第17話

 俺はキッチンに戻ったあとグッタリとしていた。体力は普通くらいにあると思っていたのだが、看病とは、それ以上に体力を使うらしい。


 白河妹はお昼ご飯を食べたら、すぐに寝てしまった。とても気持ちの良さそうな顔で眠っている。


「夏乃も頑張ってたもんな」


 体を壊すといけないので、ブランケットをかけておく。


 ブーブーとスマホが鳴るので、開くと、お腹空いたという、スタンプが1個、2個、3個と送られて来る。


 レトルトのお粥をレジ袋から取り出して、電子レンジに入れ温める。


 できたら、卵をお粥に入れ醤油をかけて完成。お粥をお皿に入れ、スプーンを持って白河の部屋まで行く。


 コンコンッとノックをする。


「んーんー!」


 何か口に咥えてる感じだった。いーよー!と俺には聞こえたので、ガチャッと扉を開けると


「待って!!」


 しかし、時すでに遅し。白河は下着姿だった。


「な、な、なんでっ!」

「ご、ごめんっ!汗拭きたくて・・・・・・レトルトのお粥って、できるの早いんだね・・・・・・」

「ご、ごめんっ」


 そう言って、俺は部屋を出た。


「水色・・・・・・」


 水色の下着だった。なんか、似合っているというか、予想通りというか、興奮しているのか顔がどんどん熱くなるのがわかった。


「俺も風邪ひいたかな・・・・・・」


 数分待っていると、「ごめんね?入っていいよ」

と声が聞こえたのでさっきよりも緊張しながら部屋に入る。


「さっきはごめん」

「いやっ!さっきのはどう考えても私が悪いよっ」


 そう言われて何も返す言葉がなく、沈黙が続く。

手に持っていたお粥を見て、自分が何しにきたのか思い出した。


「あっ、これお粥」

「ありがとうっ」

「食べれそう?」

「うんっ!食欲すっごくある!」

「そっか・・・・・・よかった」


 俺は安心したのか、自然と笑っていた。それを見て、白河がキョトンとしたあと、目を逸らして少し顔を赤くしていた。


「熱はないんだよな?」

「うん・・・・・・もう下がったよ」

「赤いぞ?」

「これは・・・・・・その」

「これは?」

「う、うるさいっ!」


 なぜか怒られた。ただ顔がまだ赤いから心配しただけなのに・・・・・・


◆◆◆


「ごちそうさまでしたっ」

「じゃあ、それ片付けたら俺は帰るわ」

「うんっ、ありがとうっ」


 やはり面と向かって、ありがとうと言われると、少し恥ずかしい。

 すると、白河のスマホがブーブーと鳴る。


 スマホを手に取った白河がニコニコしていたのでなぜか分からないが気になった。


「どうしたんだ?」

「紗子達・・・あっ友達が夕方お見舞いに来てくれるって言ってくれたから」

「よかったな」

「うんっ!」


 そこには笑みを隠しきれない白河がいた。一旦お皿を洗うために、もう一度キッチンに戻る。


 夏だからこそ、ひんやりした水の気持ちよさを感じながら、お皿を洗う。

 しっかりスポンジに洗剤をつけてゴシゴシと洗う。


 泡を水で流したあと。皿を擦ると、キュッと音が鳴った。それだけなのに、そこには達成感があった。


 皿を洗い終わり俺はまた再び白河の部屋にいる。


「じゃあ俺はこれで」

「本当に色々ありがとうっ」

「いや、大丈夫」

「今度お礼するから!」

「あー、じゃあ聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと?」


 白河が首を傾げて、大きな瞳でこちらを見つめてくる。


「白河って俺と同じ小学校?」


 聞くなら今しかないそう思ったのだ。


「うんっ、そうだよ」


 やはり、一緒の小学校だった。じゃあ、多田綾乃が白河なのか・・・・・・でももう、聞かなくても分かっていた。


「じゃあ多田綾乃・・・・・・って?」

「うんっ、それも正解」

「苗字変わったんだな」

「うん、色々と事情がね」

「そっか・・・・・・」


 しまった。気まずい空気になってしまった。どうにかして、この空気を変えようと頑張ったが、まず話題が出てこない。


「気づくの遅いよっ!」


 そう言って、綾乃が頬を膨らませてこちらをジッーと見ていた。


「気づくか!苗字も違うし、小学生の時の記憶だし!」

「私は入学式の時に一発で分かったもん!」

「見た目だって、こんなに美人になって!気づけっていう方が・・・・・・方が」

「方が?」

「おかしい・・・・・・」

「そっか・・・・・でも、ふ〜ん美人か〜」


 思わず勢いで。美人と言ってしまった。しかし本当に昔より綺麗になっていたし、髪の毛だってサラサラになっていた。


 本人がどれだけ努力してきたかがわかる。


「と、とりあえずっ!俺は今日もう帰るからっ!」

「うんっ!ありがとうっ!バイバイくんっ」


 白河はいつもより頬がほんのり赤く、サラサラの髪の毛を揺らしながら、ふにゃりと笑った。

 そんな彼女の表情を見るのは今の高校で俺だけだと思った。というより思いたかった。


「じゃあな・・・・・・


 その帰りのやりとりは小学生に戻った感じだった。


 白河の家を出たあと、背伸びをした。学校一の美少女と前よりもずっと距離が近づいた気がする。


「俺はなんで綾乃との距離を気にしてるんだ?」


 ふと疑問に思ったが、その時は、まぁいいやとあまり自分の中で答えを出そうとはしなかった。

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