんな人」
「あっ!僕はこれで・・・・・・あははー」
俺はそう言って逃げるようにその場から立ち去ってしまった。
その人は俺のことを睨んでるのか、それとも、そもそもそういう目つきなのかわからなかったが、一つだけ分かったことがある。
めちゃめちゃ、怖いということが分かった。
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