第40話

 今日は一段とクラスが騒がしい。なんたって今日は文化祭の出し物を決めるためのホームルームをしているからだ。


 俺は別になんでもいいので、話にあまり参加していないが他の人は自分の意見が通ってほしのだろうまったく折れようとしない。


 自分の意見を貫き通している。委員長がそろそろ倒れそうだ。


「どっちになりそうだ?実行委員さん?」

「やめてよその呼び方」


 蒼太は本当にやめて欲しそうな顔でこちらを見てくる。

 三村はその反応が面白いからなのか、多分文化祭が終わるまではそれでいじり続けるのはわかった。


「んー、そうだなぁ一歩劇が優勢かな」

「まじかぁ・・・・・・」

「劇嫌なの?」

「そうじゃねぇけど、ベタかもしれないけどメイド喫茶いいよなぁ」


 三村も三村でちゃんと文化祭でやりたい出し物があるんだなぁ、いつも基本何も考えてない。みたいな感じだけど、こういう学校行事に対してはちゃんとしているのでそこは感心する。


「いや、それってただ、女子のメイド姿が見たいだけでしょ」

「おっと?バレたか・・・・・・」

「やっぱり」


 前言撤回。やはりこういう奴だった。俺は1人で笑ってしまう。

 綾乃のクラスはなんの出し物するんだろうなぁ。


 もしメイド喫茶とかだったら「おかえりなさい。ご主人様」とかオムライスに大好きとか書いてくれるのだろうか。


 綾乃のメイド服姿を想像すると、絶対に似合うと思った。

 まずあの長くさらさらの黒髪。そして大きな瞳。白く艶のある肌。


 メイド服に合わないわけがない。見てみたいなぁという切実な願いを俺は心の中にしまった。


「おーい!なに鼻の下伸ばしてボッーとしてるんだよ」

「鼻の下なんて伸ばしてないだろ」

「伸ばしてたぞー?」

「はっ?うそっ」


 と蒼太の方を見ると、うんうんと三村が正しいといった仕草をしてくるので、本当に鼻の下を伸ばしていたんだな、と自分でも少し気持ち悪く感じる。


 授業がこれで潰れるだけで嬉しい。


「あっ、そーいえば、黒田お前はダンスどうするんだ?」

「ダンス?」

「後夜祭のダンスだよ。キャンプファイヤーを囲みながらダンスするってやつ」


 あー、なんか先生が言っていた気がする。文化祭が終わったあと、校庭で簡易的なキャンプファイヤーを作り、ダンスをすると。


 男女問わず誰とでも組んでいいということなのでこのダンスで女子と組んでる奴は、ほとんど勝ち組というわけだ。


 そしてこのダンスで綾乃を誘う人が多いらしいが全員が撃沈しているらしい。

 なんか、ホッとしたような気持ちもあるが俺が誘ってもし撃沈したら文化祭来れないかも・・・・・・という不安がある。


「黒田はいいよなぁ〜」

「なにがだよ」

「白河さんが居てくれるからなぁ」

「いやいや、まだ誘ってないし。その後夜祭のダンス改めて知ったの今日だし」

「じゃあ今日誘えば、俺たちみたいな非リアじゃないじゃん」


 俺たちとは蒼太のことも言っているのだろうか、蒼太には彼女がいるので、もし俺が綾乃と踊ることができたら、非リアは三村だけなのだ。


 それを認めたくないのか、頑なに俺を強調している。


「まず、俺だって撃沈するかもしれないだろ?」

「たしかに・・・・・・なんか白坂も狙ってるって噂だしな・・・・・・」


 なんて嫌な噂なんだ。どうせだったら他の男50人が綾乃さんに告白したとかの方がまだよかった。

 よりによって白坂・・・・・・勝てる要素が見つからない。


「まぁ、たしかに勝てる要素ねえな」

「心を読むなよ・・・・・・」

「まぁあれほど性格のいい人間は居ないって感じのthe優男を具現化したような感じだね」


 実行委員が一緒なのでよくしてもらっているのだろう。蒼太がこんなに人を褒めるのは珍しい。


 俺だって知っている。体育祭の時に委員長がくろみから責められて泣いていた時ずっと励ましていたのは白坂だ。


「はぁ・・・・・・最悪っ」


 深く、深くため息を吐く。


「はーい!劇に決まりました〜」


 すると文化祭の出し物についての話し合いは既に終わっていた。

 どうやら俺らのクラスは劇になったらしい。


「なんの劇をやるか決めたいんですけど、何かやりたい劇ある人いますか?」


 そうすると、みんな黙ってしまう。まぁ突然劇に決まったはいいものの、なんの劇をやるかはみんな考えてないのだ。


「はい!白雪姫〜」

「いいですねっ。どんどん意見を出してください」


 すると、どんどんと意見が出てきた。やりたい劇というよりも知っているものを全部出したような感じだ。


 黒板を見ると色々出ていた。ももたろうや浦島太郎。ロミオとジュリエットなども出ていた。


 しかし、これもまた見事に票が割れてしまった。


「あーシンデレラとかよさそうじゃね?」


 俺がボソッと黒板に書かれていなかったことを言うと、聞こえていたのか委員長が黒板に書いていく。


 すると、周りからなんかヒソヒソと「シンデレラは無難すぎない?」とか聞こえてきた。

 じゃあどうすんだよとツッコミたかったが、グッと俺は堪えた。


「あっ!俺もシンデレラがいいかな?」


 白坂が俺が出した案にまさかまさかの賛成。これは驚いた。白坂はさっきの俺とは周りの反応が違い「白坂君がシンデレラだったらシンデレラ一択だよね〜!」や「シンデレラしかないでしょ!」とか言ってやがる。


 俺と白坂の格差エグくね?そう実感した一瞬だった。


「じゃあ!劇はシンデレラに決まりにしたいと思いますっ」

「それじゃあ次はキャストだね〜!」

「そ、そうですねっ。では・・・・・・」


 ちょうどいいところで、学校のチャイムが今日はここまでと言わんばかりに鳴っている。


 役を貰えなくてもいいので、俺は裏方がやりたいというよりも裏方しか興味がない。


「じゃ、じゃあどの役をやりたいか明日までに考えてきてくださいっ」


 それで今日のホームルームの時間はお開きとなった。

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