第48話

「次の方どうぞ〜」

「ありがとうございます」


 生徒は無料で入れるらしいので、俺は生徒手帳を受付の子に見せると本当に無料で入れた。なんてお得なんだろう。


 中に入ると薄暗く、なんかとても雰囲気が出ている。


 奥に進むと、雪山にいる設定なのか、ひゅゅおぉと聞こえてくる。

 その音が聞こえるあたりから、雪女が黙ってこちらを見つめてくる


 とても白く、人形かと思うくらいに美しかった。俺は中々先に進めなかった。


「あれっ?怖くない?」

「ま、まぁ・・・・・・怖いというより、美しい」

「えっ・・・・・・・・・」

「そんなに落ち込むことか?」

「だって、みんなのこと怖がらせたいんだもん!」


 そんなことをを言ったって、しょうがない。それは綾乃も分かっているだろう。

 だが、俺や他の人の反応の少し納得いってないらしい。


「さっきなんて、小さい幼稚園児くらいの女の子がお母さんと一緒に入ってきて、ここに来るまで泣いてたのに、私をみた瞬間泣き止んだんだよ?おかしいでしょ!」


 あー、多分その女の子も俺と同じで人形だと思ったんだろうか。

 泣いてる幼稚園児を泣き止ませるって、どんだけ凄いんだよ・・・・・・本人はまったく嬉しそうじゃないけど・・・・・・


「じゃあ、そろそろ」

「あっ!劇見に行くからね!」

「うん」

「頑張って!」

「綾乃もなー」


 綾乃は俺に手を振ってくるので、おばけ役がそんなことをしていたら、怖がらせらんないだろと思ったが、俺はそんな思いをグッと飲み込んだ。俺も手を振りかえした。


 おばけ屋敷のあとは、色々なクラスを見て回った。それをしていたらもう時刻は13時を過ぎていた。


「そろそろご飯食べとくか・・・・・・」


 3年生の教室にいき、ご飯屋をやっているクラスに入る。

 すると、扉近くの席に座っていた人が、俺の名前を呼んだ。


「黒田ー、一緒に食べようぜー」

「三村っ?何してるんだよ」

「見ればわかるだろ?ご飯食べにきたんだよ」


 当然といえば当然だ。逆に意味もなくここに居座っていたら多分3年生につまみ出されているだろう。


 三村は俺のことを自分が座っていた対面に俺を座らせる。その隣には蒼太がいたが、やけに疲れているようだった。


「どうした?蒼太」

「本当に実行委員、疲れるんだけど」

「そっか、すごく大変そう」


 蒼太は本当だよー、と言って両手を上にして背伸びをしている。


 ふと綾乃が実行委員だったことを思い出した。さっきおばけ屋敷で会った時は全くそんなこと思い出さなかったのに・・・・・・綾乃も大変なのだろうか。


「あ、綾乃さんは今日仕事ないよ」

「心の声を読まないでください。エスパーか」

「やっぱり知りたそうな顔してたし」

「そんな顔してたか?」


 「うん。してた」とハッキリ言われ、恥ずかしくなってしまう。

 俺は自分の表情を見せないように、下を向いて、自分の顔を隠した。


「そういえば実行委員って仕事何やるんだ?」

「んー、主に準備、片付けが仕事としては1番多いかな」

「地味で1番めんどくさいやつだな」

「あとはー、今日やるミスコンの集計を記録したりとかかな」


 ミスコン・・・・・・綾乃も出るんだったよな。去年はぶっちぎりの学年1位だった。しかし本人は興味がないと言っていたし、今年は出るんだろうか。


「白河さん今年出るのかな」

「出るらしいよ、今年もクラス全員から推薦だって」

「ク、クラス全員?凄いな・・・・・・」

「まぁ、白河さん差し置いて出たいって人は居なそうだもんね」


 そんな話をしていると、蒼太と三村が注文していた品が届いた。

 それを見て俺もご飯を食べに来たことを思い出し、ようやく注文した。


 2人と喋っていると、自分が何をしに来たのかを忘れてしまうので困る。


 注文するのが遅れたせいで、俺は運ばれてきた品を急いで口にした。


 味わいたかったのだが、そうもいかないらしい。2時前には集合なので、今の時刻は1時30分を過ぎたくらいで、もう集合の時間がきてしまう。


「ご馳走様でした」

「よっしゃ!じゃあそろそろ行くか!」

「やばい、なんか急に緊張してきたんだけど」


 そう言って立ち上がる。心臓はバクバクと激しくなっていく。

 今から緊張してどうするんだ。と頭の中で思っても心臓が静かになることはない。


 ハッキリとバクバクと俺の耳に伝わる。


 教室に入ると、もうみんな揃っていた。俺たちが1番遅かったらしい。


「総監督が1番遅くてどうするんだよ!」


 三村はこれに対して「1番遅い方が、みんなの気が引き締まると思った」と言っていた。


 素直に話が盛り上がって遅くなったとは言っていなかった。


「じゃあ各自最終確認で!」


 そう言われて、俺はセリフの確認をしようとしたが、手芸部の皆さんに捕まった。


「大丈夫?着れる?」

「うん、凄いなピッタリだよ」

「やったー!」


 手芸部のみなさんはハイタッチをしている。なぜかそれに俺も混ざっていた。ハイタッチをしたあとやっとセリフの確認ができると思ったら、今度はメイクをすると言われ、数名の女子に捕まった。


 おいおい、マジか。

 セリフの確認ができないと、少しどころではなく不安になる。


 俺は女子に手鏡を渡された。最初はなぜ渡されたのか分からなかった。


「何これ?」

「手鏡だよ!黒田くん手鏡知らない?」

「それは、わかるんだけど・・・・・・なんで渡されたのかわからない」

「最終的にメイクが終わったら自分で確認するためだよ!」


 納得した。確かに自分の顔がどうなっているのかは自分じゃ見れないからな。


 この時の俺は、セリフの確認ができない不安と劇に対する緊張、自分の顔がどう変化するのかの好奇心でぐちゃぐちゃだった。

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