第37話

「映画館久しぶりに来たなぁ〜」

「そうなのか?」

「うん!いつもはDVD版を家で見たりはするけど」

「じゃあ久しぶりなんだったらポップコーンとか食べるか?」

「うーん、さっきあんなに食べたしなぁ」

「じゃあ、やめるか」


 そう言って、スクリーンの場所に行こうとすると、服の袖を掴まれる。


「どうした?」

「・・・・・・・・・買う」

「えっなに?」

「ポップコーンは買う!」

「あんなに食べたんじゃなかったのかよ・・・・・・」

「ポップコーンは別腹なのっ!」

「はいはい、じゃあ並ぶか」

「うん!」


 満面の笑みで、綾乃は列に並んでいる。


◆◆◆

 2人ともバター醤油の味を頼んだ。飲み物も2人とも烏龍茶を選んだ。


「じゃ。行くか」

「うんうん!」


 ポップコーンを買えたのが嬉しかったのかとても上機嫌になっている。

 フンフンッ〜と鼻歌を歌っている。そういうのがとても可愛い。


 思わず口許が緩む。それが綾乃にバレないように少し後ろを歩く。


「あっ!始まっちゃう!行こっ!」

「お、おうっ」


 指定されている座席に座り、ポップコーンを置くそして静かに、照明が落とされ辺りが暗くなる。


 俺はポップコーンを一口食べた。口の中にバター醤油の味が広がった。


◆◆◆

「グ、グスッ」

「ほら、ティッシュ」

「あ、ありが、どう〜」


 最初は恋愛系だったのだが、途中から感動するような物語でとても感動した。しかし、俺はアニメとか映画とかで感動しても泣けないのだ。


「ごめんねっ、泣いちゃって」


 粒の涙がキラキラと輝いて少し目の下が赤くなっていた。

 しかし、むしろそれがいい。とてもいい。


「じゃあそろそろ帰るか?」

「んー、まだ時間ある?」

「うん、あるけど」

「じゃあー」


 そう言って、連れられたのは服屋だった。女性物の服屋さんに来ていた。

 俺はここにいるのは少し気まずい。


 さっきから、明らかに通りかかる女性達がチラチラとこっちを見る。

 そして、隣の綾乃を見て納得したような表情をさっきから最低でも2回くらいされている。


「ねぇ!これどう?」

「い、いいんじゃね?」

「じゃあこれは?」

「う、うん。」

「ねぇ!ちゃんと見てるのー?」


 なぜかソワソワしてしまう。女性物の下着なども奥に行くとある。

 手前にも少し並んであった。


 ちゃんと見てはいるのだが、本当にどれも似合っているので、同じような反応しかできない。


 俺はどうした方が正解だったのだろうか。


「じゃあ、これ!」


 そう言って見せてきたのは黒で統一された、カッコいい系の服装だった。


 俺はポカンと口が空いていた。さっきから可愛さが勝つような服装を見せてきていたので、カッコいい系が来て驚いてしまったのだろうか。


 それとも見惚れていたのだろうか。多分両方だろう。


「あっ、これが1番反応いい・・・・・・」

「い、いや、別にさっきと反応は変わらないだろ」

「でも、これにする。決めたの私もこの服が気に入ったから買うんだよ」

「そっか、ならいいけど」


 そう言って、服の買い物は終了した。次は本屋に行ったり、ぶらぶらと歩き回った。


 長いようで短い買い物だった。

 

「はいこれ」

「どうしたのこれ」


 そう言って、自販機で買ってきたのかコーヒーを俺に渡してきた。

 俺なにか綾乃にあげてたっけと考えてしまう。


「今日1日付き合ってもらったお礼!」

「いや、俺が誘ったんだし」

「いやいや!これでも感謝してるよ〜」


 だから貰って、もう買っちゃったしと言われたら断ることはできない。

 お言葉に甘えて、俺は綾乃が買ってきてくれたコーヒーを飲んだ。


「じゃあそろそろ帰ろっか〜」

「あぁ、そうだね」

「よーし!帰ろ〜」


 そう言って電車に乗り。駅から歩きで帰っていると、電柱にチラシが貼っていた。


「もう、文化祭やるところもあるんだな」

「そうだねー私たちの学校だってもうすぐだよ」

「えっ?そうなの?」

「えっ?知らなかったの?再来週とかじゃない?そのくらいじゃなかったかな?」

「知らなかった・・・・・・」


 文化祭といえば、学校生活を送っている中で最も重要なイベントの一つだ。

 それを忘れるとは俺は何をしていたのだろうか。


「何がやりたいー?」

「うーん、裏方で仕事できたらなんでもいいかな」

「私は劇がやりたいかなぁ」

「あー、劇もいいな」

「何になるのか楽しみ〜」

「綾乃だったらメイドとか似合いそうだな」


 頭を傾げて「メイド?」と不思議そうに俺を見てきたので説明をした。


「に、似合うかなぁ」

「絶対似合うぞー?黒髪ロングだし巨乳だし」


 バシッと背中を叩かれる。頭の中で前に聞いた痛みがやわらぐ効果音が流れるほどには痛かった。


「セクハラ」

「は、はいっ。すみません」

「ふふっ!何やるか楽しみだなぁ」

「そうだな・・・・・・」


 綾乃は文化祭の話をするとニコニコしている。


「なぁ、綾乃お前今年出るのか?」

「えっ?なにに?」

「ミスコンみたいなやつやってたじゃん去年」

「あー、あれね」


 ウチの学校ではミスコンのようなものがある。話を聞くと綾乃自身はミスコンに出たくはないらしい。


 学校一ではなく、学年一の美人を決めるコンテストだ。


 いつも立候補制らしいが、去年綾乃は推薦されて仕方なくやって、見事一位を取ったらしい。

 しかし、まったく興味がなかったと辛かったのかワントーン下がった声で言っていた。


「わ、悪い嫌な思い出だったか?」

「い、いや!そういうわけじゃないんだけどね」

「まぁ、今回は違う人がやってくれるんじゃないか?」

「だといいんだけどね」


 綾乃は自分が出るのだろうと察しているのか、苦笑いしていた。


「男の子バージョンもあればいいのに・・・・・・」

「そんなの白坂の一人勝ちだろ」

「そうかな?私は雄星くんもいけると思うけど」

「まさか、そんなことやる柄じゃないよ」


 そう言って、苦笑いする。


 もう文化祭が始まる頃かと、時間の流れが早いことを俺は感じた。

 

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