第49話

「はい!できた!」

「見てもいいの?」

「うん!その手鏡でどうぞご覧あれ〜」


 そう言われて手鏡を覗き込むと、いつも見ている自分の顔はそこにはなかった。

 あったのは、女性の顔だ。特に肌が白すぎる。

びっくりしている。ここまで変わるものなのか・・・・・・


「どうかな?」

「す、凄いとしか言えないんだが」

「本当に女の子みたいだね〜あっ、お姫様か」


 そうだ、俺は今からお姫様の演技をしなければいけない。


 最初は、姉にいじめられてるシンデレラを演じてそのあとはドレスを着てお城に行って王子様に会うシンデレラを演じる。


 そう考えると、今さら自分で大丈夫なのかと思えてくる。


「よーし!みんな体育館行くぞー!」


 三村がそう言うと、みんなでぞろぞろと小道具や衣装を持って体育館に移動する。


「黒田、大丈夫か?」

「別にもう、今さらだよ・・・・・・」


 本当は嘘だ。大丈夫じゃないかもしれない。さっきから手に人と書いてそれを飲み込んでいる。

 しかし緊張は和らがない。


「そうか、それは期待できるな」

「そういうお前はどうなんだよ」

「俺か?俺はもう足が震えて電動マッサージ器みたいにブルブルだよ」


 三村の足を見ると、確かに震えていた。しかし三村の例えが面白くて、つい笑ってしまった。

 でも、あんなに意気込んでいた三村でさえ緊張していると思うと気が楽になった。


 自分よりも緊張している人を見ると、緊張が無くなるというが、それは本当かもしれない。

 とても安心感を感じた。


 体育館に入り、ステージの袖にスタンバイする。その間セリフを練習する人や雑談をする人、客席を見て緊張してる人がいる。


 俺は衣装を着させてもらっている。自分では着れないのでやってもらっている。


「なんか、お前が黒田とか信じられない」


 と俺に服を着せている男がそんなことを言ってくる。自分でも手鏡で自分の姿を見た時そう思った。やっぱり誰から見てもそう思うんだな・・・・・・


「そんなの俺もだよ」

「声は黒田なんだよなぁ」

「そこで残念がるなよ・・・・・・」

「黒田本当に女子だったらアリ寄りのアリなんだけどなぁ」

「ちょっとマジで本気にするなよ?」


 俺が「やめろよ?」と止めたら少しの間が空いてから「わかってるよ!冗談冗談!」と笑っている。

 今の少しの間が怖いんだけど・・・・・・


「みんなー!集合ー!」


 三村、総監督の集合の合図があったので、みんなが一箇所に集まる。

 さっきまでブルブルと震えている足が今見ると、まったく震えていなかった。


「みんな!円陣組むぞー!」

「総監督。それいいねっ!」


 みんな大賛成だ。みんな肩に手を回し、肩を組むそして一つの円にする。

 

「委員長のためにも絶対成功させましょう!」

「おっーー!!!」


 足を一歩差し出して、みんなの声がステージ袖に響き渡る。多分この体育館にも聴こえているだろう。


「そういえば、俺の声はどうすればいいんだ?」

「んーと、それはなぁ・・・・・・」

「まさか・・・・・・・・・ないのか?」

「まぁ、裏声?」

「ふざけんな!」

「いや、地声でいいよ。その方が面白い」


 本当に大丈夫なのか?と思ったが、三村がそのあとに「声は最初は違和感を持たれるかもしれないけど、段々と観客が慣れてくる」と言っていた。


 それに今さらどうにかしようと思っていても、どうにもならない。だったらいっそのこと、精一杯今出来ることをするしかない。


 はぁっっ。とため息を吐く。


「ごめんねっ黒田くん。迷惑かけちゃって」

「委員長・・・・・・」


 委員長は責任を人一倍感じていると思う。だから成功させなければならない。


「大丈夫だよ、全然気にしてない」

「みんなに言ったら、みんなもそう言ってた」

「いい奴らだな」

「うんっ。本当に・・・・・・」


 委員長はシンデレラ役ができなくなったので、音響の仕事の手が足りなかったので、音響の仕事を手伝うらしい。


 それはよかったと思い。聞いた時はホッとした。


「なんか、今の黒田くん話しやすい」

「えっ?いつもこんな感じじゃない?」

「えっとね、女装してるからかな?」

「委員長まで、やめてくれ・・・・・・」


 委員長まで、俺をからかっているのか・・・・・・と思って少し悲しくなった。

 どんだけ周りに影響力あるんだよ。と苦笑いしてしまう。


「おーい!もう少しで、始まるぞ!」


 その一言で周りに緊張感が走る。ようやくいや、遂に俺たちの劇が始まる。


 劇は最初、俺がシンデレラが掃除をしているところから始まる。そして、姉たちに酷いイジワルをされているところから始まる。


 劇はどんどん進んで、とても順調だった。問題にしていた俺の声も、最初は笑われていて、馬鹿にされるような笑いだったが三村の言う通り、物語が進んでいくと、体育館内は静かになっていた。


 寝ているのかと思い、自分が出ていない場面の時チラッとステージの袖から客席を覗くと、みんな真剣に観ていた。


 それを見て、なんか心が熱くなった。まだ、劇が終わってないのに目頭が熱くなった。


 最後のシーンに入る。王子様がガラスの靴を頼りにシンデレラにもう一度会って結婚するシーンだ。


 最後、シンデレラ役の俺と王子役の三村が抱き合う。しかし、抱き合う前に少しだけ、拒否してしまったが、すぐにこれは演技だと言い聞かせた。


 劇が終わり照明が消えて、幕が閉じる。

 すると、ものすごい拍手が客席から聞こえてきた。


「これは、大成功ということでオッケー?」


 みんながポカンとしている。なんか夢のような感覚だった。俺だって今まで、シンデレラをしていたのか?と思うくらいだった。


「誇れお前たち。大成功だ」


 先生がステージ袖にきて、一言そう言った瞬間

俺たちは各自で喜んだ。

 静かに喜ぶ奴もいれば、身体全体で嬉しさを表現する奴。


 女子の中には、泣いている女子までいた。


 俺はやりきったが強かった。色々あったが、やってよかったと思えた。


「よーし余韻に浸りたいところ悪いが、次の発表もあるから、お前たち、すぐに準備して外出るぞー」

「はーい!」


 そう言って、先生がステージを出る生徒1人1人に「おつかれ、頑張ったな」と言って、ハイタッチしていた。


 それを見て俺は、こういうのなんか良いな。としみじみ思った。


「さて着替えに戻るか」

「いや、もう次の始まるし、着替えてたら途中からになっちまうし、このままでよくないか?」


 三村にそう言われ俺は、いや俺だけじゃなくクラスの奴全員が劇の衣装そのままで座って観ていた。


「じゃあ、いっか・・・・・・」


 俺は三村の提案を了承して、シンデレラの衣装で見ることになってしまった。

 今考えると、意地でも帰ればよかったと思った。


 




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