第4話
朝、起きた時に白河姉妹との出来事は夢だったんじゃないかと、疑った。
しかし、夢にしては鮮明に覚えているのだ。
そう鮮明に、あの悪戯っぽい笑顔、白河妹の無邪気な笑顔、姉のくしゃりとした笑みに、やはりお姉ちゃんなのだと思わせるそぶりや、言動。
とても記憶に残っているのだ。
そんなことを思いながら、朝ごはんに置いてあるサンドイッチを頬張る。
今日で3日連続サンドイッチなのだが。まぁ、あまり気にしてはいないが、明日くらいには、スクランブルエッグか、コーンスープくらいはつけておいてほしい。
朝食を食べ終わり、歯磨きをして寝癖をなおし、やっと学校へ向かう。
学校に行くのは辛い。特に土日が終わったあとの、この倦怠感、どうしようもできない。
別に学校自体が嫌いなわけではない。
嫌いではないのだが、一言で言う、めんどくさい
そんなこんなで、「はぁーだるい」と一言漏らすと、もう、学校の正門の前だった。そこには、生徒指導の先生が怖い顔で、生徒一人一人をきっちり、見ている。
笹野だ、通称、鬼の笹野。
生徒指導が厳しすぎると有名だ。俺も2年生になってから、2回は捕まっている。
「お前らー!夏休みが近いからって、気が緩んでるんじゃないかー??」
そっか、もう少しで夏休みなんだ。
すっかり忘れていた。もう、7月の中盤に差し掛かっていた。
ぼーっと考えていると、笹野に急かされ、学校にの正門をくぐる。
◆◆◆
「はぁー、いつ見ても可愛いよなぁ白河」
「あーそうだなー」
可愛いと言って鼻の下を伸ばしているのは
「でもなー、同じクラスの山根と付き合ってるって噂だぜ?」
「え?あの山根?」
「そうあの山根」
山根とは、簡単に言うと、顔は良いが、チャラいし、まぁ、なんだ、タラシってところだ。
「まー、あんなに可愛いんだから、彼氏くらいいるよなー」
三村が少し悲しそうな表情をしている。
すると、クラスが急にざわめきだした。みんなが注目しているのは、教室の前の扉だった。
俺も同じく、教室の前を見ると、白河が俺のクラスをキョロキョロと誰かを探しているように見ていた。
俺は、嫌な予感がしたので、スッと目を逸らしたのだが、遅かった。
俺の居場所が分かった瞬間、白河がニコッとしてこちらに向かって歩いてくる。
歩くだけで絵になるくらいには、綺麗だった。
三村はというと、、、鼻血流しながら、気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「黒田くん、はいっ、これ」
そう言って、俺に渡してきたのは、可愛くラッピングされたクッキーだった。
「えっ?なにこれ」
「黒田くんクッキー知らないの?」
「いや、それは分かるけど、どうして俺に・・・・・」
クッキー自体は知っている。
俺が聞きたいのはそこではない。どうして俺にクッキーをくれるのか教えてほしいのだ。
「このあいだお礼!ちゃんと食べてよね?」
半ば押し付けられた感じですぐに白河は自分の教室に戻って行った。
もう少しちゃんと理由を聞くことも出来ず俺は軽く「あっ、うん」としか言えなかった。
「いいなぁ、黒田そのクッキー」
「あ、あぁ」
「ところでさ、このあいだとは?」
「えっ?」
気づいた時には遅かった。
逃げた方がよかったのだ。次々と
恐るべし、白河親衛隊。
◆◆◆
放課後になり、気分は落ち込みながらも、家に帰る。
白河妹が遊んでいた公園が近づいて来た時、公園の外側のレンガのような塀に座っている女性がいた。
視力はいい方なのでなんとなく、白河姉だということがわかった。
夕焼けに照らされて、綺麗な黒髪がロマンチックな映画のラストシーンを思い出させる。
「なにしてんの?こんなとこで」
気づいた時には声をかけていた。
すると、急に声をかけられてびっくりしたのか、目を丸くした。しかし、そのあと、フニャッと微笑んだ。
不覚にもドキッとしてしまった。
「んー、バイトに行く途中。あっ!食べてくれた?クッキー」
「あっ、その、いや・・・・・・」
「ん〜〜?」
下から俺の顔をニヤニヤと覗き込んでくる。
俺はどうしようか迷っていた。正直に話すか、嘘をつくか、どちらを選んでも傷ついてしまうのではないかと、少し不安だった。
「うん!もちろん、おいしかったよ」
「・・・・・・・・・そっか、、ありがとう」
心なしか、俺の言葉を聞いて、元気がなくなった気がした。
そのあとの、作り笑いのような笑顔がとても胸が苦しくなった。
「あっ、口開けて?」
いきなり口を開けろと言われても・・・・・・と困惑するが白河は急かすように
「いいからっ!はやく!」
「だから、なんで・・・・・・んぐっ?!」
なにかが口に押し込まれた。
もぐもぐと、噛むと、サクサクとした食感にほんのり甘さを感じた。
これは、バターか?
「どう?クッキーの感想は」
どうやら俺がクッキーを食べていないことは白河にはバレていたらしい。
俺の演技が下手くそだったのだろうか・・・・・・そもそも正直に食べられたと言うべきだったのではないだろうか。
口の中にまだクッキーが残っているが、白川の問いに答えた。
「お、おいしい」
スッと言葉が出た。
なんの嘘もない、素直な感想だった。
「はいっ、本当のおいしい、いただきましたっ!」
その時の笑顔は、とても綺麗だった。
夕日をバックに、自分が主役だ!と言わんばかりだった。
そのあと白河はバイト先に急いで向かった。俺は口に残るクッキーのほんのり甘い余韻を楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます