第32話

 朝から起きるのがだるいのはいつもだが、今日は特に、だるかった。身体がいつもより重い。

 やはり昨日の体育祭が響いている。別にそこまで動いてはないが、なにかと疲れるものだ。


 まぁ、あの陽キャ達に任せておけば体育祭はいい結果を残せるだろう。勝手にそう思っていた。


 昨日のことをブツブツと地面に向かって愚痴っていると、あっという間に学校のそばまで来ていた。

 教室に入ると、昨日のあのような最悪な雰囲気はもうなく、みんな次の試合に緊張しているようだった。


「今日は活躍しろよ〜?」

「俺が活躍してないみたいに言うな・・・・・・」

「え?昨日何かしてたの?」


 フッと鼻で三村に笑われ、危うく三村に俺の右手が出るところだった。

 昨日の恩もあるので、心の中でグッと堪えた。


「うわ〜アタシら負けたらどうしよ〜」


 くろみが教室に入ってくるなり、煽るように大きな声を出している。

 委員長はずっと下を向いていた。


「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」


 と言って、ついに委員長は泣き出してしまった。


 他の女子達が寄り添っていく。背中をさすっていたり、抱きしめていたりしている。


「あははっ!泣くとかちょーガキじゃん」


 いつまで言ってるんだと思った。ガキなのはお前だ「バカ」と心の中でくろみに向かって言っている自分がいる。


 この空気の中そんなことを言えるのはだ。


「そ、そのくらいにし、してあげてよ!」

「はぁ?なにアンタ」

「佐川さんだって頑張ってるんだ!」

「頑張った結果が転びましたって?クラスに迷惑かけてるだけじゃないの!」

「なっ!そんな言い方酷いだろっ!」


 俺と一緒のバスケの補欠グループの1人が委員長のことを庇って、くろみに対して反抗している。

 しかし、くろみはその男に対してではなく、最終的に委員長にダメージが行くように喋っている。


「てかさ、アンタもバスケで優太たちの影に隠れてるだけじゃん」


 と鼻で笑っている。もうくろみはモンスターだ。だれか早くコイツを討伐してくれ、緊急クエストを俺が出しておくから。


「その言い方はないんじゃないか?」


 と白坂がさすがに言い過ぎだという表情でくろみを見ている。


「ごめんごめんっ!なんか腹立ってぇ〜ごめんね?ゆうたっ」


 うわぁ〜性格悪っと大半が思った、いや、くろみ以外の全員が思っていたと思う。


「でも、くろみの言ってることはわからない訳じゃないかもしれない」

「は?何言ってんだ佐々木」

「だってそうだろ?俺たちが点数とってあいつらが守る、ほぼ俺たちのおかげだろ」


 佐々木・・・・・・お前はなんでいちいち俺たちに突っかかってくるんだ。


「は、話を逸らすなよ!くろみお前は佐川さんに謝れ!」

「はぁ?意味わかんない」


 だんだんとくろみの機嫌が悪くなっていく。するとくろみが閃いたような表情で指パッチンをする。


「じゃあ、あんたたち補欠メンバーが優太たちより活躍できたら謝ってあげる」

「えっ・・・・・・」

「ぷぷぷっ!なにその表情!!」

「あははっ!くろみ、それは無理だろ」

 

 佐々木まで乗っかっている。もう後には引けない補欠メンバーはこれ以上ないくらいブチギレていた。


 ちなみに俺もさすがにイラついた。


◆◆◆


 イラついたものの、結局守りのプレーしか今はできない。


 前半の陽キャグループが点数をとって点数差が結構ついているので、今は変なことはしない方がいいと感じた。


「結局むりじゃーん!」

「だから言ったろ?無理だって」


 さっきからドヤ顔の佐々木とくろみがウザい。


 俺たちはそのまま順調に勝ち進み準決勝まで進んだ。


 もう残っているのは俺たちのバスケだけだ。


 玉入れと二人三脚は奮闘したらしいが予選落ち。


 ドッジボールとバドミントンは本選で負けてしまった。

 くろみはあんなに委員長に言ってたくせに、一回も勝てていなかった。


 自分のことを棚に上げるなと言いたかった。


 しかし、もうバスケしかないとなると逆転は難しいのかもしれない。


「次は2年1組かー」

「ってことは!白河さんがいるクラスだ!」

「おおっ!!」


 なんかもう優勝した、みたいなノリで俺盛り上がっていた。


「でも待って?白河さん達のクラスって結構強い人揃ってるよ・・・・・・」


 一気に負けたみたいな雰囲気になった。ていうか綾乃が見てるだけで、そんな盛り上がったりしてたら、試合の時、綾乃のことばっかり考えて試合にならないんじゃないか?


 俺も人のこと言えないけど。


 2年1組との試合前にトイレが行きたくて、体育館から出ると、階段に委員長がいた。


「あ、黒田くん、頑張ってくださいね」

「うん、まぁ俺が頑張らなくても白坂たちが頑張ってくれると思うぞ?」

「白坂くん・・・・・・優しいですよね。さっきまで私のこと慰めてくれてました」

「白坂は、いい奴だからなぁ・・・・・・」


 「はいっ」と少しニコニコしていた。


「あっ、俺たち補欠組のバスケも応援してね、みんなの意外な姿見れるかもよ」


 そう言って、また体育館に戻る。結局トイレに行くのを忘れた。


「ジャンプボールから始めたいと思います」


 ピッー!!というホイッスルの音と共に、バスケットボールが宙に浮く。

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