第36話 ビスターの末路
「失礼します。 騎士団長、報告します」
急いでやって来た一人の騎士が、敬礼をして報告する。
「ファジール魔術学園内にて、学生が授業以外で火魔法を三度にわたって使用。 最初の二度は初級魔法。 最後の魔法は中級魔法です!」
「なんだと?!」
ガタンと勢いよく立ち上がったことでイスが倒れる。
「して、魔法を使った者の名は?」
「副騎士団長バスター・フォン・バルファーの次男、ビスター・フォン・バルファーです」
「被害者は王族、レン・トルテ・ファジール殿下です」
「レンか……まぁレンなら無事だろう」
額に手を当てやや安堵した国王に、厳しい表情のディッグが告げた。
「テオシウス陛下。 至急バスターを呼びます」
「そうしてくれ」
◇
学内事件から1ヶ月後……。
「ビスター・フォン・バルファー。 学生身分を考慮し、貴族籍から除籍。 犯罪奴隷として十年間の鉱山労働及びファジール魔術学園を強制退学とする。 また、親であるバスター・フォン・バルファーは不問とする」
「あなた、ビスターは……」
「やつはもう、バルファー家の人間ではない。 これからはただのビスターだ。 貴族籍から除籍、犯罪奴隷として十年間の労働、学園退学処分。 斬首刑でないだけまだ、マシだがどう考えても刑が軽い」
苦虫をかみ潰したような表情で答えるバスターに、夫人は押し黙った。
「失礼します。 父上」
「トリシャか……」
「今日学園で、ビスターが退学処分になったって聞いたわ」
「学園側は何と言っていた?」
「授業以外で攻撃魔法を使った為、退学処分になったから、全学生は校則を再度確認し、理解する様にって言われたわ」
「まさか、私たちの中から犯罪者が出るなんて……」
「メロルダ、辛いだろうが耐えてくれ」
「私は、レン殿に合わせる顔がない」
◇
人の噂も七十五日、と言うように二ヶ月と一週間が経った頃には、学園内でバルファー家の噂や話は消えていた。
バスターは、トリシャに背中を押されながらもレンに会い、ビスターの件について謝罪した。
レンは同級生から犯罪者が出たことに対して、自分の対処が相手の気持ちを逆撫でしたのでは、と考えていた。
両者とも和解し、同じ師を持つ者としてこれからも、切磋琢磨していくことでその場を離れた。
「……ってことがあったんだ」
レンが話す相手は、幼少期からの憧れであり師匠であり、人生の先輩のユウト、その人だ。 ユウトは話を聞きながら、この世界に来るきっかけとなった、前世の罪を思い出していた。 お金がなくて窃盗に手を出した自分も、犯罪をしたということは、変わりない。
その事があってか、強く言えないでいた。
「チーズケーキが食べたいな……」
つい口を出てしまった言葉にレンは反応する。
「何か言った?」
「子供の頃を思い出してて、よく食べてたケーキが食べたいなと」
「ケーキ? ショートケーキとか?」
「いや、チーズケーキ」
まだ、チーズを知らないレンは、可愛く首を傾げた。
レンの頭は一瞬でビスターのことを忘れ、ケーキ色に染まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます