第35話 犯罪者


 「何も……見えなかった……」


 「身体強化とただの三連パンチですけど……」


 「三連? 三回も打ったのか?!」


 「……ユウト殿いや、マスター。 私にも是非、身体強化を教えてもらいたい」


 「ええ、わかりました。 けど僕は厳しいそうですよ」


 バスターさんの顔は若干引きつっていたように見えた。

 



 ユウトの訓練が始まってから、一ヶ月が経った。

 日課になった確認をしていると、ビスターが話しかけて来た。


 〈身体強化〉


 「さすがです、父上!」


 「ふー。 いや、まだまだだ」


 「何故です? 今までとは比べ物にならない程の練り上げられた魔力だと思いますが……」


 「レン殿やマスターに比べたら……確かに以前よりは発動速度も強化も、速く強く安定している。 だが、まだ魔力が厚い……」


 「ビスター、お前はレン殿とどう接している」


 「どうと言われても、話す事もありませんし必要とも思いません。 学園は学ぶところであって、馴れ合う場ではないので」


 「……レン殿を見習うと良い」





 「くそっ! 父上まで、レン! レン! レン!!」


 寝具に拳を振るうのは、部屋の主ビスター。


 「王族でちょっと強いからって良い気になりやがって!」


 「あいつのどこが良いんだ!」



 「そんなの決まってるじゃない。 あんたはプライド気取りの外面だけで、レンは外面も内面も人格がよく出来てる」


 聞き覚えのある声の方を振り向くと、いつの間にか扉に背を預ける姉の姿があった。


 「トリシャ姉さん……」


 「あんたさっき言ったわよね『王族でちょっと強いから』って。 レンが王族で何も努力してないで強さを誇ってるとホントに思ってるの?」


「だったら何だよ! 姉さんには関係……「大ありよ!」え」


 「何? 関係ないとでも言いたいの? あんたの最近の行動のせいで、あたしまでとばっちりを受けてるのよ? どうせ、気づいてないでしょうけどね!」


 「知らないとは言わせないわ。 路地裏で、気に入らないからと一年の子を蹴ったそうね。 学園じゃ、『バルファー家のビスターって子は、気に入らない事があったら人に当たる異常者』って言われてるわ。 お陰で、あたしまで白い目で見られてるのよ?」


 「王族であろうとなかろうと、努力もしない人が外も中も、強い訳ないわ」







 「今週はアイリだろ? という訳でレン、魔法の訓練手伝ってくれよ」


 「じゃ、ルーク昨日の復習で」

 「お前が……お前が全て悪いんだ!」


 詠唱に合わせて、オレンジ色の火が手の平から集まる。


 〈猛る炎よ、いでよ! ファイヤーボール〉


 球体となった火魔法が、レンを襲ーー


 〈身体強化〉


 ペシ


 わなかった。

 レンはビスターが放った魔法を手で払っただけで、消したのだ。


〈猛る炎よ、いでよ! ファイヤーボール〉


 ペシ


 「何の騒ぎだ! どいてくれ、通るぞ!」


〈我が手に炎よ、集い輝き、敵を貫け、ファイアアロー〉


 パシ


 「は?」

 「い、いやそれよりも……ビスター! 何をしている!」


 「あ、おい逃げるな! ビスターを抑えろ!」


 「レン、手は何ともないのか?!」


 「はい、それよりビスターですね」


 「そ、そうだな」


 「すまないが、学園長室まで連れてきてくれないか。 途中で他の教師と……」


 「何かあったんですか」


 「ああ、良いところに! ウィロー先生はビスターくんを抑えてくれませんか? 至急、学園長室へ向かいます」







 「ふむ。 話はわかった。 ビスターよ、何故こんな事をした?」


 「場合によっては……というより騎士団に引き渡すがの」


 「!」


 ビスターは俯きから一転、学園長の顔を穴が空くほど見つめている。


 「何をいまさら。 校則を破った上、レン以外に当たっておれば重症ものじゃぞ? そうでなくとも、普通に犯罪行為じゃ」


 「確か……お主の父は、副騎士団長だったの。 お主の今回の愚かな行いで副騎士団長の座を失うやもしれん。 子の責任は親も取らねばならない事もあるからの」





 コンコン



 「どうぞ」


 「失礼します。 ファジール王国騎士団員二名、報告を受けて参りました」


 「早いの。 暴れるから抑えておったが、まだ暴れるかもしれん」


 「報告感謝します。 我々はこれで失礼します」



 「ミラーナ、騒ぎは確実か?」


 「王族に対して魔法を放ったたけでなく噂では、以前一年生に対して暴力を振るったとか」


 「高いプライドが、相手の力量を認めたくない故じゃな」

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