第31話

「ごめんごめん!遅くなった〜」


 走ってきたのか綾乃は息を切らして、下駄箱から靴を取り出している。


「走ってきたのか?」

「うんっ!遅くなっちゃうと悪いし」

「別にいいのに・・・・・・」

「いいからいいから!」


 「帰ろっか」と言われ綾乃は俺の背中をくっついていく。

 なぜか少しだけきまづい。あまり会話が弾まないのはなぜだろうか。


 次の話題、話題と考えてる内に、頭がパンクしそうだった。


「今日バスケ勝った?」

「あー、うん白坂たちがいれば大体勝てるだろ」

「ダメだよ!ちゃんと雄星くんも頑張らないと」

「えー、でも・・・・・・」

「あっ!でも、もし敵として当たったら容赦しないから!」

「綾乃バスケ出ないじゃん」

「そ、そうだけど・・・・・・き、気持ちってこと!」


 俺は綾乃に「なるほどね」と返してまた話題がなくなってしまう。返答をミスったかもとあとになって後悔した。


「あっ、明日はさ一緒に写真撮る?」

「えっ?・・・・・・ええっ?!」

「いや、そんなに驚かなくても」

「いやっ、驚くでしょ!」


 いきなりなにを言い出すんだと思ったら、写真?おいおい、こんなの嬉しいし綾乃本人から言われたら驚くに決まっているだろう。


「だってさっき自分で言ってたじゃん、私と1番撮りたいって」

「えっ?俺が?」

「まさか嘘だって言うの?」

「いや!嘘じゃない!なんなら今すぐにでも撮りたい!・・・・・・今の聞かなかったことには」

「あははっ!しませ〜〜ん!」


 にやにやしながら俺にそう言ってくる。俺は恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたかった。


「い、今からでも撮る?」

「へっ!?」

「だって、いいでしょ?」

「俺は撮りたかったから嬉しいだけだけど・・・・・・」

「じゃあ決まり!そこの公園で撮ろ!」


 そう言って、公園まで綾乃が綺麗なサラサラの髪の毛を揺らしながら走っていく。

 

 俺もあとを追うように小走りする。


「うーん、どうすればいいかなぁ」


 そう言って、スマホを片手に撮る角度を決めている。あとはエフェクトやらスタンプやら俺には全くわからないことを言っている。


「じゃあ撮るよ〜」

「り、了解」

「あっ、写ってないからもう少し寄って」

「こ、このくらい?」

「あー、もうちょい!このくらい!」


 俺の腕を掴んでグイッと綾乃は近くに引き寄せる。

 その瞬間フワッと、とってもいい匂いがした。おもわず、ずっと嗅ぎたくなるような匂いだった。


 そのあとに、むにゅっと腕にやわらかい何かが当たっていた。


 俺の腕に視線を向けると、あきらかに胸、乳だった。

 むにゅの正体は綾乃の巨乳だった。


 俺は一瞬で顔が赤くなり、伝えた方がいいのか、それともこの感触を楽しみたいのか、頭のなかで葛藤していた。


「撮るよ〜」


 パシャリッと音が鳴り、写真には俺と綾乃が写っていた。

 まさか本当に写真を撮れるとは思っていなかった。


「エフェクトとかどうしようと思ったけど、ちょっとだけ小顔補正的なの入れただけにしたー」

「俺は全くわからないので、そこらへんはなに言ってるかわからないですっ」

「まぁ、簡単に言うと顔が少し小さくなったってこと!」


 なるほど、それだったら俺でもわかりやすい。


 小顔補正俺は必要かもしれないが、綾乃は要らないだろと心の中で思っていた。


「あ、丁寧な説明ありがとうございます」

「ねぇ、なんで敬語なの〜?」

「いや、その、綾乃さんはすごいなぁと思いました」

「えっ?なにが?こんなの普通だと思うけど」


 そういうことじゃないです。先程の胸のやわらかさの感触がまだ腕に残っているのがすごいなぁと思っただけです。


 と心の中で言った。


「いや、その言いにくいんですけど」

「えっ?なに、怖い・・・・・・」

「その〜さっきから俺の腕にとってもやわらかい感触がしてるんですよね」

「えっ?腕?」


 綾乃が視線を落とすと、俺の腕と綾乃の胸がピッタリくっついてることに今気づいたらしい。


 急に顔を真っ赤に染めて、りんごのようになっていた。


「ご、ご、ごめんっ!き、気分悪くしたりなんて」

「し、してないっ!こっちこそごめん・・・・・・」

「雄星くんが謝らないでよっ!」

「ま、まぁ気分悪くなる男なんてそうそう居ないと思うぞ、大半は幸福と興奮に包まれる」

「えっ?あ、そうなの?」


 神様、仏様、三村様、ありがとう。俺はこの時、いや、写真を撮るとなった流れくらいから、三村に感謝していた。


「じゃあ、私こっちだから!雄星くんっまた明日ね!」

「あぁ、バイバイ」


 俺はそう言って、大きく手を振っている綾乃に対して手を振った。

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