第47話

 今日から文化祭が始まる。家の様子はいつもとあまり変わらない。しかし、由美がせっせとメイクやら髪の毛やらで俺よりも忙しそうだ。


 由美とは仲が悪くなったというわけではない。今朝だってドラマの話やアイドルの話を俺にしてきたでも俺はアイドルとかはあまり詳しくないので、適当に聞き流していた。


 朝食を食べたあと、制服に着替え学校に向かう。学校に向かう途中改めて、今日が文化祭1日目なのだと実感する。


 いつもと変わらない道なのに、少し新鮮に感じてしまうし、少し長く感じてしまう。


 学校に着き、教室に入るとみんな最終確認をしていた。


「黒田!シンデレラバッチリか?」

「まぁ、セリフはなんとか・・・・・・」

「よしっ!なら問題ないな!」


 そうだ、セリフならなんとかなる・・・・・・演技は聞かないでほしい。

 しかし、俺でも来てくれた人を楽しませたいって気持ちはある。


 不思議と緊張はしていなかった。


「おーい!みんなー俺たちの劇は最後のほうだからお昼食べて2時前には集合なー?」


 三村がクラス全体に伝えている。なんやかんや総監督三村は有能だ。あ、総監督兼王子役か。


「黒田ー!一緒に見て回ろうぜ!」

「えっ?俺セリフの確認とかしようと思ってたんだけど・・・・・・」

「バカっ!今しか他のクラスの出し物行けるの今しかないんだぞ!」

「明日もあるだろっ・・・・・・」


 つべこべ行ってないで着いてこい!と強引に腕を引っ張られ、黒田と一緒に文化祭を回ることになった。


「そ、蒼太は?」

「実行委員は受付を当番制だから、朝だけは行けないんだとよ。あと30分もしたら来る」

「そ、そうか・・・・・・」


 どうせなら蒼太とも回りたかったのだが、実行委員の仕事なら仕方がない。

 1人で三村の相手をするのは、少々体力的にキツいからなと笑ってしまう。


「あれやろーぜ!」「おい!あれすげーぞ!」など三村は自分が王子様役をやるのを忘れてるじゃないかと思うくらい楽しんでいた。


「おい、セリフ覚えてるだろうな」

「覚えてるさ・・・・・・最高の劇にしような」

「あぁ、するさ絶対」


 三村は俺の返事に驚いていた。いつもの俺だったら「まぁ、頑張る」など、失敗するかもしれない可能性があるのに、絶対とは言い切ってこなかった。


「なんか、今日の黒田カッコいいな」


 はっ?なんだからかってるのか?と目を細めて、三村に対して睨むと、三村は「本心だよ」と言ってきた。


 なんで急にそんなことを言ってくるんだと照れくさくなってしまい、ポリポリと頬をかく。


「ありがとう」


 俺は一言三村にお礼を言った。


◆◆◆

 三村とはぐれてしまった。さっきまで一緒に居たんだが、人混みに揉まれたあと、俺の隣には居なかった。


 この歳にもなって迷子とは・・・・・・情けない。と三村のことを少し馬鹿にしていたが、よく考えてみれば、三村からすれば俺が迷子ってなるのか・・・・・・


 まぁ、三村にはメッセージを送っておいたし、これで大丈夫だろう。


「雄星っ」


 後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、由美がお祭り気分で楽しんでいるのがわかる。


 手には唐揚げに焼きそば、いちご飴に風船。頭には受付を済ますともらえる無料のカチューシャをしている。


「どんだけ楽しんでるの・・・・・・」

「いいじゃない!文化祭って後ろに祭りの文字がついてるでしょ?祭りなら、精一杯楽しまなきゃ、損しちゃうわよ!」

「そりゃそうだけど・・・・・・羽目を外しすぎないでね?」

 

 由美はそれを聞くとOKサインを指で作り「オッケーオッケー」言っている。本当に大丈夫か心配になるが、なんだかんだ由美の事は信用してしているので、やましい事は絶対にしないとわかっている。


「俺たちの劇最後らへんだから」

「えっー!なにそれ〜わざわざ教えてくれるの〜?お姉ちゃんにきてほしいんだ?そうなの?そうだよね!」


 そう言って、由美はくっついてくる。こんなに人がいる前でくっつかないでほしい。

 周りの人も結構こっちを見てる人多いし。


「な、なにすんだよっ」

「さてさて〜次はどこに行こうかな〜」


 由美には周りの目など、全く気にしてないように見えた。というよりも気にしていないだろう。


 俺も劇のことは今は忘れて、この文化祭を楽しむことに決めた。

 まず初めに、ジュースや飲み物を食べ歩きした。ここで1人というのが、また悲しい。


 俺は綾乃のクラスがやっている、おばけ屋敷に足を運んだ。

 しかし、結構並んでいて、すぐに入れるというわけでもなさそうだ。


 俺が最後尾に並ぶとトントンと肩を叩かれる。

 そこには、また由美がいた。何してるんだという視線を送ったが、由美はニカニカと笑っているだけだった。


「また会ったね〜」


 もしかして運命?などと言っているので、断じて違うとハッキリ否定した。


「あっ!そうだ!一緒に入ろうよ〜」

「えっ・・・・・・」

「なによ〜嫌だって言うの?」


 別に他の場所なら一緒に行ってもいいんだが、ここには綾乃がいるし、できれば一緒に行きたくはない。


 俺が返事をしぶっていると、由美は何かに気付いたのか、ニヤニヤしながら顔を近づけてくる。


「ねぇ雄星?ここの前にどっか寄った?」

「食べ歩きとかしてたよ」

「なるほど〜」

「な、なんだよ・・・・・・」


 由美はうんうんと縦に頭を振っている。なんか答えを焦らされてるみたいで、モヤモヤする嫌な感じだ。


「このクラスに好きな女の子いる?」


 それを聞いてギクッとしてしまった。なんでこんなにも勘が鋭いのだろうか。

 兄弟だから、俺のことをわかるでは済まされない。済ましたくないぞ。


「ま、まぁ」

「あら素直。否定するかと思ってた」

「あーもう、最悪」


 「なんでよー」と由美は嘘泣きのフリをしている。しかし、由美がそこで止まるわけがない。


「で?誰なの?あっ!あの猫の着てる受付してる子?えっ、まって乳でか!」


 今の高校生やば〜と言いながら笑っている。しかし言われると気になってしまい、やはり男なので、見てしまう。


「い、いや。そうかもしれないけど・・・・・・」

「はいはい、わかってるわよっ。私はあとでくるから、1人で行ったらっさい」

「う、うん」

「あ、びっくりして漏らしたりしないでよぉ?」

「し、しないわっ!」


 全く三村よりも疲れる。まさにマシンガントークだ。最後にからかってくるところも、由美らしい。

 あと、もう少しで順番が回ってくる。


 綾乃もなのだが、純粋におばけ屋敷を楽しみにしている自分がいる。

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