第46話

 俺はポケットの中の小銭をチャリンチャリンと鳴らしながら歩いていた。その時は特に何も考えていなかった。


 すると、夏乃が遊んでいた公園にきた。夜ということもあり、ここで幽霊が出てきてもおかしくないという雰囲気だった。


 公園の外にある自販機でカフェオレか温かいお茶で迷って自販機とにらめっこしていると、公園の中な人がいる。


「あ、あのっ!」


 周りが静かということもあり、会話がはっきりと聞こえる。

 1人ではないことがわかる。


「ぼ、僕と付き合ってくださいっ!」


 まさかの告白だった。人の告白を聞く趣味はないが、これは仕方ないだろう。

 それで、相手の方の返事は・・・・・・と何故か自分まで緊張していることに気がついた。


「こ、これで5回目ですよ?」

「それでもあなたを諦められないんですっ!」


 ド、ドラマみたいだな・・・・・・初めてそういう場面に鉢合わせた。

 しかも5回告白してるなんて、4回断られたのにまだ好きなのか・・・・・・


 しかし、その男性の気持ちがわかる気がした。俺も、とし告白して綾乃にフラれたら絶対にすぐには諦めきれない。


 俺だけじゃない。大抵の人間がそうだろう。


「ご、ごめんなさいっ!」


 彼の告白はその一言で終わりを告げた。自販機でカフェオレを買って、公園に入るとさっきフラれた男性だろうか、公園のベンチに座っている。


 その顔は今にも泣きそうな顔をしている。


「あの・・・・・・隣いいですか?」

「えっ?・・・・・・い、いいですよ」

「ありがとうございます。この公園ベンチここしかないんですよ」


 フラれた男性の方は、フラれたにもかかわらず快く俺が隣に座ることを了承してくれた。


「あの、一つお聞きしてもいいですか?」

「はい?なんでしょうか」

「盗み聞きするつもりはなかったんですけど、失礼ですが、フラれたんですか?」

「あっ、聞こえてましたか・・・・・・実は、はい」


 男性がため息を吐く。それはそれは長かった。


「5回告白したんですか?すごいですね」

「5回とも全部振られてますけどね」


 あははは。と笑えないのに、無理して笑おうとする。


「一つ相談があるんです。俺には好きな人がいるんです。でも自分がヘタレで告白すらまだしてなくてチャンスを無駄にしてしまうんです」


 その男の人は、黙って頷いていた。それから俺はその男の人に自分が思ってる全てを話した。

 その間、男の人はずっと相槌すらせず、黙って聞いていた。


 俺が話終わった頃に「なるほどね」と一言呟く。


「僕も前まですごくヘタレだったよ。告白する勇気なんて持ってなかった」

「えっ?そうなんですか?」

「うん、君より酷かった。彼女をまだ追うことしか出来なかったんだ」


 話を聞いてビックリした。5回も告白している人が最初は目で追うことしか出来なかったとは。


「それである時思ったんだ、もし他の人と付き合ったら、どうしようってね。もし付き合ったら僕は寝込んだと思うな、ショックと自分に対する悔しさで」

「自分に対する悔しさ?」

「うん、何も出来なかった。何もしてこなかった自分にね・・・・・・そうならないために、フラれてもいいから、勝負をすることにしたんだ」


 それを聞いて。由美が言っていたことを思い出した。由美はこういうことを言いたかったんじゃないだろうか、と。


「ピッチャーにビビってバッターがバッターボックスに立たなかったら勝負すらできないもんね」

「バッター・・・・・・」


 俺がそう呟くと、男の人は「ごめんっ!野球じゃ分かりづらかったかな」と言って申し訳なさそうにしている。


 言いたいことはやはり、勝負から逃げるなということだ。

 しかし、それもこれもが必要な行動であってそれを前提に話が進んでいる。


「いいえ、とても分かりやすくて、参考になりました。ありがとうございます。」

「そ、そっか・・・・・・ならよかったよ」

「何か飲みます?話を聞いてくれたお礼に・・・・・・」

「いや!いいよ!僕も話を聞いてもらえたし」


 俺は男の人が言うほど話を聞いてはいない。たまに話される男な人の好きな人の話とか、好きな人に告白した場所とか、1回目の告白とか、そんなことを相槌を打ちながら聞いただけだ。


「俺は全然・・・・・・」

「それでも僕は誰かに話を聞いてもらえただけで、心がスッキリしたよ」

「最後に一つだけいいですか?」

「うん、いいよ」


 この質問を最後にしたかった。この人だからこそ答えられる。質問だった。


「その人を諦めることはしないんですか?」

「・・・・・・うーん、次の告白が上手くいかなかったら考えるかな?」

「本当は今日フラれたら諦めようかと思ってたんだでも、君に話してやっぱり好きなんだって再認識したよ」

「ごめんなさいっ。こんな質問して」

「いや、役に立てて嬉しいよ」


 公園の街灯がより一層明るくなった気がした。


「あっ、一つ僕が自信を持って言えることがある」


 そう言って、男の人がベンチから立ち上がる。


「勇気とはだよ」

「魔法・・・・・・」


 そう言って、男の人は電車があるとかで帰ってしまった。


 俺も、もうそろそろいい時間だろう。ふと手に持っているカフェオレの缶を見る。

 それで俺は眠れるだろうかとそのあとのことを考えた。


「あっ、名前すら名乗ってなかった・・・・・・」


 でも、名前を名乗らなかったからこそ、何か通じ合えるものがあった気がした。

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