第36話 ビスターの末路

 「失礼します。 騎士団長、報告します」


 急いでやって来た一人の騎士が、敬礼をして報告する。


 「ファジール魔術学園内にて、学生が授業以外で火魔法を三度にわたって使用。 最初の二度は初級魔法。 最後の魔法は中級魔法です!」


 「なんだと?!」


 ガタンと勢いよく立ち上がったことでイスが倒れる。


 「して、魔法を使った者の名は?」


 「副騎士団長バスター・フォン・バルファーの次男、ビスター・フォン・バルファーです」


 「被害者は王族、レン・トルテ・ファジール殿下です」


 「レンか……まぁレンなら無事だろう」


 額に手を当てやや安堵した国王に、厳しい表情のディッグが告げた。


 「テオシウス陛下。 至急バスターを呼びます」


 「そうしてくれ」








 学内事件から1ヶ月後……。



 「ビスター・フォン・バルファー。 学生身分を考慮し、貴族籍から除籍。 犯罪奴隷として十年間の鉱山労働及びファジール魔術学園を強制退学とする。 また、親であるバスター・フォン・バルファーは不問とする」






「あなた、ビスターは……」


 「やつはもう、バルファー家の人間ではない。 これからはただのビスターだ。 貴族籍から除籍、犯罪奴隷として十年間の労働、学園退学処分。 斬首刑でないだけまだ、マシだがどう考えても刑が軽い」


 苦虫をかみ潰したような表情で答えるバスターに、夫人は押し黙った。


 「失礼します。 父上」


 「トリシャか……」


 「今日学園で、ビスターが退学処分になったって聞いたわ」


 「学園側は何と言っていた?」


 「授業以外で攻撃魔法を使った為、退学処分になったから、全学生は校則を再度確認し、理解する様にって言われたわ」


 「まさか、私たちの中から犯罪者が出るなんて……」


 「メロルダ、辛いだろうが耐えてくれ」



「私は、レン殿に合わせる顔がない」





 人の噂も七十五日、と言うように二ヶ月と一週間が経った頃には、学園内でバルファー家の噂や話は消えていた。

 

 バスターは、トリシャに背中を押されながらもレンに会い、ビスターの件について謝罪した。

 レンは同級生から犯罪者が出たことに対して、自分の対処が相手の気持ちを逆撫でしたのでは、と考えていた。

 両者とも和解し、同じ師を持つ者としてこれからも、切磋琢磨していくことでその場を離れた。



 「……ってことがあったんだ」


 レンが話す相手は、幼少期からの憧れであり師匠であり、人生の先輩のユウト、その人だ。 ユウトは話を聞きながら、この世界に来るきっかけとなった、前世の罪を思い出していた。 お金がなくて窃盗に手を出した自分も、犯罪をしたということは、変わりない。

 その事があってか、強く言えないでいた。


 「チーズケーキが食べたいな……」

 

 つい口を出てしまった言葉にレンは反応する。


 「何か言った?」


 「子供の頃を思い出してて、よく食べてたケーキが食べたいなと」


 「ケーキ? ショートケーキとか?」

 

 「いや、チーズケーキ」


 まだ、チーズを知らないレンは、可愛く首を傾げた。

 レンの頭は一瞬でビスターのことを忘れ、ケーキ色に染まった。

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