第56話
「あっ!ここじゃない?」
そう言って、目的のメイド喫茶というのはやはり俺がさっき三村と蒼太と来た場所だった。
多分俺はオムライスにあんなことを頼んだとかで顔覚えられてるだろうし、もう一度入ったらなんか言われそうだなぁと正直言って入りたくなかった。
「あ、あのー綾乃さん?やっぱりここはやめません?」
「えっ?どうして?」
「ほらっ、その噂なんか胡散臭いし、別のところにしよう?」
「えー!あっ!そんなこと言ってメイド喫茶に入るのが恥ずかしいんでしょ!可愛いなぁもう!大丈夫私も一緒に入るから!」
ほらほらと俺は腕を引っ張られながらまたメイド喫茶の教室に入る。
「おかえりなさいませー・・・って!さっき来た巨乳好きの子じゃん!」
最悪だ。さっき俺のオムライスに文字を書いてくれた人がまた接客だった。俺に会った瞬間、また来たのかと言わんばかりに目を大きく見開いていた。
「きょにゅう?」
「えっと、綾乃さん。これには事情が」
色々と扉の前で説明をしていると、他の人の迷惑になってしまうので、一応案内された席に座って、注文をして、これまでの流れや出来事を丁寧に伝えた。
説明している途中で料理がテーブルに運ばれてきたが、運んできた店員さんが、俺を憐れむような目で見てくる。
とても気まずい空気が漂っていた。
「ふーん、そっかそっかー」
「あの・・・・・・ちゃんと聞いてます?」
「聞いてるよー、雄星くんがメイドさんの巨乳が好きってことでしょ?」
「いや、間違ってる!」
「間違ってるの?じゃあ好きじゃないの?」
「・・・・・・嫌いと言ったら嘘になるけど」
「ふーん」
しかし、綾乃は俺が進んで店員さんにこの文字をお願いしたと思っている。
それは誤解だと言いたい。すべて三村のせいにするつもりだった。
すまん三村俺の為に死んでくれ・・・・・・・・・
「綾乃?実はそれは三村が書いてと頼んだんだ」
「・・・・・・そっかそっか、で?」
「えっと、それだけです・・・・・・」
綾乃は運ばれてきた料理のじゃがいもをフォークでザクッと刺して、俺の方を見ながらニッコリ笑っているのだが、俺にはその笑顔の内側には静かな怒りがあると感じて、とてつもなく綾乃が怖く感じた。
「全部それで三村くんのせいにするのは違うんじゃないかなぁ?ね?雄星っ」
「お顔がとても怖いですわよ、綾乃さん」
綾乃は俺が三村のせいにしたことを違うと言って反論してきた。
俺はこんな状況になっているのにもかかわらず、綾乃がさりげなく呼び捨てしてくれたことを嬉しいと感じてしまった。
「たしかに三村くんも悪いかもしれないけど、雄星だって止めなかったんでしょ?それで全部三村くんのせいだったら三村くんが可哀想だよ」
「・・・・・・・・・たしかに」
全部三村のせいにしようとしていたのはダメだったかなと俺は反省していた。
ちゃんと綾乃にも説明をしたあとで「ごめんなさい」と謝っている。
「まっ!最初から別に怒ってないんだけどね〜」
「えっ?!そうなの!?」
「あはは!うん!ぜーんぜん!」
「な、なんだぁ・・・・・・」
俺はそれを聞いてホッとした。怒ってたらどうやって機嫌を取ればいいか、女性経験ほぼ0の俺は大ピンチだったので、とりあえず一件落着?
◆◆◆
そのあとは、綾乃と楽しくお喋りをしていたのだが、なぜか話題はメイド服に・・・・・・・・・
「私もメイド服似合うかな?」
「えっ?なんで急に・・・・・・」
俺は頼んだ紅茶を一口飲む。運ばれてきて、だいぶ時間が経っていたので、紅茶は冷たかった。
「えっ?だって私って自分で言うのもなんだけど
おっぱい大きい方だし、雄星くん好みかなって」
「ぶふっ!?ゴホッゴホッ、な、何言ってんだ」
「似合わないかな?」
「いや黒髪だし、絶対似合うけど、本当にどうしたんだ急に」
思わず紅茶を吹き出してしまった。だが綾乃が自分でおっぱいが大きいなんて言うとは思わなかった。
「やっぱり男の子なんだなぁって思ってね」
「そりゃ、そうだよ」
「巨乳好きなんだぁ・・・・・・」
「あのっ、もうその話は勘弁してくださいっ」
俺が頭を下げると、綾乃は笑いそうになるのを我慢しているのか、ぷっ・・・・・・ぷぷっという声が聞こえる。
「あはは!ダメだ耐えられないっ雄星くん可愛くてつい意地悪したくなっちゃうんだよ!可愛すぎる
雄星くんが悪い!」
そう言って綾乃はお腹をおさえて笑っている。涙まで流していた。
俺は可愛いと言われて喜んでいいのか悪いのか
内心複雑だった。
「でも、少しショックだったから、何してもらおうかなー?」
「えっ?!なにかするの?」
「大丈夫っお金とかじゃないから!」
そう言って綾乃は考えているが、あまりいいお願いが浮かんでない様子だった。
俺は、正直こういう彼女とのやり取りに憧れていた。アニメや漫画の中だけだと思っていたが、遂に自分がやる側に回るとは思ってもいなかった。
「今思いつかないから、あとででもいい?」
「うん、別にいつでもいいよ」
「ありがと!」
くしゃっと笑ったその表情で俺はドキッとしてしまった。
顔がだんだんと熱くなっていくのがわかった。
俺も静かに紅茶を一口、冷たいはずなのに、温かく感じた。そして今度はちゃんと味わって飲んだ。
俺と彼女の甘い時間はまだまだ続きそうだ。
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