第60話
長いようでとても短い二日間の文化祭が終わり、みんなから活気は感じられず、死んだような目をしている。
「みんな、どうしたんだ?」
俺が三村にみんながこうなっている状態が何か知らないか聞くと、三村は俺を睨むような視線でジッと見てくる。
「文化祭が終わって、みんなテンションが下がってるんだよ・・・・・・」
「確かに、楽しかったもんな」
「・・・った」
「なんだ三村、聞こえないぞ」
「俺は彼女ができなかった!!」
三村がキレた口調で俺に訴えかけてくる。それを俺に言われても困るんだが・・・・・・
一応「ドンマイ」とだけ慰めておいた。
「ここで虚無になっている奴らは多分俺と同じ理由だと思うぜ・・・・・・いや、違うな。白河綾乃に彼氏ができたこと・・・か」
「はぁっ?!」
どんな理由だよ。流石に人気ありすぎだろ綾乃と思わず声が出てしまった。
「そういえば、お前どこまでいったんだよ」
「どこまでって?」
「バカッ!男女2人で文化祭の後なんて決まってるだろ!」
俺がポカンと気の抜けたように聞くと、三村は俺に怒りながらもなにをしたかを聞いてくる。
別にこれといって・・・・・・これといってした覚えは・・・・・・・・・あった。
キスならした。でも、それ以上でもそれ以下でもない。
キスはした。と言って三村が納得するだろうか。俺はしないと思う。なんなら賭けてもいいくらい自信がある。
「キ・・・キスなら・・・・・・した」
「お、おぉ〜やるなぁ」
「なんだよその反応っ!」
「いや、あのヘタレで有名な黒田がキスですかぁ」
アレ?なんか思ってたのと違う。でもこれは全く褒められてる気がしない。いや、褒められてはいないな。
「しっかし、黒田も大変だよなぁ、お前眠っていた野獣を起こしてしまったぞ」
「はっ?なんのこと言って・・・・・・」
俺が三村と話してる途中で、肩に手が置かれる。その瞬間俺は寒気が急激に襲った。
背中に痛いほどの視線。いや、殺気と言った方がいいだろう。
グサグサと俺の背中に刺さっている。
「くろだぁ〜?白河さんとキスしたんだってぇ?」
「あ、あぁ。そ、そうだけど」
「じゃあお前とキスすれば、俺たちは白河さんとキスしたことになるんだよな」
「はっ??おい待てなんだその謎理論!」
俺は野獣と化したクラスの男達に自分の唇が奪われそうになり、揉みくちゃにされた。
するといきなりピタッと野獣達の動きが止まる。男達は廊下の方を見ているので、俺もそっちの方を向くと、綾乃が男たちに揉みくちゃにされている俺の方を見ている。
「あ、綾乃・・・・・・」
「ちょっといいかな?雄星くん借りても」
「あっ、どうぞ!」
そう言って野獣たちは俺を解放すると、普通の爽やかな男子に戻っていた。
「ごめんねっ?遊んでるところ」
「い、いや大丈夫っ。というより助かった」
「そっか?ならなにより」
綾乃の頭上にハテナが出そうなくらい首を傾げて
いた。
「それで?どうかしたの?」
「あっ、うん!えっとね・・・・・・」
綾乃はもじもじしながら、俺の顔をチラチラと見てきた。
綾乃を見ると、先日のキスが頭に残っており、つい目線が唇にいってしまう。
「今日、一緒に帰らない?」
「あ、あぁっ、いいよ」
「えへへ。やった!」
少し恥ずかしがりながらも、微笑むその姿はまさに・・・・・・まさに女神だった。
「女神!」
「天使!」
「クレオパトラ!」
さっきまで野獣だった男たちが綾乃の笑顔を見てお祈りを捧げていた。
「クレオパトラ〜?」
「えっ?じゃあ小野小町の方が良かった?」
「どっちも世界三大美女だろ!」
そんなことを言って争っている。俺は自分の彼女が褒められているのを喜べばいいのか、それとも、コイツらを怒ればいいのか、わからなくなっていた。
別にクレオパトラでも小野小町でもいいが、白河綾乃は可愛いということだ。
「あはは!雄星くんのお友達って面白いね!」
「えっ?コイツらは・・・・・・」
「雄星く〜ん。俺たちは友達だよなっ?そう!言うなれば心の友!な?」
「勝手に心の友にするなっ!」
俺はそう言って抱きついてくる奴を離れさせようとするが、結構力が強くて離れてくれない。
俺はさっきまでの疲労で無駄な体力はこれ以上使うのはやめろと体が言っていた気がしたので、放っておくことにした。
「じゃっ、また放課後」
「う、うん」
そして、自分のクラスに戻っていくのかと思ったら、また戻ってきて、扉からヒョコッと顔を出して俺の方を見てくる。
「あっそうだ、雄星くんの唇を奪っていいのは、雄星くんの家族以外で私だけだから、しちゃダメだぞ?」
そう言って、今度こそ本当に戻っていく。ちょっと待って・・・・・・思考が停止してて、なにも考えられない。
えっ?今俺の彼女なんかヤバいこと言ってた気がするんですけど・・・・・・
俺を含め、その場にいた全員が、ポカンと口を開けていた。
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