第26話
綾乃が戻った数分後に俺も戻った。少し怪しまれたが、別に会ってないの一点張りでなんとか切り抜けた。
すると、俺の鼻から鼻血を出させた張本人の佐々木が俺の前に来た。
「ご、ごめん・・・・・・さっきは俺のファウルだった」
まぁ、普通に考えればそうだよな・・・・・・でも先ほどのような怒りや落ち込みのような感情は全く湧かなかった。
逆に佐々木に対する感謝の気持ちを言いたい所だ。
「いや大丈夫だよ、逆にありがとう」
「えっ?もしかして・・・・・・」
その微妙な間で俺はもしかしてバレたか?と思ったが、そんな筈ないと思っていたが、少し不安があった。
「黒田ってドM?」
「・・・・・・・・・ち、ちがうわ!」
「だって、今ありがとうって」
「そういう意味じゃない!と、とにかく怒ってないし、謝んな!」
それでこの件は無かったことになった。俺がドM認定されるのは御免だ。
そのあと、シュートして入った奴から抜けていくというちょっとしたゲームをして、練習会は終わった。
「はぁ、どっと疲れた・・・・・・」
俺は帰り道、独り言を呟きながら帰った。愚痴というほどでもないが、流石に部活や運動を高校で体育しかやってきていないので、とてもキツイ。
身体が悲鳴をあげていた。
「くろだ!」
俺を呼ぶ声と同時に俺の腰らへんに何かが、ぶつかる感覚がした。
見てみると、夏乃が俺に頭をぶつけてきていた。
「どうしたんだ、夏乃」
「くろだ、今ひま?」
「まぁ、用事は済んだけど・・・・・・」
「こっちきて」
言われるがままに腕を引っ張られてついていくと夏乃の友達なのか、夏乃と同じくらいの身長の子が5、6人いた。
「えっと・・・・・・夏乃?」
「くろだ、おにやってー」
「おに?」
「まさかくろだ、おにごっこ知らない?」
鬼ごっこは知っているのだが・・・・・・いや、察したこれは鬼を俺にすることで、友達全員と逃げれる。
つまり、みんなで遊んでるのに1人だけ鬼という、少し悲しいことにならないということだ。
「いや、俺疲れてるから、帰りたいんだけど」
「くろだ、おねがい・・・・・・」
ゔっ、ここで断ったら歳上として、なにかいけない気がする。
しかし、足がもう限界かもしれない。
「ねーねー、そのおにーさん鬼やってくれないなら夏乃ちゃん鬼でやろーよー」
「ちょっといま、こうしょうちゅう」
「おい、夏乃お前もしかして、自分が鬼やりたくないから俺にやってほしいのか?」
俺がそう聞くと、ピシッと石になったように動かなかった。
そのあと、壊れたロボットのように、少しずつこちらを向いてきた。
「そ、そ、そんなひどいことしない。夏乃いい子だから」
「じゃあ、俺は鬼やらなくていいな」
そう言って、帰ろうとすると夏乃は腕を掴んできた。
振り返って夏乃を見ると、うるうると泣きそうな目をしながら、ギュッと掴んでいた。
意地悪し過ぎたかな・・・・・・この歳だったら鬼じゃなくて、逃げる方が楽しいもんな・・・・・・
自分も小さい頃そうだったように夏乃の気持ちはよくわかった。
「いいのか?俺が鬼だと全員すぐに捕まっちゃうぞ?」
そう言うと、夏乃の表情が一気に明るくなった。
「だいじょうぶ!夏乃たちこれでも学校で足すごーく速いから!」
「負けても泣くなよ?」
笑いながらそう言って、おにごっこの鬼をやることになった。
「じゃあおにーさん、30秒数えたら捕まえにきてくださいねー」
俺はこの時、すぐに捕まえられるだろうと思っていた。
30秒数えて、おにごっこが始まった。
◆◆◆
「はぁ、はぁ、マジで死ぬ・・・・・・」
「くろだー!早く追いかけてこーい」
クソッ舐めやがって、だがもう疲れて走りたくない。
頑張ってタッチしても、腕を胸の前でクロスしてバリアという無敵の技を使ってくる。
そんな技使われたら、陸上選手ですらこの子達のおにごっこに勝てないだろう。
「も、もうギブ・・・・・・」
「えー、くろだーまだ1人も捕まえてないよー」
「なさけないなー」と夏乃に言われ、グサッと心に刺さったが、バリアなんて使われたら無理だろ!と心の中で叫んだ。
「本当に情けないな〜」
後ろから、綾乃の声がした。いやいや、そんなわけ・・・・・・
そう思い、後ろを振り向くとニヤニヤしながら俺の方を見ている綾乃がいた。
「あ、綾乃さん?どうしてここに・・・・・・」
「だって、帰り道だもん」
「あっ・・・・・・そうでしたね、じゃあ俺はこれで」
「えー、1人も捕まえてないのにいいの?」
「ゔっ・・・・・・でも、バリア使ってくるから捕まえられないんだよ」
「ふーん、じゃあ私も鬼やる」
「えっ?」
いきなりなにを言い出すんだと思ったら、本人は真剣らしい。
「いいよー!お姉ちゃんもおにー!」
「よーし!捕まえちゃうぞ〜」
そう言って、綾乃はワイシャツの袖を
「頑張ろうねっ?」
「あ、あぁ」
やはり、捕まえようとする時バリアと言われ捕まえることができない。
すると綾乃が近づいてきた。
「ずっと、バリアしてるとね石になっちゃうんだよ?バリアとかないとおうちに帰れないよ〜?」
「う、うそだ!」
「本当だよー?お姉さんの言うこと信じられない?」
「う、うぅ・・・・・・」
「君がいい子なら、バリア解いてほしいなぁ」
そんなんで、バリアを解くわけ・・・・・・と少しバカにしていたら、すんなりとバリアを解いた。
そのあとに、その子の頭を「いい子いい子」と言って微笑みながら撫でている。
そんなこんなで、あとは夏乃だけになった。
「ほらー、もう観念しなー?」
「まだ!まだ負けてない!」
「夏乃、もうお前は負けている」
「うるさい!1人も捕まえられなかったくせに!」
その言葉はグサッと心に刺さった。それを聞いて綾乃は隣で笑っている。
「じゃー、仕方ないかぁ〜今ならお姉ちゃんの右手空いてるんだけどなぁ〜?」
そう言って、右手をわざと空いてるといった仕草をする。
「私もう帰っちゃうよ〜?」
そう言って、綾乃が振り返って帰ろうと一歩また一歩と歩いた時、夏乃がバッと走り出して、綾乃の右手をぎゅっと握っている。
「あははっ!捕まえた〜」
「お姉ちゃんくるしい〜」
そのあと、夏乃をぎゅっと綾乃が抱きしめた。
「ありがとうね、雄星くんっ」
「うん、疲れたけど楽しかった」
「くろだ、またやろ」
「あぁ、今度はバリアとかいうズル技なしな?」
そう言って、2人は手を繋いで帰って行った。すると綾乃が振り向いてきて、俺にニコッと微笑みながら手を振ってきた。
夕日に照らされた黒髪が揺れる。大きな瞳、綺麗な肌、豊かな表情、すべてが満点だった。
その日の夜はぐっすり眠れた。
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