第51話

 俺は走っていると、キョロキョロとしている白坂に会った。白坂は本当に焦った表情だった。


「白坂、お前も綾乃を探してんのか?」

「まぁ、実行委員だからね」

「大変だな、実行委員も」

「いや、大変なのは白河さんだよ」


 「酷いじゃないか、あんなこと」と白坂は怒っている。


 やはりいい奴だ。人のことで怒れるというのは、いい奴の象徴なのかもしれないな。


「あっ!そうだ、一緒に探さないか?」

「は?なんでだよ」

「君なら彼女の場所を知ってるかもって思ってね」

「いや、俺は着替えに行くだけだから、教室に戻るだけだぞ?」

「えっ?そうなの?」


 白坂はすごく驚いた表情をしていた。


「それに、別々に探した方が効率がいいだろ」

「たしかに・・・・・・」

「屋上とか探したら会えるかもな」

「屋上か・・・・・・ありがとうっ」


 そう言って白坂は階段を駆け上がっていく。俺はその後ろ姿を見て本当にかっこいい奴だな。と俺は笑ってしまった。


「でも悪いな白坂、俺はお前みたいに優しくない」


 俺は駆け上がって言った白坂に対して、もう聞こえないだろうが一言そう言った。


 花壇がある学校の裏庭に行くための扉があった。ここの扉の開け方のコツはなぜかドアノブを一旦引いてから回さないと開かない。立てかけが悪いのだろうか。


 俺だけが知っている2人の思い出、他の人には分からない場所、白坂だってわからない。


 進んでいくと、風にサラサラの黒い髪の毛がゆらゆらと揺れている。

 気づけば見惚れていた。ポカンと口を開いたまま突っ立っていた。


 すると綾乃が俺に気づいて、「やっぱり」といった表情で俺の方を見てくる。


「あれ?バレちゃった」

「バレちゃったじゃねぇよ、何してるんだ?」

「もうミスコンとかどうでもいいかなって」

「みんな心配してるぞ」


 それを言うと、綾乃の表情が一気に曇る。そのあとに眉を下げながら俺の方を見つめてくる。


「その格好・・・・・・・・・」

「シンデレラの劇をやったから俺、シンデレラ役で出たんだ」


 そう言うと、ケラケラと笑っていた。しかしいつものような元気はない。

 そのあとは沈黙が続いた。


◆◆◆


 沈黙が続いたあとに、話を切り出したのは綾乃だった。


「あの写真・・・・・・みた?」

「あぁ、見たよ」

「本当に、どうしようね!あの写真で去年の学年1位投票数0!とかだったらすごく面白くない?」


 コイツは本当に馬鹿だ、泣きたくなるのを我慢して逆に笑いに変えようと思っている。しかし泣きたい時は泣けばいい。泣いて発散するしかないんだ。


 笑うだけじゃ、痛みは消えない。


「バカだなぁ、お前は」

「へっ?」

「投票数が0なわけねぇだろ」


 俺はため息を吐きながらそう言った。すると少し眉をあげてムッとした表情をしている。


「雄星くんに私の何がわかるの!」

「わからねぇよ?なにも」

「じゃあなんで!」

「でも、投票数が0にならない理由なら知ってる」

「・・・・・・なに?」


 知りたいといった様子で俺に聞いてくる。俺は深呼吸をした。息を吸って吐いて、この時すでに俺の心臓はすごく大きい音を鳴らしていた。


 俺は綾乃に向かって悪戯笑みを向けながら


「だって俺が入れるから」

「えっ、それは・・・・・・つまり」

「もし、超絶美人の女優が来たって、超絶スタイル抜群のモデルが来たって俺はきっと綾乃する」

「え、で、でも・・・・・・」


 動揺しているのだろうか、必死に堪えてきた、涙が溢れそうだったが、目を擦って泣いてないことを主張している。


 そして、綾乃も深呼吸をしている。さっきの俺と同じような感じで、深く息を吸って吐いている。


「一つ聞きたいんだけど・・・・・・」

「なんでもどうぞ」

「どうしてそこまで私を助けてくれるの?」

「それはだな・・・・・・」

「小学生の時も夏乃が迷子になった時もそして今だって私を助けようとしてる・・・・・・教えて、どうしてそこまでしてくれるの?」


 とても簡単な質問だった。前の俺だったら絶対に答えられない質問、曖昧にして逃げるいつもそうしてきた。


 でも今は簡単だった。そんなの決まっている。


「そんなの、好きだからに決まってるだろ」

「すき?」

「実を言うと、俺は小学生の時から綾乃お前に惚れてるんだ」

「あ、、あれ」


 自分の想いを伝えたその瞬間綾乃の瞳から、涙が溢れた。そのあと綾乃の涙は止まらなかった。

