第32話 模擬戦

 レンとアイリがキオラールの屋敷で生活を始め、学園に通い一週間が過ぎた。



 「今日は、一年生で模擬戦をする」


 「A~Cクラス合同でする為、闘技場で行う。 全員、着替えて来る様に」




 「ではこれより、合同訓練を開始する。 まずAクラスが模擬戦をする。 その後をB、Cとやっていく。 二人ペアで模擬戦を五分間行い、他のクラスはその様子を見て、各クラスの代表を二名決める」


 「各クラスの代表二名ペアがそれぞれ模擬戦を行い、最後に教師ペアと模擬戦をして終了する」


 「何か質問はあるか」



 「ない様なので、まずはAクラスからだ」








 「各クラス代表の発表を行う」


 「Aクラス代表、レン・トルテ・ファジールとアイリ・トルテ・ファジール兄妹」


 「Bクラス代表、アリッサ・フォン・キャスリンとビスター・フォン・バルファー」


 「Cクラス代表、ライアンとパーラ」



 じゃんけんの結果、AクラスはBとCどちらか勝った方と戦う事になった。



 一人が木剣で相手と戦い、魔法で援護するやり方と、二人とも攻撃重視で魔法を放ち剣を振るう戦いは、見ていて面白くなかった。

 手数が多い方が攻めやすいからだ。


 二分程で決着。


 その模擬戦を見て、レンとアイリはどれくらい手加減すれば良いかを真剣に考えていた。



 「Aクラスの2人はBクラスを殺したりしない様に、最大限手加減しなさい」


 「「はい」」


 「先生、それはあんまりですわ。 私たちがそこの二人に負けると言うのかしら?」


 「確かに、模擬戦を見るに並くらいだと思いますよ」


 「この考えがケーキの様に甘いことを教えて上げてくれ」


 「わかりました」


 「最大限手加減しつつ、殺してしまわない様に更に抑えます」



 「では、始め!」




 結果は、Aクラスの圧勝……


 レンがビスターを殴り蹴り、至近距離で魔法を放ち場外落ちに。

 アイリはアリッサに、水魔法を無詠唱で放ち、動きが鈍くなったところを土魔法で動きを完全に封じた。


 一分もかからないその速さに、為す術なく負けを認めたBクラス。

 Aクラスの、特にレンとアイリの異常さがわかる、模擬戦となった。


 その模擬戦を見て、控えていた教師ペアは、戦闘を辞退。


 授業は終了し、全クラス帰宅を言い渡された。





 「あれが、1年生の実力か?」

 「あの無詠唱はないだろう……」

 「私はレンくんの戦い方が気になります!」

 「確かに、あの流れる様なキレイな動きはとてもじゃないが、真似出来ない」

 「あれは魔法使いの戦い方というより、武闘家でしょう」




 口々に話し合う教師陣のいる部屋を来客が扉を開けた。





 「レン! あいつだけは絶対に、絶対に許さない!」




 「父上! お話があります」


 「どうした騒がしいぞ」


 「今日学園のクラス代表で、模擬戦をしました」


 「勝ったのか?」


 「い、いえ、負けました。 ですが! 相手はレン・トルテ・ファジールで、やつは不正をしたのです!」


 「不正だと? 王族がか?」


 「はい。 気づいたら場外に落とされていました。 瞬きする間もなく、一瞬でした。 これが不正以外に何がありますか!」


 「見ていないし、お前の言い分だけでは確証が持てない。 よし、学園にすぐ行くぞ」


 「い、今からですか?」


 「早い方が良いだろう」







 「失礼する」


 「学園長? どうされたんですか、それに後ろの方は……」


 「こちらはBクラスのビスターくんの父上だ。 今日の模擬戦について聞きたいことがあるらしい」


 「ビスターの父、バスター・フォン・バルファーです。 王族のレンという少年が模擬戦で不正をしたから負けたと、聞いたので教師の方に聞きに来ました」


 「不正ですか?」

 「あれは、不正というより、接近戦だ」


 「接近戦? 失礼、接近戦とは近距離での攻防のことでしょうか」


 「ええ、合っています。 レンくんはビスターくんの眼前に一瞬で移動し、目にも止まらぬ速さで殴る蹴りをし、最後は魔法で場外へ落としました」


 「不正だなんてとんでもない! いくら貴族であっても、ありもしない虚言を言って被害妄想を押し付けようとするのは、あってはならない事です!」


 「息子の言うことは虚言だと?」


 「ええ。 信じられないのでしたら、証拠の映像をお見せしますよ」







 バスターの目の前には信じられない映像が流れていた。

 確かに映像を停止させても、殴ったり蹴ったりをしている。

 何が信じられないかと言うと、その速さだ。

 いくら学生同士の模擬戦とはいえ、この速さ、威力はどう考えても身体強化だ。

 それもおそらく練り上げられた濃い魔力の身体強化……。

 騎士団所属であるバスターは、その身体強化に目を奪われていた。


 「う、うそだ、こんなのうそだ。 あいつは不正をしたんだ……こんなの、認めない……」


 「申し訳ない。 確かに息子は、いや愚息の言ってることは虚言だった。 被害妄想を押し付けているのは明らかだ。 それを踏まえて一つ聞きたいことが出来た」


 「レン殿に身体強化を教えたのは、どなた何ですか? 騎士団に所属する者として、是非教えを乞いたいのですが」


 「それは本人に聞くのがよろしいかと、身体強化は専門外なのです」


 「わかりました。 この度は時間を頂きありがとうございました。 また、愚息の言い分を信じ突然来た事、大変失礼しました。 後日、レン殿にお話を伺いたので出来ましたら伝言をよろしくお願いします」


 「帰るぞビスター。 帰ったら説教だ」

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