第50話

「さぁ〜て文化祭1日目もあともう少しで終わりに近づいてまいりました!」


 あっという間に1日が終わってしまう。こんなにも早く終わってしまうのか・・・・・・


「しかし、皆さん最後にはやはり!目玉と言っても過言ではない、ミスコンがありまぁーす!」


 周りの男たちが、盛り上がりすぎて野獣のような大声を出している。

 その盛り上がりように俺は苦笑いしている。


「ミスコンッ!ミスコンッ!」


 俺の隣にも1人バカが居た。やれやれと呆れていると、準備の時間があるため10分間の休憩を挟むらしい。


 この間に着替えてこようかなと俺は考えていたのだが、肩を誰かにトントンとされる。

 振り向くと、夏乃とその隣にもお母さんらしき人が一緒に居た。


「お、おぉ夏乃きてたのか・・・・・・えーっと」

「夏乃と綾乃がいつもお世話になっております」

「い、いえ!そんな、こちらこそっ」


 その人は深くお辞儀をしてきた。それに合わせて俺も一旦立ってお辞儀を返した。


「いつもウチの子たちから話は聞いております」

「そ、そうなんですか・・・・・・」

「はい。とても良い人と聞いていたので、ひと目お会いしたかったのですよ」


 その人はふふっ、と笑っている。綾乃と夏乃のお母様ってこともあり、その姿はまさに美人。凄いな白河家と思うほどだった。


「えっと・・・・・・その格好は」

「あっ!これは、劇の衣装でして・・・・・・」

「あっそうだったんですね?男性と聞いていたのでてっきりそういう御趣味があるのかと・・・・・・」

「ありませんよ!!」


 誤解を解いたあとに横を向くと、三村がジトッと俺の方を見てくる。どうやら状況が把握できていない様子だった。


 俺は、しつこく聞いてくる三村にどういう状況かわかりやすく伝えた。


「へぇぇぇ!白河さんの妹ちゃん・・・・・・たしかに似てるかもなぁ〜」


 「こんにちはー」と三村が挨拶すると、夏乃はお母さんの後ろに隠れてしまった。

 さっきまであんなに元気に喋っていたのに。


「三村、怖がらせんなよ」

「い、いや!怖がらせてるわけじゃ・・・・・・」

「おかしいわね、黒田さんとか、他の人にはこうではなかったのだけれども・・・・・・」

「そんな、俺だけ?」

「なんか、きらい」


 「嫌い」と言われ三村は膝から崩れ落ちていた。そんな三村を俺は慰めた。


「くろだ、お姉ちゃんは?」

「綾乃はミスコンに出るらしいから、今は会えないよ」

「この子綾乃に会いたいってずっと言ってたのよ」


 なんと可愛らしい妹だ。そんなことを聞いたら自然と顔の表情筋が緩んでしまう。


「去年は綾乃が1番だったんだぞー?」

「聞かなくてもわかる。お姉ちゃん可愛いもん」


 その言葉にどこか懐かしさを感じた。そういえば初めて綾乃の家に行った時、綾乃が自分で自分のことを可愛いって言ってた気がする。


 まったくこの姉妹は見ていて、とても癒される。


「しかし、それにしても遅いですねぇ」

「たしかに、何をしてるんだろうか」


 すると司会者がステージの前にマイクを持って出てくる。


「実は今、白河さんがこの会場に居なくてですね、実行委員が頑張って探しているのですが、見当たらないらしく・・・・・・先程までは会場に居たのですが」


 綾乃がいない?どこに行ったんだ?綾乃はこの学校の生徒だし、迷うことはないだろうけど何をやっているのだろうか。


 司会者は「誰か知ってる人居ませんかー?」と客席に向かって聞いている。


「黒田、黒田これ」

「なんだよ」


 今それどころじゃないと言おうとしたが、しつこく三村がスマホの画面を見せてきたので、仕方なく三村のスマホを見る。


 そこにあったのは、匿名のグループメッセージと写真があった。タイトルは去年のミスコン学年1位のと書いてあった。


