第43話
今日から文化祭5日前になったので、学校の授業が全て文化祭準備の時間になる。
それに対して、生徒はとても喜んでいる。
「よっしゃぁぁ!やっていくぞー!」
三村が気合を入れるため、教室に馬鹿でかい声が響き渡る。
劇のメンバーは黒板の前に集められる。演技の練習とセリフを覚えているかチェックするらしい。
「じゃあ、まずはシンデレラ役の委員長から!」
そんな感じで、セリフの確認をしている。
「委員長はもう少し声のボリュームを上げないと全然聞こえないかも・・・・・・」
「す、すみませんっ」
セリフを覚えているかだけでなく、指摘もされるらしい。当然といえば当然だ。もう文化祭まで5日しかない。
舞台のセットは衣装も出来上がっていて、あとは小道具だけらしい。
「じゃあ次は黒田!」
「お、おう」
こういう時、緊張しない方法を教えてほしい。
三村が俺の演技を聞いて、うんうんと頭を縦に振っている。
「よしっ、セリフは覚えてるな」
「まぁ、それはな」
「だが、まったく心がこもってない!お前はロボットか?充電足りてるか?」
「そ、そこまで酷かったのか・・・・・・」
少しショックだ。昨日声トレの動画で見て、自分ならできると思い込んでいた。
結果はダメダメだったらしい。
「ちゃんと相手のことを思え」
「わ、わかったよ」
「よーし次ー!」
俺のチェックは終わった。たぶん三村はもっと色々言いたかったのだろう。
しかし、俺の顔を見て、しょうがないみたいな顔で修正点をそれだけにしてくれた。
それだけ、と思うがそのそれだけが難しい。
◆◆◆
「お前ら〜気をつけて帰るんだぞー」
帰りのホームルームが終わり、部活がある者は部活へ、ない者はバイトや家に帰る準備をする。
俺は一足先に下駄箱に向かい、走って帰ろうとしていた。その理由は三村が劇組を残すとか言ってきたので、俺はダッシュで逃げてきた。
「なにが総監督の命令だ!」
俺は道端に落ちていた、小石を思い切り蹴る。するとコロコロと転がって、草むらの中に消えた。
「イライラしてるのかな?」
後ろを振り返ると綾乃が笑いながら立っていた。
「い、いや別に・・・・・・」
「そういえば聞いたよ〜王子様役やるんだって?」
綾乃は、元気よく「すごいね!」と言って隣でニコニコ笑っている。
「別にすごい物じゃないよ。強制だったし。」
「でも、みんな適任と思って反対しなかったんでしょ?それって凄いことじゃん!」
「そ、そうか?」
「そこは素直にありがとうって言うところだよ?」
「ありがとう」
綾乃は「どういたしまして」と笑っている。急に褒められてびっくりしたが、嫌な気分は全くしない。
「綾乃のクラスは何やるんだ?」
ずっと気になっていたことを今やっと聞けた。
「私のクラスは、おばけ屋敷だよー!」
おばけ屋敷かぁ、いかにも文化祭って感じがしてとてもいい。
「へー、雪女か?」
「えっ!なんでわかるの・・・・・・」
「だって似合いそうだもん」
「やったー!・・・・・・ってそれ褒めてないよね?」
「いや、褒めてる褒めてる」
「嬉しいような嬉しくないような・・・・・・」
綾乃はうーんといった表情をしている。話は文化祭の話で盛り上がった。
そして、いつの間にか俺の王子役の演技の話になっていた。
「心がこもってないか〜難しいねー」
「三村のやつ無茶なこと言いやがって」
「三村くんは雄星くんだから言ったんじゃないかな?」
「どういうことだ?」
「三村くんは、雄星くんだったらできるって思ってるんだよ!」
綾乃は「絶対!」と言って念を押してくる。その時ぐいっと顔を近づけてくるので、いい匂いが鼻を刺激する。
「ち、近い・・・・・・」
「あっ、ご、ごめんっ」
「だ、大丈夫・・・・・・」
2人とも目を逸らしてしまう。なんか気まずい。俺はもう一つ聞きたいこと、いや言いたいことを思い出した。
「あのさ、綾乃・・・・・・」
「ん?なに?」
「後夜祭のダンス、踊る相手いる?」
「まだ決まってないよ?雄星くんは?」
「俺は、決めてる人がいるけど、その人が一緒に踊ってくれるかわからない」
「ふ、ふーん誰?」
そう言って、綾乃はさりげなく踊りたい相手が誰かを聞いてくる。
俺はすぅっっと息を吸った。
「あ、綾乃っ!俺と踊ってくれないか?」
それを聞いた綾乃はピタッと止まった。やばい勢いで言ってしまったから、雰囲気とか全然ない。
何やってるんだおれ!と心の中で自分を責め立てた。
「うんっ!いいよっ!」
綾乃はニコッと微笑んで、笑顔を向けてくる。その表情は、赤みを帯びていた。
耳まで真っ赤だった。
「じゃ、じゃあ!私ここで!」
「えっ!あ、あぁ」
「王子様役頑張って!!」
「綾乃もな・・・・・・」
そう言って、勢いで行ってしまった感があったが綾乃と後夜祭を踊れることに決まった。
たぶん綾乃と踊れるチケットを売れば一万円くらいで売れると思う。
しかし未だに夢かと思ってしまう。次第にジンジンと顔が熱くなっていく。
熱くなった頬をぎゅっーとつねると、普通に痛かった。
安心した。夢オチとかいう最悪な展開じゃなくて・・・・・・
俺は家に帰ったら、台本のチェックをした。そのあと心を込めろという三村の指摘を治せるように、自分の部屋で練習した。
練習するときにシンデレラ役のセリフも自分で言って練習している。
その方が場面を想像しやすいし自分のセリフを言う間まで練習できる。
そんなこんなで文化祭まで時間がない。俺は自分の部屋でそんなことを思った。
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