第42話

「それでは、今日は昨日言っていた、シンデレラの役を決めたいと思います」


 遂にきた役決め。俺は昨日の晩からソワソワしていた。三村が急に俺には裏方はできないとか言ってくるから悪い。


 他の脇役というか主役以外にやはり票が集まる。主役はみんな白坂がやると思っているのだろう。立候補が誰もいない。


 1番左に目立たないが裏方と書いてあるところには、まだ5人しかいなかった。

 これは希望通り裏方をできるんじゃないか?そう思っていた。


「あの〜王子様役やりたい人とシンデレラ役やりたい人いませんか?」

「はーい!シンデレラくろみやりた〜い!」

「く、くろみさんですかっ・・・・・・」

「なに〜?なんか文句あるの?みんなやらないからやってあげようって言ってるんじゃん」

「そ、そ、そうですよねっ!ごめんなさい」


 白坂が王子役だからなのか、誰にも譲らないという気迫を感じる。しかし賛成のものが居るか心配だ。


 すると、流石にくろみじゃ劇が台無しになると感じとったのか、男子の陽キャグループの奴らが


「くろみはどっちかというとシンデレラをいじめる姉役の方が似合ってるだろ〜」


 と笑いながら軽く言うと。みんなそれに大賛成。くろみはシンデレラではなく、シンデレラの姉役をやることになった。


 くろみはその意見に対して全く納得がいっていなかった。


「じ、じゃあシンデレラは誰がやれば・・・・・・」

「んー、委員長でいいんじゃない?」

「えっ?!私ですか?む、無理ですよ・・・・・・」

「えっー!!イケると思うけどなぁ」


 女子の数名が委員長を推している。たしかに、最初はいじめられているシンデレラ役に失礼かもしれないがピッタリだと思ってしまった。


 しかも、メガネではなく、コンタクトにしたおかげで、周りからも可愛いと言われる声が多くなったと聞く。


 なんか先日、告白されたとか噂が男子の俺まで流れてきた。


「だって、私み、みんなより可愛くないし」

「それ嫌味でしょ!めっちゃ可愛いよ!」

「そ、それにセリフだって覚えられないし」

「そこら辺はなんとかこっちでカバーするから」


 「それとそれと」と委員長は自分がシンデレラをできない理由を頑張って探しているが、女子は委員長を逃す気はないらしい。


 はやく観念しなさいみたいな目で委員長を見ている。


「期待に応えられないかもしれませんが、それでよければ・・・・・・」

「よしっ!決まりっ!」


 そう言って、シンデレラ役は決まった。しぶしぶ委員長が自分がやってもいいと了承した。

 しかし、問題は王子様役だ。


「王子様役はー」


 周りからは「やっぱり白坂君でしょ」や「優太しか居ないね」など白坂優太という男がみんなの中では既に王子様役をやると思っていたのだろう。


 しかし、頼まれたら断るということをしない男なので、どうせまた、「頑張るよ」と眩しい笑顔を周りにして今日ももう終わりだろう。


 そう思っていた。しかし予想とは全く違かった。


「ごめんっ、実行委員で僕は王子様役はできない」

「あっ、そっか・・・・・・」

「本当にごめんよ」

「それは全然大丈夫だけど」


 白坂がやらなかったらじゃあ誰がやる?といった雰囲気になってしまった。


 こんな空気の中、手を上げて「俺がやる」なんて言える奴がいるのだとしたら、そいつは前世は勇者かなんかだろう。



 ここは脇役で被っている男子がやるのが妥当だろう。ここにきて男子達の空気が重くなる気がした。


 裏方志望の俺には関係のない話だったので、今日家に帰ったら何をするかをこの時点で考えていた。


「お、俺の方がネズミ役上手にできるし」

「はぁっ?!そんなのわかんねぇだろ!」


 など醜い争いを始めた。まったく何をしているんだ・・・・・・


「白坂君は誰がいいとかない?」

「う〜ん俺的にいいと思う人はいるんだけど・・・・・・そいつは絶対にやりたくないって言うだろうな」

「えっ??だれだれ?」

「それはねぇ」


 なぜか白坂が俺の方を見てくる。苦笑いをしているが、まさか・・・・・・いや、ないない。少し不安になってしまうだろ、お前が見てくると。


「落ち着けぇーーい!皆の者ぉぉ!」


 でかい声で三村がバッと立ち上がる。まさか三村お前が王子役やると言うのか、ここにきて男子の友情に亀裂を入れないために・・・・・・


 なんていい奴なんだ・・・・・・泣けそうで泣けない。


「なんだよ、三村お前がやるのか?」

「馬鹿者!!と呼べ」

「お、おう・・・・・・」


 引かれてんじゃねぇか、てかなんだよ総監督って


「俺は残念ながら、王子様役はできないが1人凄く適任な奴が居る」

「白坂だろ?」

「ちっがぁう!」

「じゃあ誰だよ!」

「それは〜〜〜」


 妙に変な溜めを作る。自分からハードルを上げていることに気づいてないのだろうか。


 俺の方を一瞬チラッと見た。その時の三村の顔はニヤリとしていた。まさか・・・・・・いやそのまさかだ


「黒田でぇーす!」


 やっぱり・・・・・・終わった。みんなからの大バッシングが期待される模様・・・・・・あれ?


「あー。納得」

「黒田でいいじゃん」


 大バッシングを予想していたのだが・・・・・・予想とは違い、みんな納得してしまった。

 それじゃダメなのだ。俺には平和な裏方という仕事が!


「おい!俺に拒否権は!」

「あると思うのか?俺は総監督だぞ」

「だから、なんなんだよそれ・・・・・・」


 するとポンポンと肩を叩かれる。それをしていたのは白坂だった。同情しているのだろうか。


「悪いな・・・・・・頼むよ」

「お前やってくれよ」


 他に思い浮かぶ人がいなかったと言っているが、絶対他にいただろ!と言いたかった。


「できないんだよ、手伝えることがあったら手伝うからさ」

「・・・・・・お前本当にいい奴だな」

「そ、そうかな?普通だよ」


 何いってるんだコイツは普通なわけないだろ。


「とにかく黒田は王子様役なー?」

「だ、だから!」

「委員長は腹括ったぞー?」


 男のお前がいつまでたってもうるせえぞと目で訴えてくる。


 俺は静かに「はい」と答えた。

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