 そこに貼ってあった写真は綾乃の中学の時の写真だろうか、まだ髪の毛がボサボサしていて、俺が小学生の時喋っていた綾乃の姿があった。


「三村、俺やっぱり着替えてくるわ」

「はっ?お前こんな時に探さないのかよ!」

「うるさい」

「あっ!おい!」


 立ち上がると、綾乃のお母さんが俺の方を見つめていた。その瞳は俺を真っ直ぐに見ていた。


「なにか、あったのですか?」

「い、いや?何もなかったと思いますよ。僕は着替えに行ってきます」

「そうですか。にね?」

「はい」


 お母さんにはバレてる気がした。ていうかバレている。お母さんは一言おれに「頼みましたよ」とだけ言ってきた。


 衣装の裾を夏乃が掴んできた。とても不安そうな顔だった。


「お姉ちゃん、まいご?」


 と震えた声で聞いてきたので、とりあえず俺は夏乃の頭を撫でた。


「大丈夫だ俺に任せとけ。迷子を届けるのは今回が初めてじゃないからな」


 絶対にできる。絶対に見つけなければならない。


 しかし、三村は納得していない様子だった。


「みそこなっ・・・・・・」

「三村、シンデレラの主人公って誰だ?」

「はぁ?そんなの名前にもある通りシンデレラに決まってるだろ」

「・・・・・・だよな」

「なにが言いたいんだよ」

「俺は今シンデレラだ。12時までがかかってるんだよ」


 勇気という名の魔法がな・・・・・・。


「だから、なんなんだよ」

「勝負決めてくる」


 そう言って、三村は気づいた。そのあとは三村は何も言ってこなかった。しかし、体育館を出るときに「玉砕したら俺が慰めてやるぞー」と言ってきたので、お前にだけは慰めて欲しくないと思いながらも走った。


◆◆◆


 というか、さっきまで思ってたこと、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん!と、いまさら気づいた。

 顔が赤くなるが、そんなことをいまさら考えても仕方がない。


 俺はドレスが走りづらく、とても邪魔だった。

ドレスを持ち上げながら、ただ走った。

 綾乃が居そうな場所は大体目星がついていた。


「雄星・・・・・・どこ行くの?」


 そんなときだった。壁に寄りかかってた由美が俺を止める。


 こんなときにやめてほしい。いや、こんなときだからこそ、俺が綾乃を探しに来るってわかっていたのかもしれない。


「綾乃のところ」

「ふーん、その綾乃ちゃんって子のところに行ってどうするの?」


 そんなことを聞かれた。心を見透かされてる気分だった。決して良い気分ではない。


「今、アンタが行って余計に悲しくさせちゃうかもしれないよ?」

「どういうこと?」

「たまたま見ちゃったの、グループメッセージみたいなの前の高校生の子が見ててね」


 たしかに、俺は今の状態の綾乃にあってミスコンに出ろ。なんて言おうとしていたの挙句、告白までしようとしていたのか。


 そこで気付かされる。でも、もう後には戻れない。


「もう一度聞く。雄星、綾乃ちゃんのところに行って、どうするの?」

「・・・・・・慰めるさ」

「呆れた、本当にアンタは・・・・・・」

「そして、自分の気持ちを伝える」


 そう言うと、少し驚いた顔をしていた。


「本当に今でいいの?」

「今だからこそだよ」


真剣に由美を見ると由美はニコッと微笑む。俺はその笑顔にホッとしてしまった。


「成長したわね」

「姉ちゃんのおかげだよ」

「そうかしら」

「そうだよ」


 と言って最後に「ありがとう」とだけ言って俺はまた走った。


「あーあ!私も弟離れしなくちゃなぁ、いつのまにか成長してるんだもん」




「頑張れ・・・・・・雄星」

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