第30話 二号店

 「母さん! 知ってたら教えてくれよ!」


 慌てたように早口で話すリンクに、シャルルは笑って返した。


 「ふふ、驚かせようと思って」


 「マスターって言うからてっきり、もっと高齢なのかと思いました。 20代くらいですか?」


 「二十五だね。 リンクとは八歳差だよ」


 はっとした表情になり、計算を始めるリンクにユウトは微笑みながらサンドイッチを咀嚼そしゃくする。


 「僕が五歳の頃に母さんが働き出したという事は……十二年前? 十三歳で店を構えた?」


 「あの頃は、大変だったな」


 「マスター! 来たなら言ってよ!」


 「シャーノア……お主先程まで寝ておったじゃろ。 わしが起こさんかったら……」


 「ハハハ……」と苦笑いするシャーノアに対して、周囲はため息を吐いた。





 「今日は、商業ギルドにいくつかのレシピの販売許可と、カフェシエル二号店に向けての話し合いの為に、集まってもらった」


 「シエルの従業員である、リア、リオルク、シャルルさん、シャーノア、リンク。 それから商業ギルドのギルドマスターである、アイリスさんと、喫茶シエル担当でお馴染みポールさん。 最後に新しく2号店の担当に決まった、サリーさん。 このメンバーで話していきます」


 「レシピからじゃの、どのレシピを販売すればいいんじゃ? ポール」


 「はい、ユウトさんと話し合って決めたところ、パンは確実に出します。 後は、クッキー、スパゲティ、ハンバーグです。」


 「応用が利くのを出すのか」


 「そうです。 手の込んだものは、カフェシエルへ。 という形をとろうかと」


 「良いと思うぞ」


 「次は私ですね。 二号店の担当になりました、サリーです。 一号店の従業員と二号店で働く従業員を話し合ってわけました。 まず一号店が、ユウトさん、シャルルさん、リンクくんで、二号店がリアさん、リオルクさん、シャーノアさんの3人になります」


 紙の束を読み上げながら話すサリーは、シャーノアの名前を呼ぶ時に少しだけ頬を赤くした。


 「え、母さんと3人……」


 「あら、接客は1人よ?」


 「はい。 なので、一号店には、今日学園に入学した王族のレンくんとアイリさんのお二人に週ごとで入ってもらいますし、持ち帰り用のカウンターはメイドのマリナ様にして頂きます」


 「二号店は、先程の三人でやりくりしてもらいます。 平民エリアで開店するので、純粋な心で「働きたい」という方がいるかもしれません。 その際はユウトさんを混じえて面接をして頂ければと」


 「二号店の従業員募集はどうするんですか?」


 「うーん、従業員が入るまで二号店に入ろうかな」


 回転率に不安が湧き、意見を述べるとサリーさんはすぐに対応する。


 「……わかりました。 では、一号店は四人と従業員一名募集。 二号店が四人と従業員二名募集」



 「レシピ……従業員……後は二号店の中じゃな!」


 「ふふふ、一号店とは違う店内にしようと思いましてね!」


 「うむ。 長時間話し合ったのお」


 「どんな店内になるんですか? それによって動き方も変わりますし……」


 「注文は、取らない!」


 「「「え!」」」


 「更に、全部やってもらう!」


 「「「は?」」」


 「従業員がやるのは極端な話、調理と会計だけ!」



 「「「ええええええ!!!」」」





 「マスター……思い切りましたね」


 「配膳と接客をやらないって……」


 「調理と会計だけ……」


 「初めて聞いたら、絶句物ですよね。 私もそうでした。 慣れ親しんだカフェシエルのやり方と全然違いますから」


 「説明しよう」


 「お願いします」


 話がわからない数人が姿勢を正し、「さあ来い」という表情をする。


 「まず、お客さんが店に入る。 そして一号店と違う配置に驚く。 絶対一号店の感覚で、席に座り注文しようとするから、それを止めて案内する為に、出入り口で待ち構える」


 「この時点で出入り口が詰まると、予想される。 なので、案内はスムーズに行う。 お客さんを誘導してトレーを取ってもらい、お客さん自身が食べたい料理を、自由にお皿に盛り付けて貰う。 トレーに載せた品を計算する。 お客さんが座って食べる。 そして、帰る!」


 「なるほど、計算の仕方はどうなるんですか?」


 「いい質問だね、リオルク」


 「お皿が3種類ある。 小皿、中皿、大皿だ。 小皿は銅貨五枚、中皿は大銅貨一枚、大皿は大銅貨二枚。 料理に関係なく、皿の大きさで計算する」


 「ご飯や味噌汁の場合は、器を二種類用意した。 普通と大盛りだ。 普通が銅貨五枚、大盛りが大銅貨一枚。 飲み物は、普通のコップが銅貨五枚。 コップ大が大銅貨一枚。 ジョッキが大銅貨二枚」


 「なるほど、計算はしやすいですね。 全て小さい物から、銅貨五枚、大銅貨一枚、大銅貨二枚で統一されてて、楽そうです」


 「ただこれだと、調理側が大変だと思います」



 問題はそこなんですよね。



 「そこは、一部を増やして、別の品を減らすとか話し合って欲しい」


 丸投げしました。 ごめん。



 「マスター、席数は?」


 「シャーノアくん、席数はどれくらい必要だと思う?」


 「えーと、一号店が三十三人だから……倍くらい?」


 「うん、百人は入るかな」


 「あれ? もう建築してるんですか?」


 「してるのお」


 「え、どこですか? 今、建築してるところとか、平民エリアに無いですよ?」


 「そりゃ、認識阻害の魔法をかけてるからね。 わからないよ」


 商業ギルドマスターのアイリスさんと、特大の認識阻害魔法をかけてるもんね!


 「僕は物凄く、不安になってきたよ」


 「今から見に行くことは可能ですか?」


 「まぁ、店内だけなら……」







 「良い演説だったな。 『学友と励んでいきたいと思います』まずはその、学友探しだな」


 「ずっと、好奇の目で見られてましたよ」


 「あと、試験の魔法と剣術が酷かったかな~」


 「それは仕方ないんじゃないかしら。 剣術はともかく、魔法は無詠唱でしょ? むしろ無詠唱が出来る魔法使いがほとんどいないもの」


 「「え?!」」


 「国に仕える魔法使いでさえ、無詠唱はおらん。 わしが知る限り無詠唱が出来るのは、ユウトと城のオートマタ、キオラールそしてレンとアイリだけだ」


 四人は帰りの馬車内で、楽しげな会話に花を咲かせる。



 馬車は、目的地であるカフェシエルに到着し、四人は店内に入った。


 たまたま、二号店の店内を見に行ったメンバー以外が、休憩の為に降りていた時に王族四人が扉を開けた。 扉が開き二人の大人と二人の学園生徒が入って来たのを見たリンクは、四人に向かって声をかけた。


 「すいません。 本日はお休みです。 CLOSEの掛札は見えませんでしたか?」


 「見えたが用事がある為、入ったが何かまずかったか?」


 リンクは、反省の色のない言い方にイラッと来たが、シャーノアの言葉で今日一番驚いた。


 「あ、父上。 入学式は終わったんですね。 マスターなら休憩室にいるよ」


 「え」


 「そうか。 ならば休憩室へ行こうか」


 「シャーノアさん……もしかして……先王陛下とご家族の方ですか……?」


 「そ! 父上と母上と、弟のレンと妹のアイリ」




 リンクの顔が真っ青になり、失礼な言い方を謝罪する為に駆け出したのは、言うまでもない。

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