第25話 『神の島』の生活

 何度か修正があった見本の屋敷を再現する為、浮遊城付近の土地に移動し、〈創造魔法 クリエイション〉で見本通りの屋敷を建てた。

 ゼダンとマリナと一緒に、建物内部を細かく確認し、生活しやすい様にその都度修正した。



 そしてテオシウスさんが二十五歳になった次の日に式が行なわれ、三十年振りに国王が交代した。






 「もち米を量産したいと思う」


 「もち米……米とは違うのか?」


 「米といえばカレーライスなどに使う、うるち米……まあ米ですね。 この、もち米は普通の米と違い、白く不透明で粘り気が多くなる為、ライスとして食べるというよりデザートにして食べる機会の方が多くなる」


 「喫茶シエルの新メニューのデザートを増やそうと思うんだけど、肝心のもち米がない。 よって、もち米の栽培を浮遊城でする事にした!」


 「花壇の水やりはした事あるけれど、農作業はないわね」


 「ほとんど中腰でやるので腰が痛くなりますよ」


 「まあ、うるち米……米の栽培をしてない分、混ざることは無いけど……」


 「混ざるとどうなるんだ?」


 「もち米にうるち米の花粉がつくと、うるち米が出来てしまい、もち米にならない」


 「おお、そんな事になるのか」

 「けど、混ざる事はないのよね?」


 「ええ、うるち米である普通の米は無限食料庫から使ってるので、栽培すらしてない。 というか栽培したくない。 面倒だから」


 「食料庫にもち米を置いたら増えないのかしら」


 「どうやら、米は米と一種類しか増えない様で、他の食材は……例えば、トマトならミニトマトもあるし、パプリカなら赤と黄があった。 でも何故か米はうるち米だけ」


 「食料庫もそこまで万能ではないということか」





 「腰が痛くなるってこういう事だったのね。 田植え……面倒ね。」


 「王太后陛下が、農作業をする時代が来るとは……」


 「あら、先王陛下は田植え作業が終わったのかしら?」


 「父上、母上。 僕とギルバートは終わりましたよ」


「「えっ」」


 「キオラール様、この田んぼというのは歩きにくいです。 何故早く動けるんですか?」


 「ユウトさんにさっき、魔法をかけてもらったから……ほら! 普通に歩くのと変わらないよ!」


 「ズルいな」

 「ええ、ズルいわ」





 「これは……壮観だな」


 「成長促進の魔法薬をかけたので」


「 母上、僕の目がおかしいんですか? 一夜明けたらこれが普通なんですか?」


 「草花でもこうはならないわ」


 「キオラール様、私の目にも同じ光景が広がってますので、目と頭は正常です」


 田植えをした翌日、朝食を食べて田んぼに来てみると作った魔法薬のお陰か、刈り取れる状態になっていた。



 全員が軍手、長靴を装備し手に鎌を持って、それぞれが植えた場所で稲刈りを行った。


 背後には、メイド型オートマタ達が大量の木材で組んだ稲木が用意されており、後のことを見越して新たに稲木を作っている事に気付かず、王族と騎士の四人は鎌を振るっていた。


 この後なにが起こるのかも知らずに。



 余談だが、稲木は『はざがけ』をする為に必要な物だ。

『はざがけ』をする事によってアミノ酸と糖の含有量が高くなったり、藁の油分や栄養分、甘みが最下部の米粒へおりて、旨味が増すと言われている。






 「あ~疲れた~」


 「やっと終わったな」


 「先王陛下、リーフェイト様……キオラール様……」


 「どうしたの~ギルバートくん」


 「私の目はおかしくなったんでしょうか……」


 「流石にこの量になるとは思ってなかったからな。 無理はないだろう」


 「い、いえ、あの、申し上げにくいんですが……生えてます」








 先程、刈り取ったハズの場所は、一夜明けた時の光景そのものだった。


ユウトは黙々と稲刈りを続けていて、刈り終えた稲を束にして、結び運ぶメイドたちを見て四人は、これでもかと目を見開いた。



 「ふっ。 ゼダンよ、すまないがカフェシエルの従業員を呼んではくれまいか」


 「そうね、もし、いえきっと刈っても生えてくると思うから、私たちだけでは終わりが見えないわ」


 「ぼ、僕が行くよ!」


 「待て! キオだけ逃がす訳にはいかぬ!」







 ゼダンが、カフェシエルから従業員を連れて戻って来た時には、城を囲う壁の前に見事な米の壁がそびえていた。

 しかも、田んぼがある場所まで続いている。


 リア、リオルク、シャルル、ガリムの四人は、一心不乱に鎌を振るう王族三人と騎士を見て「これから自分たちもやるのか」と、一瞬だけ、皆の思いが一つになった。





 日が沈みきった頃…

ガジャーノさん、キオラールくん、ギルバートさん、リオルクさん、ガリムさんの6人は男湯へ。

 リーフェイトさん、リアさん、シャルルさんの3人は女湯へ、浸かっていた。


 「ふぅー、老体にムチ打つ稲刈りだった」


 「父上はこれから、どう過ごしていくんですか?」


 「父上……てことはやっぱりシャーノアは、キオラール様だったか」


 「そうだよ。 因みに、ガリムさんの本名は、ガリューム・トルテ・ファジールだよ」


 「まさか、公爵家……ですか?」


 「リオルク。 公式の場でない限りは、今まで通りで構わない」


 「それでユウトは、風呂から上がったが何をするつもりなんだ?」


 「ユウトさんなら、もち米で作るものがあるーって言ってた」


 「昔のキオラールが、今の姿を見たら卒倒しそうだな」


 「何でだ? ガリム」


 「昔のキオラールは、勉強の鬼だったからな。 勉強しない人は努力しない人という見方しか出来ないでいた。 何も嫌々する勉強だけが全てじゃない、楽しく学べる事だってある。」


 「それに昔はこんなにも、砕けた感じではなかった。 例えるなら学者みたいな感じだ」


 「真面目だったんだな。 シャーノアは」


 「リオルクさんも真面目だよね」



 「キオ、カフェシエルは楽しいか?」


 「はい、父上! テオシウス兄さんも来れたら良かったんだけど……」


 「テオシウスは今やファジール王国の国王だ。 国を治め、民を守り、平和を維持しなければならない立場にある。 まあ、多少の息抜きはあっても良いと思うがな」


 「でもテオシウス兄さんが来た時が、偶然にも今日みたいな感じだったら、息抜きにならないと思う……」


 「確かにそうだ」


 『ハハハッ!』



 「あら、何か笑ってますね」


 「シャルルさんは息子さんがいるのよね」


 「はい、五歳になる息子と二人で生活してます」


 「それじゃ早く帰らないと……」


 「今日は養護院に預かってもらっているので、大丈夫です」


 「そうなの? じゃあ、リアちゃんは結婚とか考えてるのかしら? 成人して三年よね」


 「お、覚えて……」


 「記憶力は良いのよ」


 「結婚より今の生活が楽しくて……」


 「リーフェイトさんは、その、お子さんは作らないんですか?」


 「ふふふ、あの人が頑張るしかないわね~」

 「私は構わないんだけど」

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