第31話 二号店 その二

 「し、失礼します!」


 リンクは緊張しながら入室した為、若干裏返った声が出る。


 「あの! 先程は先王陛下ご一行に失礼な対応をした事、まことに申し訳ありませんでした!」


 初めて見たな、キレイな四十五度の最敬礼。


 「良い、こちらも名乗らなかったのだから」


 「あ、ありがとうございます」


 「人数が多くなったから、下へ行こうか。 そろそろ帰って来そうだ」





 「戻りました」

 「お、久しいなガジャーノ、リーフェイト」

 「アイリスは変わらんな」

 「エルフじゃからな」


 二人は久しぶりの出会いに固い握手を交わした。


 「知らない人もいる事だし、自己紹介をしよう」



 「こちらご存知、先王陛下ご一行です。 子供達の入学式を終えて戻って来ました」


 「ガジャーノ・トルテ・ファジールだ。 今は『神の島』で生活しておる」


 「妻のリーフェイト・フォン・ファジールよ。 同じく『神の島』で生活してるわ」


 「レン・トルテ・ファジールです。 ファジール魔術学園の一年生になりました。 キオラール兄さんの元で生活しつつ、カフェシエルで働く事になってます。 よろしくお願いします」


 「アイリ・トルテ・ファジールです。 同じく一年生で、キオ兄様の屋敷で生活し、シエルで兄レンと交代で働きます。 よろしくお願いします」



 「そしてこちら、カフェシエルの新従業員のリンクと商業ギルド職員」


 「初めまして。 母、シャルルの息子になります。 リンク十七歳です。 カフェシエル一号店で働いています。 よろしくお願いします」


 「商業ギルドマスターのアイリスじゃ! まだ三百五十七歳のピチピチじゃ!」


 アイリスさん、三百十五七歳だったのか……。


 「商業ギルドの職員をしています、ポールです。 カフェシエル一号店の担当です」


 「商業ギルドの職員をしています、サリーです。 喫茶シエル二号店の担当です」


 「あ……レン、アイリ! 僕の事は、シャーノアって呼んで。 カフェシエルでは昔からこれで通してるから」


 「「わかりました」」




 「それで、二号店はどうだった?」


 「はい、率直な感想を言いうと……」


 何が言われる? 広さか? 


 「何もかも広くて、驚きを通り越して呆れました」


 隣の二人は頷き、交互に意見を述べる。


 「出来れば、通路を半人分広く出来ませんか? 厨房の通路です」

 

 「家族で来てもいいように、店内の色を明るくして欲しいです」







 「くそっ! いつになったら、レシピが公表されるんだ! もう、十二年だぞ!」


 「あの忌々いまいましい子供ガキめ」


 「ねえあなた、あの子にやらせましょ。 私たちが従業員として入るよりも、確実性が増すんじゃないかしら?」


 「いや、だがあいつはケーキにしか目がないぞ?」


 「だからよ。 ケーキのレシピを盗らせて私たちが先に作るのよ。 そうすればもっと売上が上がるわ」

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