第36話

 集合は12時にして、ご飯を一緒に食べつつ、映画や買い物をしようということになった。

 まぁ、こういうのは俺が早く行って、綾乃を待った方がいいだろう。


 そっちの方がなんとなく多いシチュエーションだ。


「ごめん!待った?」


 綾乃は焦ったように、俺に聞いてきた。しかし俺は、綾乃の私服に目を奪われていた。

 ブラウンニットに白のフレアスカート、首にネックレスをして、すごくオシャレだった。


 俺は自分の服を見て、もう少しオシャレを学ぼうと感じた。


「い、いや?だってまだ集合時間じゃないし。でもそれにしても綾乃も早いな、びっくりした」

「なんかね!楽しみで早くきちゃった!」

「俺も楽しみだぞ」


 楽しみもあったが緊張で目が覚めて家では全く落ち着かなかった。


「じゃあ、ご飯どうしよっかー?」

「そこの新しくできたお店美味しいらしいよ」

「わかった!そこにしよっか!」


 2人でご飯を食べるために、そのお店に入っていく。

 昼時ということもあって、結構混んでいた。


「悪い。混んでるな」

「ううん。大丈夫だよっ」

「そう言ってもらえると助かる」

「美味しいらしいし」


 なんかハードルが高くなっている気がするが、美味しいと評判なので大丈夫だろう。


 やっとのことで、席に座ったあと、水を一口飲みながら、メニュー表を開く。


「美味しそうなのいっぱいあるねぇ〜」

「あぁ、そうだな。とりあえずオススメ頼めば間違いはないだろう」

「そうかもしれないけど、それだとつまらないよ」

「じゃあ綾乃は何頼むんだよ」

「んー、これ!」


 そう言って指をさした場所はハンバーグの場所だった。

 綾乃も俺と同じような感じじゃないかと思ったら豆腐ハンバーグを頼むらしい。


「だ、大丈夫か?」

「豆腐ハンバーグ知らない?」

「な、名前だけは知ってるけど、食べたことはないかな」

「美味しいし、栄養高いし、それに・・・・・・」

「それに?」

「カ、カロリー低いし・・・・・・」


 俺は全く気にしないが、やっぱり女子だ。綾乃は多分男子からしたら理想の体型だろう。

 だからこそ、維持するのが難しい。男の俺でも体重の維持が難しいのはわかる。


「そんなこと気にしなくてもいいと思うけどな」

「べ、別に!ダイエットとかは・・・・・・して、たり。して・・・・・・なかったり。」


 いや、どっちだよ・・・・・・


「ダイエットをするな。とは言わないけど自分の身体は大事にしろよ」

「う、うんっ。わかった」

「じゃあ、決まったし頼むか」


 店員さんを呼んで注文をした。10分ほどした後、注文した品が来た。

 結構早い。早い方だと思う。


「いただきます」


 俺がご飯を食べるときの挨拶を言うと、綾乃も俺の後に続いて両手を合わせている。


「ん〜!!うっまぁい〜!」


 綾乃は一口食べたあと頬に手を当てながら、美味しさで頬が落ちそうなのを支えるようにしている。


 そんなに美味しいのなら、今度食べてみようかなと少し思ってしまった。

 豆腐ハンバーグね・・・・・・


「おいひぃ」


 それにしても本当に美味しそうにたべる。やはり美味しそうにご飯を食べる人は好印象に見られるという話は本当だ。


 とても可愛らしかった。いつもはしっかりしている美人のお姉さんって感じだが、今は無邪気な高校生って感じだった。


「ぷぷっ」

「どうしたの?」

「い、いや本当に美味しそうに食べてるから、小さい子供みたいで可愛いなって思って」

「えっ?!可愛い?・・・・・・ってそれ褒めてる?」


 そう言って、俺の方をジロッと見てくる。俺的には褒めているつもりだったのだが、というワードがダメだったのだろうか。


「褒めてるぞー?」

「ふーん、ならありがと」

「どういたしまして」


 褒めてると言ったら、素直にお礼の言葉が来た。こういうところが、白河綾乃の好かれる理由なのだろう。


 お礼が言えるというのは簡単そうで難しいのだ。


「それじゃあ、そろそろ」

「あっ!ちょっと待って・・・・・・」

「ん?あぁ、デザートか」


 すると綾乃はブンブンも頭を横に振っている。長くサラサラの髪の毛が、右に左にと激しく揺れている。


「大丈夫だと思うぞ?別に今日くらい食べたって太らないよ」

「それ、女子に言っちゃダメだからね」

「はいっすみませんっ」

「でもっ今日くらい・・・・・・いいよね?」


 でかいパフェを綾乃は頼んでいた。俺はこれを1人で食べるのかと思い、生唾を飲んでしまった。


 そのパフェが届いた瞬間、綾乃の瞳はキラキラしていた。

 豆腐ハンバーグよりも、キラキラしていた。


 スプーンでストロベリーアイスの部分を食べている、一口が大きい。


「し、しあわへぇ」

「よかったな」

「ハッ!こ、これで太っていたら・・・・・・」

「大丈夫だから、ゆっくりたべな」

「またそうやって、甘やかして・・・・・・これで太ったら雄星くんのせいにするから」

「責任は負いかねます」


 スプーンを口に咥えながら、こちらを見てくる。

前を向くと目が合ってしまうので、俺はパフェが入っている容器を見ている。


「ねぇ、雄星くん」

「な、なんでしょう」

「・・・・・・・・・パフェ食べる?」

「いや〜俺はいいかな」

「えっ!?食べたそうな顔してたのに?」

「どんな顔だよ」


 食べたそうな顔・・・・・・してたのか俺。しかもその顔を綾乃に見られていたのか。


「一口だけでもいいからぁ」

「そ、そんなに言うなら」

「やったやった!!」

「そんなに嬉しいか?」


 不思議に思ってしまった。自分が食べているものを他の人に食べてもらうことが嬉しいと言った綾乃の頭の中はどんな風になっているのだろうか。


「うん!だって自分の好きなものを共有するって、すごく嬉しいよ?それに、もしそれで雄星くんが

パフェを好きになってくれたら、その話でも盛り上がれるじゃん!」


 綾乃はなんて可愛い女の子なのだろうか。それに比べて俺は・・・・・・

 


「ありがとう。そしてごめんな」

「えっ?!なになに?」

「いや、なんでもないよ」

「えっ?本当になに〜?」


 納得してないように、俺に聞いてくるが曖昧な答えで返す。


 パフェを食べさせてもらおうとスプーンを取ろうとすると綾乃が止める。


「あれっ?食べちゃだめってこと?」

「ちっ!ちがくてっ!は、はい!」


 俺の目の前に、スプーンを差し出してくる。その上には、生クリームやイチゴなどが乗っている。


「あ、綾乃さん?」

「はい、あーん」

「は、恥ずかしいんですけどっ」

「そ、そうだよね・・・・・・」


 しゅんと眉が下がった。それを見て、俺は自分で自分を頭の中でヘタレ!と罵った。


 俺はもう勢いに任せて、綾乃が差し出してきたスプーンを口に含む。

 甘い。たしかに味が甘いというのもあるが、なんかそういうのじゃないものが一つあった。


「あ、りがと」

「美味しかったでしょ?」


 俺は頭をすごい勢いで縦に振る。そのあと綾乃はスイーツは別腹という言葉の通りペロリと完食してしまった。


「ごめんね待たせて」

「いいや?別に俺も見てて楽しかったし」

「そう?それならいいけどっ」


 会計を済ませ、俺たちは映画を観に向かう。


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