第28話

 髪の毛を切るとは言ったものの、どこの美容室がいいものか、俺は家に帰ったらすぐにスマホで調べようとしていた。


 家に帰ると、誰かお客さんが来てるのだろうか、玄関に知らない靴が置いてあった。


「あれ?雄星おかえりー」


 そう言ってきたのは黒田由美、俺のだ。


「姉ちゃん帰ってきてたんだ」

「まぁ、この2日仕事休み貰ったからね〜」


 姉の由美は美容師だ。いつも大変と言っているがそれ以上に仕事が楽しいといつも言ってくる。

 なんだかんだ、仕事をそう思える人が長く続いたり、成功したりするのかもしれない。


「あ、姉ちゃん俺髪の毛切りたいんだけど、どこかいい美容室知らない?」

「ここにいるじゃない」

「なにが?」

「いい美容室じゃなくて、いいが」

「え、それ・・・・・・自分で言う?」


 と苦笑いすると、由美は笑っていた。

 たしかに由美は学生の頃から、美容に気を遣っていた。

 それは家族である俺がよく知っている。


「道具っていうか、ハサミとかあるの?」

「お姉ちゃんをなんだと思ってるの」


 すると、バッグからハサミを取り出してシャキンシャキンと鳴らしている。


「なんか不安なんだけど・・・・・・」

「大丈夫!これでもお姉ちゃんちゃんと上達してるからっ」

「そ、そう?・・・・・・じゃあお願い」


 そう言って、姉の由美に髪の毛を切ってもらうことになった。


 最初は、他愛のない話から、最近の仕事の話、いつまで家にいるのかなど、大体は由美の話を一方的に聞かされたような感じだった。


 しかし、その方が良い。俺の話はあまりに普通すぎて、面白みに欠けてしまう。


「あっ、そういえば好きな人でもできた?それとも失恋した?」

「は、はぁ?!」

「あ、その様子だと好きな人できたかぁ〜」


 「なんかウザい」と言って振り向こうとすると、頭をガシッと抑えつけられる。


「動くな、危ないから」

「こっちはお客さんですけど・・・・・・」

「うるさい、こちとら勤務時間じゃないから、客もクソもない」

「なんだこの店員・・・・・・」

「アンタこそタダでやってもらってるのに、クレーマーか?あ?」


 お?やるか?みたいなノリで来られ、少しどうしていいかわからなくなる。


「さっきから口が悪くなってますよ」

「あはははっ!ごめんごめん、気を遣わなくていいから楽なんだよね〜」

「頑張ってるんだね」

「そりゃ、もちろんっ」


 そのあとは、最後に少し手直しが入って終了した。


「はい!どーぞ」

「おおっ、これが・・・・・・」


 鏡を見た俺はイメチェン、それは、無縁の存在と思っていたが、今日がまさにその日だったかもしれない。


 髪の毛は短髪になっていて、きちんと目が見える。


 前髪も長すぎず、短すぎずといったところだ。


「ねぇ、それで?好きな人可愛い?」

「・・・・・・うん、可愛い」


 すると由美はキョトンとした表情をしていた。


「珍しい、アンタがそんなこと言うなんて・・・・・・」

「うるさいなぁ・・・・・・」


 すると、由美は小さくため息のようなものを吐いて、微笑みながらこちらを見てきた。


「そんなに好きなら、頑張りなさいよ?」

「わ、わかってる・・・・・・」

「アンタはどうせ釣り合うとか、そんな次元の話してそうだから」

「し、してないし・・・・・・」

「大丈夫!今のアンタはカッコいいよ」


 そう言われると、少し照れてしまう。直球で褒められると、内側がむずむずするような感じだ。


「私が他人だったら付き合いたいもん」

「うげぇっ・・・・・・」

「なによー!その反応!」

「今の問題発言だわ」

「ブラコンだからアンタのこと大好きなのよっ!」


 そう言って、いきなり俺の方に飛び込んできた。俺は由美に押し倒された。


 その時、やはりいい匂いが俺の鼻を刺激すると同時に背中に小さな痛みが走る。


 ドンッと大きい音がしたので、それに反応して母親が俺らの方を見にくる。


「アンタたち・・・・・・」

「ち、違うんだ!こ、これはっ!」

「ほんとっ仲良いわねー近所でも昔から言われてたわよね〜」

「母さん、ある意味今それ言うのはダメだよ」


 落ち着いたのか由美は母さんに言われると、すぐに立って後片付けをしている。


「まぁ〜頑張りなさい、お姉ちゃんは応援してるから、本当に好きな人は、攻めどきとタイミングが大事!」

「うん、がんばるよ。ありがとう姉ちゃん」


 そう言うと、由美はニッコリ笑っていた。



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