第44話

 文化祭まであと1日に迫った。みんな緊張しているし、少しピリついている。

 衣装の微調整や小道具の色塗りなど必死に頑張っている。


 でも、必死に頑張っているのは俺たちも同じだった。俺の演技もやっと様になってきたところだ。


「今のそこ大事なところだから噛まないように」

「は、はいっ」


 劇のメンバーも気合が入っている。劇のメンバーは衣装を着ながら練習している。そこでキツかったり緩かったりしたら微調整するという訳だ。


 俺はとてもぴったりだった。さすが手芸部の皆さんとても綺麗に仕上がっております。


「よーし!それじゃあリハーサル始めるぞー」


 体育館でリハーサルが始まった。リハーサルは順調に進み、どんどん場面は終盤に近づいてきた。


 その時だった。次の場面に切り替わる為照明を一旦落として、小道具を入れ替えてる途中に委員長が小道具に足を引っ掛け転んでしまった。


「ストップストッープ!!」


 それに気づいた三村がすぐさまリハーサルを中断させる。

 委員長が足首をおさえている。嫌な空気が漂う。


「委員長大丈夫?」


 みんながそう言って、心配してる中1人全く心配していない奴がいた。


「あれっれぇ?これって〜委員長が出れないってことになると〜どうなるの〜?」


 くろみがそんなことを言って、劇のことを心配しているのかと思ったら、その顔はウザいほどに、ニヤニヤしていた。


 くろみはずっとシンデレラ役をやりたがっていた。もし交換するとなると、自分が立候補するに決まっている。


「ん〜、そうなると交換するしかないかな」

「今から新しい人は無理だよねぇ」

「まぁ、厳しいな」

「じゃあ、セリフ覚えてる人だったらイケるよね〜」


 そう言って、くろみが調子に乗ってくる。自分がやりたいというのを顔だけでなく体全体でアピールしている。


 しかし、三村の目には止まらなかった。


「うーん、イメージが違うんだよなぁ」

「はぁっ?!今そんなことを言ってられる余裕はアタシらにないでしょ!」

「んー、そうなんだけど・・・・・・」


 頑張れ三村!俺はくろみとは劇をやりたくないっ素直にくろみの悪口だが、俺は白坂みたいに優しくないので、許してほしい。


 三村がキョロキョロと探して出来そうな人を探している。しかし、今からなんて言われて誰もやってくれる人は居ないだろう。


 もう、ここはくろみに頼むしかないな。俺はそう悟って、腹を括った。


 しかし三村がこっちを見た瞬間あっ!という表情をした。


 まさかとは思った。しかし三村のことだ俺のことをシンデレラにするつもりだろう。しかしそれは三村が納得しても他の人が賛成するかは別の話だ。


「黒田・・・・・・お前シンデレラのセリフ覚えてるって言ったよな?」

「言ったけど・・・・・・無理だろ。まず体格が違うし、衣装だって。それにみんなが賛成しない」

「それはどうかな」


 そう言って三村が悪い表情をする。なんか悪役っぽい笑みを浮かべていた。


「一応聞くけど、委員長続けられそう?」

「・・・・・・で、できますっ。みんなに迷惑は」

「って言っても、足を引きずってる時点で出来なさそうだね」

「無理だな。結構腫れてる保健室に行くぞ」


 そう言って先生が委員長を保健室に連れて行く。委員長が保健室に行く姿を見た時、その背中からは悔しさと悲しさが伝わってきた。


「みんなーもし、黒田が委員長の代わりにシンデレラをやるってなったらどう思う〜?」


 三村の声が体育館に響く。しかしみんなの反応はない。くろみも最後のチャンスがこれしかないのでさっきから反対している。


「でもさ、黒田くんがシンデレラをやったら、王子様は誰がやるの?」


 俺もそれは思った。俺しか練習していないのに、できるわけがない。


 それに、くろみだって元々自分の役があるのにシンデレラまでさせるのは・・・・・・と、くろみを心配する声も上がっている。


「三村・・・・・・もう、どうすることも・・・・・・」

「じゃあ、俺が王子役をできると言ったら?」


 三村の奴とんでもないことを言い出した。王子役をできるなんてハッタリをかけやがった。


「おいっ!ハッタリなんてかけるなよ」

「ハッタリなんかじゃないさ」

「は?どういうことだ・・・・・・」


 三村を見ると、目の下にクマがあった。


「お前まさか」

「総監督がみんなに教えるためには、まず自分が覚えなきゃいけないよな」

「俺、お前に恋しそうになったわ」

「やめとけやめとけ」


 三村はまんざらでもない顔をしていた。


「それなら面白いかも!」


 女子の1人が賛成の声を上げた。すると「俺も」や「私も」など、どんどん賛成の声が挙がる。


「じゃあ決まりっ!一件落着だな」


 俺もそう思ったが、こうなると俺がシンデレラをやることが確定した。


 でも、もうみんなそれで決まったことになってるし、今何を言っても俺がシンデレラだろう。

 くろみ、なんか悪いな・・・・・・


「じゃあ、衣装を今から直してくるよ!」

「悪いな無理言って」

「仕方ないよ、まだ午前中でよかった。それに私たちは手芸部だから、いけるいける!」


 すると、他の裁縫ができる女子たちが手伝いに、体育館を出て行く。


「リハーサル今からでもやろうぜ」


 幸いにも今シンデレラの衣装を直しているのは、劇の中で役のない人たちだったので、今残ってる人でリハーサルはできる。


「・・・・・・お前からそれを言うとはな」


 そう言って、三村が驚いていた。


「みんな頑張ってるし、やれることはやるさ」

「よーし!みんな、リハーサル最初からやろう!」


 リハーサルが再開した。本当にとんだ文化祭になりそうだ。

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