第18話

 多田綾乃・・・・・・そう今の白河綾乃との出逢いを今じっくりと思い出していた。


 そういえば、小学5年生の時は違うクラスだったのだ。

 一緒になったのは・・・・・・・・・



◆◆◆


 小学5年生の6月頃だっただろうか、違うクラスだったが、多田綾乃という人物は知っていた。

 髪の毛は今ほどサラサラではなく、身長も小さかった。


 彼女は生き物係に入っていたらしく、いつも学校の花壇の花に水をやっていた。


 俺は整備係だったので、毎週金曜日の朝に早く来て、ほうきやちりとりの数を数えて、放課後にもう一度チェックしなければならなかったので、毎週金曜日、水やりの姿を見ていた。


 そんなある日、多田綾乃は登校する途中クラスメイトの男子にからかわれていた。


「おーい、チビー!」

「マリモあたま!」


 などと容姿をイジられていた。しかし、多田綾乃は言い返すわけでもなく、ただ、黙って学校に登校していた。


 その態度が気に入らなかったのか、からかっていた男子の1人が黙って通ろうとする、多田綾乃の腕を掴む。


「おいっ!無視すんなよなっ」

「ちびマリモのくせに!」

「ちょっと・・・・・・やめてっ!」


 なんだよ、そのチビマ○オみたいな言い方。


 俺はその時めんどくさいことになりそうだったから、放っておきたかったのだが、なぜか俺は放っておくことができなかった。


「おいっ!」


 俺は、綾乃の腕を掴んでる奴らに向かって大きな声を出した。


「な、なんだよっ」


 あー、こういう時、なんて言えばいいんだっけ・・・・・・全然考えてなかったから、言葉が出てこない。


 そこで俺は、今読んでる漫画の主人公の真似をした。


「おい、女相手に3人って・・・・・・楽しいかよ」

「なんだよ、急にお前」

「なぁ、笹岡っコイツ2組の黒田だ」

「黒田?」


 あれ、俺の名前知ってる?俺はコイツのことまったく知らないんだけど・・・・・・


「し、身長が少し高いからって威張んなよな!」

「威張ってねーよ、それに女いじめて威張ってるのお前らだろうが」

「なっ・・・・・・!」

「分かったならどいて?邪魔」


 そう言うと、素直に多田をからかうのをやめ、道を開けてくれた。


 しかし、とてつもなく恥ずかしかった。


 放課後、整備係の集まりがなぜか外の校庭であった。

 なにやら、学校の周りの落ち葉を掃き掃除するらしい。


 なんで、今日に限って今日なのか、朝読んできた漫画が途中なので、早く帰って読みたかった。


「あーあ、めんどくさいなぁ・・・・・・」


 そう言って、どこで時間を潰そうかと、サボれる場所を探していると、アイツがいた。

 朝からかわれてた多田綾乃。


 なんか言われそうだし、今はそっとしておこう。


 違う場所に行こうとした時、後ろから


「黒田くんっ!」


 大きな声で俺の名前が呼ばれた。思わず振り返ると、多田綾乃がこっちを見ていた。


「えっと・・・・・・朝はありがとうっ」

「あー、うん。別にいいけどさ・・・・・・なんで言い返さないわけ?アレじゃ、やられっぱなしじゃん」

「言い返したりしたら、私もあいつらと一緒になるじゃない」

「なんだそれ・・・・・・やられっぱなしなんて、かっこ悪っ」

「最低限のことは言ったし」

「あっそ」


 会話はそこで終わり、多田は花壇の花をじっと見ていた。

 なぜか俺はその時、コイツに対抗心を燃やしていた。


 ここで、逃げたら負けを認めたことになる。そう思い、花壇の横には階段が数段あるので、そこに腰掛けた。


「なにしてるの?」

「なにもしてない」

「いや、なんかやることあるんじゃないの?」

「めんどくさいからサボってる」

「じゃあ、私と一緒に花のお世話でもする?」

「それやるんだったら、落ち葉集めるわ」

「あははっ!でも・・・・・・結構楽しいよ?」


 大きな声で、綾乃は高らかに笑っていた。


 それが俺と綾乃との、ちゃんとした出逢いだった。

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