 ずっと我慢していたからか、声を出して泣いている。


「綾乃、頑張ったな」


 そう言って、俺は泣きじゃくる綾乃を抱きしめる


「綾乃、今言うことじゃないかもしれないけど聞いてほしい。俺はお前のことがだ。俺と付き合ってほしい。」


 やっと言えた。しかし綾乃は反応する余裕がないのか、俺の告白を聞いてもなにも言わなかった。


 綾乃はそのあと数分で泣き止んだ。


「よしっ!いっぱい泣いたし、元気もらったから、行ってくるね!」

「あぁ、行ってこい」

「うん!雄星くんもその格好似合ってるよ!」


 似合ってると言われても女装をしているので、あまり嬉しくはない。

 綾乃が着ていたらとっても似合うんだろうなと逆に綾乃のシンデレラ姿を想像した。


 俺は頭に付けていた衣装の一つのティアラを自分の頭から外した。


「綾乃、ちょっと」


 そう言って俺は綾乃を呼ぶ。綾乃はどうしたんだといった感じだった。

 俺は手に持っているティアラを綾乃の頭に付ける。


「うん、似合ってる」

「もうっ!・・・・・・・・・ありがと」


 そう言って今度こそ、走って行ってしまった。綾乃の姿が見えなくなったら俺はその場に座り込んだ。


「はぁ〜、やっと言えた。本当に緊張した」


 なんか、一気に疲労が来た気がする。


 戻ろうと思い、また扉を開けて外へ出ると白坂が立っていた。


「僕はなんで君に勝てないんだろうな」


 勝負してたつもりはないんだが・・・・・・白坂は真剣な目で俺の方を見てくる。


「別に、俺はお前みたいに優しくないからな」

「僕だって、優しくないさ」

「いや、優しいよ」


 白坂との会話はそれで終わった。いや、俺が終わらせた。あいつの気持ちに気づいたから俺はあの場所に居ない方がいいと思いすぐに体育館に戻ってきた。


「遅くなりました・・・・・・」

「あら?に行ったのではなかったんですか?」


 と綾乃のお母さんは笑いながら言ってきた。


「意地悪しないでくださいよ」


 本当に、俺が綾乃を探してたって他の人にバレたらどうするだか・・・・・・まぁ、バレてもいいか。


「皆さん!遅くなってすみません!」


 綾乃がステージの1番前で謝罪をしている。


「遅れたんだったら、ポイント減らそうよ〜」


 と客席の誰かが綾乃に対して言っている。綾乃はそんなことはどうでもいい、みたいな感じだった。


「減らしたいなら減らしてください。私は別にミスコン1位なんて欲しくありません!」


 周りがその言葉を聞いてどよめく。


「一つ言いたいことがあるんですけどいいですか」

「ど、どうぞ!」


 司会者も、綾乃の圧に負けて発言を許してしまう。


「私は昨日も今日も告白をされました。しかし私は小学生の時から好きな人がいるのでごめんなさい!その人以外眼中にないですっ!」


 綾乃の口からその言葉を聞いて、俺は振られたんだと思った。

 でも不思議と悔いはなかった。やりきったと感じていたからだろうか。


 言いたいことを言ったからだろうか。


「その私の好きな人を今言います」


 どんな男なんだろうか、俺は顔が見てみたく、どこから出てくる?とキョロキョロと周りを見渡す。


「黒田雄星くん!居るんでしょ?」


 俺の名前が呼ばれ、綾乃の方を見ると、綾乃も俺の方を見ていた。

 なぜだ、なぜわかったんだ?


「ほら、そこに居た」


 そう言って、綾乃はステージから降りて俺の方にトコトコと歩いてくる。

 俺は時が止まったみたいに、固まっていた。しかし心臓は俺の名前が呼ばれた時からバクバクと大きく、そして速くなっていく。


「さっきの返事を返します。私も大好きです!

こんな私でよければお付き合いをお願いします」


 ニコリと笑って、綺麗なお辞儀をする。もちろんダメなわけがない。


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 それを言った瞬間綾乃は俺に抱きついてきた。俺もそっと綾乃を抱き返す。


 こうして、俺と綾乃は付き合うことになった。


◆◆◆


 綾乃はというと結局ミスコンは1位。圧倒的だったらしい。

 メッセージの件は文化祭1日目が終わる頃には削除されていた。


 そして、俺はというと一躍有名になった。女装したまま学年1位の美少女と付き合ったとして。

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