第41話

「正直わかんねぇーよ」


 体を伸ばしながら突然三村がそんなことを言い出す。


「どうしたんだよ突然」

「いやぁ、劇の役考えてきてって言われてもなぁ、こう考えるとシンデレラってなんの役があるのかわからないし」

「た・・・たしかに・・・・・・」


 言われてみればたしかにとなった。シンデレラ有名タイトルで誰しも名前は知っている名作なのだがちゃんと知っているかと聞かれたら、いいえと答えてしまいそうだ。


「今からシンデレラの絵本買いに行く?」

「いやいや、買わなくても大丈夫だろ」

「いや、でもよぉ〜やるからには、ちゃんといい劇にしたいんだよなぁ」

「別に役がわからなくても、裏方とかやればいいんじゃねぇの?」

「裏方やって快感を得てる特殊な性癖は残念ながら俺にはない」


 裏方で頑張ることを性癖と呼ばれちょっと腹が立った。

 俺が三村の方を少し睨むと三村は慌てて誤解を解きにきた。


「違くて、裏方やってる奴全員に言ったんじゃなくてお前だけに言ったの」

「それはそれでどうなんだよ・・・・・・」


 俺だけ・・・・・・この言葉はいい時もあれば、悪い時もある。その悪い時が今だ。

 俺だけ変な奴みたいに言われてショックだった。


「快感なんて得てねぇから」

「わかった!俺が悪かったって。すまん」

「・・・・・・・・・いいよ」


 なんでこんなカップルの喧嘩のようなやりとりを三村としなくてはいけないのだ。

 三村はきゅるるるんとした瞳で俺のことを見てくる。俺はその瞳を見てもどうしようもなかった。


 ただ黙って石像の如く立っていた。


「まぁ、お前は多分裏方無理だぞ?」

「なんでだよ」

「まぁまぁ、なんでなのかはお楽しみ〜」

「はぁ?あっ!おい!」


 三村は俺に理由を聞かれる前にダッシュで俺から逃げるように走っていった。

 

「はぁ、はぁ、アイツ足速すぎだろっ・・・・・・」


 俺がはぁはぁ、と息を切らしながら呟く。


 俺は呼吸を整えるようにゆっくりと歩くすると後ろから何かが腰の辺りにぶつかった感覚があった。


 振り返ると、見覚えのある黒髪ショートヘアーの綾乃の妹夏乃がいた。


「何してんだ?お前」

「くろだ、夏乃は疲れてしまった・・・・・・」

「あっそう・・・・・・で?これはなに?」

「疲れたからおんぶー」


 こ、この小娘が!俺のことを完全に下に見てやがる。こういう時に綾乃がいてくれたら・・・・・・そうだ綾乃の名前を出せば・・・・・・


「お姉ちゃんに言いつけてやるぞ?いいのか?」

「うっ・・・・・・くろだひきょう」

「俺も今日は疲れてるからな!」

「嘘つくのヘタ」

「なんで嘘って決めつけるんだよ」


 なぜ好きな人の妹にからかわれなければならないのか・・・・・・すると今やっと気づいたが、夏乃の後ろに今日はもう1人いた。


 男の子だった。なんか俺の方をすごく睨んでいる。

 その間ずっと夏乃は俺の制服を引っ張ってくる。


「おい、夏乃あの子知り合い?」

「あっ!翔くん!クラスで1番モテてる男の子」

「あー、はいはい理解」


 つまりアレだ、この子夏乃のこと好きだわ。多分だけど。

 夏乃が俺にばっか相手にするから嫉妬してるんだ小学生の恋なんか甘酸っぱくていいなぁ〜


 そんなことを考えていると、その男の子は俺に向かって指をさしてくる。


「なつ、誰このおっさん」

「おっ?!?!・・・・・・」


 ま、まさか聞き間違いだよな・・・・・・高校生の俺がおっさんだなんて


「くろだ、いいやつ」

「俺の自己紹介、それだけかよ・・・・・・」

「ふーん」


 いいから名乗れよみたいな表情で俺のことを見てくる。なんだこのクソガキと言ってしまいそうな自分が怖い。


「俺はの黒田ゆうせいだよ。よろしく」

「ふーん、俺しょう。よろしく」

「お、お、おっさん?言葉遣いがなってないぞ?」

「・・・・・・なぁ夏乃駄菓子屋行こうぜ」


 ここで小学生のスルーいただきましたっ!

 マジでイライラしかしないんだが。


「えー、今日はせっかく、くろだに会ったからくろだと遊ぶー」

「チッ、あっそう」

「何怒ってるの〜?」

「夏乃、俺はいいから2人で駄菓子屋行ってきなさい?ていうか行け」


 なんか、これで駄々をこねてしょうがなく俺が夏乃と遊んだら、後ろからの殺気と嫉妬で俺が耐えられない。


 今後の2人の関係にも亀裂が入ってしまうかもしれない。それは、それだけは未然に阻止しなければ。


「え〜でも・・・・・・・・・」

「いいからっ!行きなさい」

「う、うん。怖いよくろだ」

「あっ、悪いっ」


 しゃがんで夏乃に謝った時に頭にボンッと後ろから叩かれたような音がした。

 一瞬何が起こったのかわからなかった。


 後ろを振り向くと、翔くんがランドセルを両手で重そうに抱えていた。


 それで理解した。俺はランドセルで頭を叩かれたのだと。

 

「翔くん?危ないからやめような?」


 俺はまだ怒っちゃダメだと心のなかで頑張って、今すぐにでも怒りたい心をなんとか鎮めた。


「夏乃こんな奴と遊ぶとお前までおっさんになっちまうぞ」

「えっ?!そ、そうなの?」

「あぁ、だから俺と一緒に駄菓子屋行こう」


 もう、それで限界がきた。プッチーンと俺の中で何かが切れた。

 

「おいっ!がきっい?!」


 流石に怒ろうとした次の瞬間、下半身というより股間にものすごい痛みがきた。

 翔くんのストレートパンチで俺の股間が1発KOされてしまった。


 俺は痛みを和らげるため、寝転んだ。これで痛みが和らぐかはわからないが、そうした方がいいと男の本能的にそうした。


「夏乃はやく!こっち!」

「う、うん・・・・・・?」


 俺は寝転がりながら、股間とクソガキのことしか考えてなかった。


「あのガキ、マジで次あったらボロクソに言って泣かす。俺は白坂とは違って優しくないからな」


 夏乃たちはもう視界に映る所にはいなかった。


 残るのは小学生にやられたという、恥ずかしい戦績に悔し涙。股間の痛みだった。

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