第52話

 これは文化祭1日目のミスコンが終わって、俺と綾乃が付き合ったあとの話だ。


 みんながいる場所での告白で、俺と綾乃は有名になった。俺はというと由美や綾乃の母から質問攻めを受けていた。


 そんなこんなで、もう疲労が溜まり、誰もいない自分の教室で自分の席に座り、今日あった出来事を考えていた。


 すると、自然と瞼がだんだんと落ちてくる。俺は最初は自分の体に逆らっていたのだが、いつの間にか、逆らう事をやめていた。


 気づくと、教室は明かりがついていた。俺がつけたわけではないのだが、誰かきたのだろうかと顔を上げると、俺の髪の毛を綾乃が触っていた。


「・・・・・・何してんの?」

「え、えっとこれは・・・・・・可愛いなぁって思って」

「か、かわいい?」

「ペットの毛並みを触るみたいな感覚だよ」

「一応今日からお前の彼氏なんですが・・・・・・」

「あれ?ちょっと不機嫌?」


 別に不機嫌というわけではないが、ちょっと困惑している。もう帰ったと思っていたし、キャンプファイアーも2日目の夜なので、今日学校に残る意味はあまりないのだ。


 しかも、自分の教室でもないのに用事があるわけでもないだろう。


「どうしたんだ?もう帰ったと思ってたけど」

「ん〜?ちょっと用事があってね〜」

「用事?俺のクラスにか?」

「雄星くんのクラスじゃなくて、雄星くんに用事があるの!」

「俺に?」


 なんの用事だろうか、もしかしたら結構重大な事だったりして。

 俺はなんか、変に深刻な空気感だったので思わず生唾を飲み込んだ。


「一緒に帰りたくて・・・・・・教室に居るって聞いたから、来てみたら寝てたから起きるまで待ってたの」

「起こしてくれてもよかったのに」

「・・・・・・した」

「へっ?」

「起こしたよ!!それでも全然起きないんだもん!」


 プンプンと頬を膨らませて、アニメのようなお手本の怒り方だった。

 それはそうと、悪い事をしたと思った。ずっと待っててくれたのなら、尚更だ。


「ご、ごめん。全く気づかず気持ちよく寝てた」

「すごく気持ちよさそうだったから、起こすのも酷いかなぁって思ったんだよー」


 そう言って、綾乃はまだ頬を膨らませてそっぽ向いている。


「でも、まだなんか実感がわかないんだよなぁ、未だに、夢のような感じが・・・・・・はっ!これは夢?」


 俺がおふざけ混じりにそう言うと、綾乃はさっきまでの可愛げのある怒りから、本気の怒りに変わっていた気がする。


 俺はまさか、綾乃の地雷を踏んだのか、いや実感がわかないって悪い事なのか?

 俺は変な汗がダラダラと流れてくる。内心どうやって謝ろうかずっと考えていた。


「あ、綾乃さん?・・・・・・」

「実感がわかないなら、そう思えないようにしてあげようか?」

「へっ?なに言って・・・・・・んっ」


 綾乃の言ってる意味がわからないと思った瞬間、俺の唇に綾乃のプニっとした唇が重なってきた。

 いわゆるキスというやつだ。初キスだ。俺は急にそんなことされて、びっくりした声が出てしまった。


 キスをする瞬間、フワッといい匂いがしたし、サラサラの髪の毛が少し肌に当たりくすぐったかった。もちろん唇はやわらかかった。


 ちょっとエッチな声が出てしまい、誰に需要があるんだよ、こんな男のちょっとエッチな声なんてと心の中でツッコミを入れた。


「どう?実感わいた?」


 ニヤッとしながら紅く綺麗な唇を人差し指で触っている。なんて小悪魔なんだ。


 俺は綾乃のその問いに対して、頭をブンブンと縦に振った。

 自分の顔が真っ赤になっているだろうなと感じていた。ジンジンと顔が熱い。


「顔赤いよ?だいじょーぶ?」

「なんで赤いか知ってるくせに」

「え〜なんだろ〜?」


 と、綾乃はわざとらしく言ってくる。さっきのミスコンに出ていた時の綾乃なのかと疑ってしまう。


「と、とりあえず帰ろう」

「うん!そうだね」


 もっと寝ていたことで言われるのかと思ったら、あっさりと帰宅することになったから少しホッとした。


「すっかり暗いね〜」

「まぁ、もう冬だからな」

「いや、まだギリギリ秋だよー」

「そうかぁ?寒さ的には冬だろー」


 そんな他愛もない会話をしていると、時間が経ついや、いつもの長いと思っている帰り道とは違くてまだまだ喋りたいと願ってしまう。


「ありがとね送ってくれて。じゃあまた明日!」

「あ、綾乃!明日の朝一緒に登校しないか?」


 綾乃は振り向いて俺の方を気の抜けたような顔で俺をジッと見ていた。

 しかし、すぐにニコッと俺に微笑んだ。


「うん!って言いたいところなんだけど明日は実行委員の係があって今日やらなかった分明日早く行かないと行けないんだよ」

「別に、俺もじゃあ明日早く行くよ」

「起きれるの〜?それに、疲れてるんでしょ、大丈夫だよ。それに明日じゃなくても一緒に登校できるでしょ?」


 誘ったが、明日実行委員があるなら無理か・・・・・・と自分に言い聞かせた。俺が起きれる保証もないし、綾乃が言った通り疲れてると思うし、ワガママを言って綾乃を困らせるわけにはいかないよな。


「明日の朝の登校は無理だけど、明日の文化祭は一緒に回ろうよ」

「文化祭?」

「いいの?ダメなの?」


 とYESかNOどっちなの?と2択を迫ってくる。

 こんなに簡単な2択問題、クイズ番組でも、流石に出さないぞ。


「もちろんYESで」

「ピンポーン!大正解〜!」

「昨日丁度やってたんだよね〜クイズ番組ー」

「俺もそれ見てたぞ」


 そのあと、2人で「あはは」と声を出して笑ってしまった。まさか2人ともクイズ番組を想像しているとは思わなかった。


「じゃあ!また明日ね!」

「うん。また明日」


 俺と綾乃は文化祭を一緒に回る約束をして、綾乃の家の前で別れた。


 文化祭1日目よりも文化祭2日目がとても楽しみだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る