第19話
綾乃と会って、俺は毎週金曜日自分の仕事が終わったら、綾乃のところへ行って、毎回喋っていた。
他の女子と喋るより楽しかったのは覚えている。だからなのか、毎回金曜日いや、気づけば毎日になっていたかもしれない。
「なぁ、黒田」
「んー?」
「お前、学校来るの早いのに、どこいんだよー」
「えーっと、ちょっと用事が」
「なんだよ用事って」
「・・・・・・日課?」
俺は首を傾げながら自信のなさそうな声で言う。友達は日課がなにかとても知りたかったのか、どんどん聞いてきたが、俺は「まぁまぁ、なんでもいいだろ」と言って濁した。
◆◆◆
次の日俺は、またいつも通り、花壇に行くといつもはニコニコと微笑みながら花を見ている綾乃がいるのに、その日はニコニコとしていなかった。
なにか、悲しい雰囲気だった。
「どうしたんだ?そんな悲しい顔して」
「あ、居たんだ・・・・・・・・・」
「居たんだって・・・・・・お前なぁ」
「今日で終わっちゃうなぁって思って・・・・・・」
「なにが終わるんだ?」
「この水やり」
それを聞いた時「はっ?」と口から漏れた。自分でもこの時間が気に入っていたのだと思う。
「な、なんで?」
「えっ?だって・・・・・・事務のおじさん帰ってくるから、お世話とかもしなくてよくなるんだよ?」
「いや、でも・・・・・・」
「なんで黒田くんがそんなに悲しんでるの?」
「別に悲しんでなんか・・・・・・」
「あっ!わかった!」
綾乃はぐいっと近づいてきて、顔を下から覗き込むようにして、俺のことを見てくる。
不覚にもその姿に俺は、ほんの少しドキッとしてしまった。
「な、なんだよ・・・・・・」
「一緒にお花のお世話したかったんでしょ!」
「・・・・・・・・・はっ?」
「いいよ、いいよ!恥ずかしがらなくて、男の子がお花好きって素敵だと思うよっ!」
綾乃が続きを言おうとした時に、もさもさの髪の毛を、クシャクシャと弄った。
「な、なにするのっ!」
「んー、嫌がらせ?」
「もうっ!やめて!」
「ははっ、ごめん」
そう言って謝ったが、なぜこんなことしたかは分からないけど、したくなってしまった。
「俺・・・・・・・・・好きだったんだこの場所」
そう言うと、綾乃もやっぱり好きだったのだろうこっちをびっくりしたような表情で見た後に、眉を下げる。
「私も・・・・・・」
ぽそっと小さな声でそう言ったのが聞こえた。
別にもう来れないって訳ではないが、来る必要が無くなった。
それだけでこんな気持ちになるとは思わなかった。
「この時間も好きだった」
「この時間?」
「うん、お前とここで、喋ったり時々花見たり、朝早いのにここにいる時間が」
「・・・・・・・・・」
それを聞いて綾乃は静かに黙っていた。
ただ、思い出に浸るように、そこまで多い時間を過ごした訳でもない。
過ごした内容が濃かった訳でもないのに・・・・・・
「俺、最初はお前のこと嫌いだった」
「そうだと思った」
「けど、今は違う。お前のこと好きになった」
「えっ??」
「あっ?!友達としてだな!?」
「わ、わ、分かってるよ!」
そう言っていたものの、綾乃の頬はどんどんと赤みを帯びていた。
多分俺もそうだったのだろう。
そして、それからは前ほどではないが、ちょくちょく花の様子を見にきたり、2人で話したりはした。
小学6年生になったらかなり喋る回数が多くなり仲良くもなった。
卒業後は、中学に進んだが綾乃は違う中学校に行ったと聞いた。
たぶん最初で最後の初恋だった。もう好きな人と知った時には手遅れだった。
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