第30話

 体育祭が始まり、俺たちのクラスは順調だった。ドッジボールも予選通過だし、バスケも次の試合に勝てば予選ブロック1位通過で2日目の本選のシード権獲得となる。


 俺たちのバスケの作戦は最初に陽キャたちが点数差を作り、俺たちがその点数を守り、点数を決めれるときは決めるという、守りに徹したバスケだった。


 しかし、この作戦が上手くいき、3年生相手にも勝つことができた。


 次はリレーが始まる。教室から応援してる人もいれば、校庭で近くまで行って応援してる人もいる。


 俺は前者だ。


 リレーには、女子と男子の混合リレーで、最初に女子、その次に男子が走る。


 最初は順調だった。


 しかし、途中で事件が起きた。委員長もリレーに参加していたのだが、委員長が走ってる途中で転んでしまったのだ。


 そこまで2位という好成績だったが、5位にまで下がり、そこから健闘するも結果は3位というギリギリ予選落ちの順位だった。


 そのあとの教室の雰囲気は最悪だった。大多数は委員長のせいじゃないと委員長を擁護する派と1位狙えたんじゃないか、委員長を批判する派と別れていた。


 ほとんど、くろみ1人が委員長のことを「戦犯」など「酷いわ〜敵じゃん」などと言っていた。


 それ以外は「大丈夫」や「くろみが勝手に言ってるだけで誰も気にしてないよ」と委員長に言っていた。


 本当にその通りだと思う。委員長は転んだときに膝から血が出ていたみたいで、数人と保健室に行った。


 委員長は今この教室にいない方がいい。


「くろみ嫌な奴だなぁ」

「1人であそこまで自分を突き通せるのも凄いけどね」

「ある意味尊敬するよな」


 俺と三村と蒼太がくろみについて話していた。

あそこまで味方がいないのに本人の目の前で言えるのは凄いと思う。


「おい・・・・・・それはそうと黒田、お前白河さんに会ったか?」

「いや?会ってないけど」

「じゃあお前今日一緒に帰れ」

「は?なんだ?いきなり・・・・・・」

「これは三村さんからの命令だ!いいな!」

「・・・・・・あっ、はい」


 なんか三村の勢いに負けて「はい」と言ってしまった。


 俺から誘うのか・・・・・・いつもは余り緊張などしないが、いざ自分から誘うとなると恥ずかしさがある。


 体育祭1日目最後の試合に向かう途中、トイレに行こうとして戻ろうとすると、ぐすぐすっと誰かが泣いているような音が聞こえる。


 その音の方に、恐る恐る近づいていると委員長が1人で泣いていた。


 俺はそれを見て、今はそっとしておいた方がいいと思った。

 そして、なぜか絶対勝たなきゃいけないと思った。


 予選のバスケは1位通過でシード権を獲得した。


 別に俺が委員長のためとかではないが全然陽キャ達に任せておけば1位を取れるんじゃないかと薄々勘づいてきた。


「委員長の為にもバスケ優勝して、リレーの分取り返そう!」


 白坂がサラッとカッコいいセリフを言っていた。なぜこんなにカッコいい奴なのか。


 これには、陽キャや補欠など関係なく、熱くなっていた。


 バスケの試合が終わったあと、教室に戻ろうとすると、肩をぽんぽんと叩かれる。


 振り返ると、ポニーテールで少し汗が頬を滑っている綾乃がいた。


 いつもとは違う雰囲気で、どう接すればいいかわからなくなってしまう。


「どうしたの?」

「髪の毛切ったんだね!」

「あー、うん」

「とっても似合ってる!カッコよくなったね!」

「あ、ありがとう」


 好きな人に面と向かって「カッコいい」と言われると流石に恥ずかしい。

 顔が熱くなる。バスケをしたからではないことはわかっていた。


「あれれ〜?どきどきしちゃった?」

「してないしっ」

「顔真っ赤だよ?」

「バスケしたからだよ」


 綾乃はずっとこっちを見てニヤニヤしている。


「あ、綾乃今日一緒に帰らないか?」

「へっ?!いいよ!一緒に帰ろっ!」


 そんな反応が返ってくるとは思わなかった。

 とても嬉しそうな表情で、ニマニマしていた。


「雄星くんは写真とった?」

「いや、まだ誰とも撮ってないよ」

「へー、以外いろんな女子と撮ってるものだと思ってたー」

「1番に撮りたい人がいるから」


 まぁ、誘われてもないけど、なんかヒソヒソ話されてたのは気づいたけど、別に写真は撮りたくないから逃げていた。


 ピロンッとスマホが鳴る。


『お前どこいんだよ、早く来い』


 帰りのホームルームが始まるのだろうか、三村からメッセージが届く。


「ねぇ、その1番に撮りたい人って?」

「綾乃だよ。そのポニーテールも似合ってるし今日なんか緊張する」


 三村のメッセージを返しながら喋っていたので、あまり考えずに喋っていた。

 綾乃を見ると下を向いていたが、確かに顔が真っ赤になっていた。


「綾乃・・・・・・どうした?」


 俺が変なこと言ってしまったんじゃないかと心配になる。


「べ、別にぃ〜?」

「いや、顔が真っ赤だぞ?」

「バドミントンやってきたからかな?」

「えっ?試合あったの?あれ?でもバドってもう終わったんじゃ・・・・・・」

「うるさいっ」


 ポコッと俺の胸を殴ってくる。俺はその行為の意味が全然わからなかった。


「え?なんで俺殴られたの?」

「じゃあ、戻ろっか」

「えっ?あの綾乃さん?俺の話は」

「もどろっか?」


 これ以上は聞くなという最終警告だった。

 俺は最後の最後まで、意味がわからないままだった。

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