第53話
今日もいつも通り学校に向かう。やはり少し肌寒い。しかし昨日とは違って俺は今日とても楽しみにしている理由がある。
「綾乃とデートだ」
と思わず口に出してフフフと笑ってしまった。周りの目は俺をクスクスと笑う人もいれば、「へんなひといるー」と小さい子がこちらを指差している。
その小さい子の手を取り「見ちゃだめよ」と母親が小さい子を連れて行く。よくアニメで見るやつだ
こんなに心が悲しくなるとは思わなかった。それにめちゃくちゃ恥ずかしい。
俺はなぜ朝からこんなにダメージを受けなければならないんだ。
気づくと学校の正門の前だった。まだ装飾は派手なままだ。
教室に入ると、俺は明らかにいつもより視線が多いことに気がついた。
その視線は殺気にも似たような感じだった。
俺はなぜかわからないが後頭部を隠すような仕草をした。
すると数名の女子がニヤニヤしながら俺に近づいてきた。
「黒田く〜ん?あのあと白河さんとはどうなの〜?」
数名の女子の1人が俺に聞いてくる。クラスの奴のほとんどが知りたいことだろう。
「いや、あのあとは・・・・・・一緒に帰っただけだよ」
「えぇ〜そうなの?てっきり〜、キ・スとかしてるのかと〜」
「キャー!!ロマンチック〜!」
俺は心臓がドキッ!となるのがわかった。変な汗も出ていた。もしキスをしたなんてバレたら獣のような男達に食い殺されてしまう。
俺は必死に冷静を装った。クラスのあちこちから鋭い目線やガルルルと言った声が聞こえてくる。
それに、キスをしたなんて言えるわけないだろう。と俺は頭の中で叫んでいた。
俺は数名の女子に囲まれたあと男子の奴らにも囲まれた。
威圧感が半端なかった。女子だけでも疲れたのに男子も相手しろとなると骨が折れる。
「なぁ、黒田・・・・・・お前に聞きたいことがある。
綾乃さんは俺たちのこと嫌ってたか?」
「えっ?何言ってるんだ?」
「だ、だってほらっ、しつこく告白した奴だって
いたし、そういう理由で嫌いになったとか・・・・・・」
綾乃は確かに昨日、俺を除いて、告白してきた全員に対して眼中にないと言った。
しかし、嫌いとまでは言っていない。
「嫌いとか、そんなことは言ってなかったと思うけど・・・・・・」
「ほ、ほんとか!?よ、よかったぁ」
男の1人が安堵すると、たちまち周りの奴らまで泣き出したり、男同士で抱き合ったりしている。
「一体どうなってるんだ?」
「みんな、白河さんに迷惑をかけたと思ったんじゃないか?ほら、フラれた方も勿論辛いけど、フッた方も辛いだろ?」
「そういうことか・・・・・・」
なんだかんだ、めっちゃいい奴の集まりなんだななんか勘違いしてた気がする。
「それはそうと、黒田・・・・・・」
「ん?なに?」
「白河さん泣かしたら、マジでお前を殺す。どこまでも追いかけてなぁ」
えっ?いきなりなんですけど。勿論泣かすつもりはないけど、せっかくいい奴らと思ったのに、綾乃にだけかよ。
と俺は不貞腐れるように頭の中で愚痴をこぼした。
「わかってる。勿論そんなことはしたくないよ」
俺は一言だけそう言って自分の席に座った。
9時には文化祭が始まる。その前に放送が入る。2日目開始の放送だ。10分前にもなると、窓から外を見ると、正門に並んでる人たちがいて、それを実行委員と先生で案内している。
お疲れ様だ。先生のこういう姿を見るとやはり苦労しているんだなぁと考えてしまう。
「それでは、2日目も楽しんでいきましょー!」
「おー!!!!」
クラスのみんなが大きな声を上げる。勢いよく腕をグーの形にして上に突き上げるやつも居れば、ジャンプして、嬉しさを体で表現してる奴もいる。
◆◆◆
文化祭2日目が始まった。俺たちのクラスは1日目に劇があったので、今日一日はほとんどやることがないらしい。
なので、他のクラスの出し物をゆっくりと見て回ることができる。
綾乃の方は・・・・・・お化け屋敷だし、無理そうだけど。
「あっ、雄星くん。ヤッホー」
そんなことを考えて教室を出たら、偶然綾乃と会った。俺は昨日のことを思い出して、少し恥ずかしくなってしまう。
綾乃は全然気にしてなさそうに、ニコニコ笑いながら手を小さく振ってくる。
「や、やっほ」
「あははっ!声小さい〜」
「あのさ、今日だけど・・・・・・」
「あっ!ごめんっ午前中はクラスの方に顔出さなきゃいけなくて・・・・・・午後からでもいい?」
「あぁ、全然いいぞ」
「じゃあ、午後連絡するね〜」
綾乃はそう言って隣にいた友達と自分達の教室に戻って行った。
俺は綾乃の教室に戻って行く背中をジッと見つめていた。
「くろだぁ、お前綾乃さんとデートするんだって?羨ましい奴だまったく・・・・・・」
「べ、別にもう付き合ってるんだし当然だろ・・・」
「言うようになったなぁ」と三村は俺の腕を肘でぐりぐりしてくる。
案外痛いし鬱陶しくもあったが、これは三村なりに褒めてくれているのだろうと思い「やめろ」とは言わなかった。
「午前中は一緒に回れるよな」
「えっ?まぁ、行けるけど」
「じゃあ、蒼太も入れて3人で行こうぜ」
「いつメンじゃん」
「別にいいだろ」
プッと俺は笑って「いいよ」と答える。無邪気に喜んでいる三村を見ていると、なんか変に緊張していた自分がバカに思えてくる。
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