第54話

 実行委員である蒼太も無事に誘えて、3人で文化祭の他のクラスを回っていた。

 とりあえず、三村が「俺についてこーい!」と張り切っていたので、よほど目をつけている場所があるのだろう。


 俺と蒼太は何も聞かずに三村について行った。


「まぁ、まずはここだよな」


 連れてこられた場所は3年生がやっているメイド喫茶だ。


 そういえば、昨日学校内で少し噂になっていた。3年生のメイド喫茶・・・・・・行くだけで幸せになれるというなんとも胡散臭い噂が流れていた。


「お、おい・・・本当にここにはいるのか?」

「ん?なんだよ黒田」

「言いづらいけど、一応俺にも彼女できたし、そのこういうところは」


 俺にも憧れの彼女ができたので、こういうところに入るのに罪悪感を覚えた。それに俺は自分でもビックリしていた。


 すると、三村が俺の方を呆れた目で見ていた。


「あのなぁ、そんなことで白河さんは怒らねえと思うし、それになぁ・・・・・・」


 そう言って、三村は俺に肩を組んでくる。そして耳元で


「こういう息抜きもないとやっていけないぞ・・・」


 本当は入りたいんだろ?という俺の心を見透かされているようで、なんだか気持ち悪かった。


「そ、蒼太は?」

「うーん、今日くらいは別にいいと思うよ」

「そ、そっか・・・・・・」

「それに、もしバレても全責任を三村に押し付けるから」


 それを聞いて俺はなるほどと思ってしまった。


「別に悪いことじゃないだろ」

「そうだけどさぁ・・・・・・」

「バレないって!行くぞ!」


 俺はまだ不安があるが、俺は三村と蒼太の言葉に流されるまま、3年生がやっているメイド喫茶に入っていく。


 教室に入った瞬間。なんか、雰囲気がキラキラとしていた。

 自分が思っていたのとは違う感じだった。


「おかえりなさいませご主人様。三名様でよろしいでしょうか?」

「はい!よろしーでーす!」


 三村が元気に返事をすると、メイドさんがとてもニコニコした表情で「ではこちらの席へどーぞ!」と案内してくれた。


 三村は「はーい!」と鼻の下を伸ばしながら、トコトコとメイドさんの後ろをついていく。

 俺と蒼太はそれを見て、2人でフッと笑い三村に遅れて、案内された席に座る。


「こちらがメニューになります」


 メニューを見ると、すごく目立つように、【メイドさんがケチャップで文字を書いてくれる!ふわふわオムライス!!!】と書いてある。


 このメニューを選べば問題はないとでも言われてるようだった。

 値段もそこまで高くはなく、600円くらいでとても良心的だった。


「メニュー決まったか?」

「あー、うん」

「僕も決まったよー」


 全員メニューが決まったので、メイドさんを呼んでそれぞれの注文を頼んだ。


「じゃあオムライスが3点ですね!少々お待ちください」


 そう言って、パタパタと走って行ってしまった。


「なんで、お前らまでオムライスなんだよ」

「だって、一番美味しそうだったから」

「黒田に同じ」

「クソッ!そんな理由で」

「じゃあお前はどんな理由なんだよ」


 美味しそうだったからが、そんな理由なんだったら三村の理由はさぞ凄いものなんだろうなと、俺と蒼太はどんな答えが帰ってくるのかと少し期待していた。


「はぁ、わかってないなぁ・・・・・・ここはメイド喫茶だぞ?美味しさとかよりも、メイドさんと戯れること自体に意味がある」

「は、はぁ・・・・・・」

「つまりだ、俺はメイドさんがケチャップで書いてくれるその行為自体が見たくて、オムライスにした!」


 その理由を堂々と言えるのがとてもすごいところだ。


「はぁ、それにしても黒田にも遂に彼女ができてしまったのかぁ・・・・・・」

「なんだよその全然祝福してない感じは」

「してるよ?してるしてる」

「本当かよ」


 俺は三村の返事の軽さを見て、祝福してないだろと思っていた。


「でもさ、こうやって遊ぶ機会が減るのかなぁって思うとさぁ・・・・・・なんかな」

「別に減らないと思うぞ?」

「え?そうなの?」


 キョトンとした顔で三村が俺の方を見てくる。俺はその顔を見て笑いそうになるのを堪えた。

 でも、俺たちとの時間を大切にしてくれてるってことなんだよな。


 俺は三村に「お前はバカだな」と笑いながら言った。


「束縛とか綾乃は絶対しないし、遊ぶ相手が女の子だったらアレだけど、三村とか蒼太、男子だったら、逆に遊びに行った方がいいとか言われそう」


 俺がそう言うと、三村の目線は俺と蒼太の方をキョロキョロと行ったり来たりしている。


「あー、僕も束縛とかはないけど、体動かすの疲れるから、たまにだったらいいよ、連チャンで体動かすんだったら僕はパス」


 蒼太が体を動かすって言っているのは、スポーツをするってことだから、それ以外だったら大体付き合えるってことなんだよな。


 なんだかんだ、俺たちも三村のこと好きなんだなとしみじみと感じた。


「お、お前ら・・・・・・べ、別にお前らが遊んでくれなくたって悲しくないんだからねっ!」

「はいはい」


 俺はツンデレヒロインが言う鉄板のセリフを三村が言っていたのを適当に流した。

 そのあと、三村がボソッと「ありがと」と呟いていた。


 もちろん、俺も蒼太も聞こえていただろう。けど俺は聞こえていないフリをした。


 料理がくるまでもう少しかかりそうだ。

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