第57話

 綾乃と文化祭を周りながら俺は綾乃から何をお願いされるかを考えていた。


「写真いかがですか〜?今なら文化祭記念でオプションつけれますよ〜」


 文化祭実行委員だろうか、目の前を通る人たちに声をかけている。


 写真・・・か、そういえば俺と綾乃の写真って少ないんだよな・・・・・・


 俺はチラッと綾乃の方に目線を下ろす。綾乃はジッと写真を撮ってくれると言っては人のことをずっと見ている。


「綾乃、せっかくだし写真撮るか?」

「えっ?!と、撮る!」

「じゃあ、行こっか・・・・・・」


 俺はそう言って綾乃の小さな手を引っ張る。


「あの!写真撮ってもらってもいいですか?」

「はい!お任せを〜」


 そう言って、大きなハートマークが書かれた絵の前に2人で立たされる。

 なぜか、変に緊張してきて笑顔が上手に作れるか不安だった。


「はい、笑ってくださーい!ハイッ!チーズ!」


 カシャっとシャッター音が鳴る。綾乃は緊張とかしないのだろうかと気になって、隣にいる綾乃を見ていると目が合ってしまった。


 ずっと見ていることがバレたので、何かからかわれそうだと思っていたら、綾乃は少し気の抜けた笑顔で


「私上手に笑えなかった気がする〜・・・・・・大丈夫かな〜心配」

「綾乃でもそういうこと思うんだな・・・・・・てっきり全然緊張しないものだと思ってた」

「私をなんだと思ってるの!?緊張もするよだって・・・・・・」

「だって?」

「す、好きな人と・・・・・・撮ってるから」


 その時、運悪く目の前を一年生だろうか、はしゃいでいたウチの生徒の声がうるさくて、綾乃の声が最後だけ聞き取れなかった。


「えっ?なんて?」

「も、もう言わない!はいっ!この話終わりっ!」

「え、えぇっ〜」


 俺がもう一度聞くと、もう言いたくないみたいな感じで強制終了させられた。


「私だけ恥ずかしい思いしたじゃん」


 綾乃がボソッと何かを言っていたが、これも深く聞いても教えてくれないと思ったので、何も言わないことにした。


 しかし、さっきから綾乃の頬がほんのり赤くなっている。

 頬だけでなく、耳まで赤くなっていた。

 

「なんで顔赤くなってるんだ?」

「な、な、なんでもないっ!」

「そ、そうか・・・・・・」


 綾乃のこの反応的に全然なんでもなさそうじゃない気がするが、今は放っておくことにした。


「もう一枚撮ります〜?オプションとかもつけれるんですけど、どうですか?」

「オプションって、どんなのあるんですか?」

「えっと、天使の羽とか花とか・・・・・・あっ!1番

人気なのは猫耳ですね!」

「猫耳・・・・・・」


 綾乃が猫耳に食いついた。まさか、綾乃猫耳つけたいのか?


「あのっ、オプションで猫耳つけます!」

「はーい!猫耳ねぇ〜」

「綾乃、猫耳絶対似合う」

「ありがとうっ」


 俺はウキウキしながら、綾乃が猫耳をつけてくれるものだと思い込んでいた。


「でも、一言も言ってないよ?」

「え?なにを・・・・・・」


 綾乃は俺の方を見てずっとニヤニヤしていた。

その表情を見てやっと気づいた、綾乃は俺に猫耳をつけさせようとして、オプションを頼んだんだと。


 断らなければ、今写真を撮っているこの場所はかなり人目につく場所だ。


「あ、綾乃?俺は猫耳はしたくないぞ?」

「さっきのお願いがあるよね?」

「いや、でも・・・・・・」

「あるよね?ね?」

「・・・・・・はい」


 綾乃の圧に押し負けた。でもなんか不機嫌ではないが、ちょっとムスッとしていたような気がする。


「これでさっき私が恥ずかしい思いしたのはナシにしてあげる」


 俺はなんのことだが、さっぱりわからなかった。


「か、可愛い・・・・・・」


 俺に猫耳をつけた綾乃は、顔をフニャッと笑いながら、俺の頭を撫でている。すごく恥ずかしいし、これ以上やったら心臓がもたないと思った。


「じゃあ撮りますよ〜」

「ほ、ほらっ撮るって」

「はーい」


 た、助かった。ずっとバクバクと心臓の音がうるさかった。


「えへへ、いい写真撮れちゃった〜」

「まぁ、思い出としてはすごくいいな」

「うん!」


 綾乃は満面の笑みで、さっき撮った写真を眺めている。


「ただいまキャンプファイヤーの準備を進めております。キャンプファイヤーに参加する生徒及び一般客の皆様は校庭にお集まりください」


 校内アナウンスが流れ、時刻を見るともう17時を過ぎていた。


「そろそろ行こっか〜キャンプファイヤー」

「あぁ、うん。そうだね」


 俺は綾乃と手を繋ぎながら、校庭に向かった。

この文化祭がもう少しで終わるのだと実感した。

 終わらないでほしい。俺は強く叶わない願いを願った。


 文化祭で発熱した心は未だに冷めることを知らない。

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