第13話 面会
翌日……
ガジャーノ・トルテ・ファジールは、日が昇ったすぐ後の朝早くに、目が覚め起き上がっていた。
身支度を整え、五時頃には朝食を済ませている。
そして、宰相のトルパーダと王位継承権第一位のテオシウスを自室に呼んだ。
今まで朝早くに自室へ呼び出されることが無かった二人は、駆け足で部屋に入って来た。
「わしはこれから『神の島』へ向かい、城の主と面会してくる。 国の留守をテオシウスに任せ、トルパーダにはテオシウスの補佐をしてもらう。 以上だ」
「父上。『神の島』の土産話、楽しみにしておきます」
「テオシウス殿下の補佐、謹んでお受けします」
「ディッグ! 『神の島』へ行く。 ついて来い」
「はっ」
◇
「おお!! これが『神の島』か!」
ガジャーノ陛下は、騎士団長ディッグの背後から視界に映る景色に興奮した様子で叫ぶ。
「陛下、結界が張ってありますがいかが致しましょう」
「よい、あの森の所まで行ってくれ」
絨毯の進行方向を島の左側に位置する森の端に変え、向かった。
難なく結界を通ると、森の入口に大きなフェンリル様とおそらく子供だろうフェンリル様、更に執事が一人待っていた。
絨毯に乗っていた二人が大地に降り立つと、執事が挨拶をした。
「初めまして。 私は浮遊城に住まうマスターの執事をしております、執事型オートマタ、ゼダンと言います。 お見知りおきを」
「ガジャーノ陛下は私とこちらのフェル様に、騎士の方はヴィズ様にお乗り下さい」
ゼダンは自分の背丈の2倍はあるフェンリルのフェルと、ゼダンと同じ背丈のヴィズを白い手袋をした手の平で示した。
「よろしく頼む」とそれぞれのフェンリルに言葉をかけ背に座り、フェンリルはゆったりと風を切り森の中を走る。
耳元で風がヒューヒュー鳴り、騎士の鎧が当たるガチャガチャという音が鳴る。
木々に挟まれた道を進む。
左右の木々が途切れた瞬間、目の前に現れたのは白い壁の大きな城である。 屋根は濃い青色だ。
壁は遠目からでも継ぎ目が見える石造りで、互い違いに隙間なく並べられている。
見上げると、大きな広い屋根とは別に尖った屋根が何箇所か出ていた。
一年前に転生し目を覚ましたユウトと同じく、ガジャーノ陛下とディッグも当時のユウトの様に目を丸くしていた。
王都の城よりは小さいが貴族の屋敷の3つ分だろうその城に思わず、吐息が漏れる。
城の大きさよりも美しさに目がいき、つい「王都の城もこうであったら」と愚痴を吐いてしまう。
そうこうしてる内に草原を走り抜け、門の前に到着する。
ゆうに十メートルはある巨大な門は、左右同時にゆっくりと城の内側に向けて開き始めた。
徐々に開いていく門を眺めつつも、城の中に足を踏み入れる。
「陛下」
ディッグに声をかけられなかったら城内の装飾に目を奪われながら、ぶつかっていた事だろう。
昨日、冒険者ギルドで退出していった、王位継承権第三位である息子と同い年くらいの少年がメイドと立ち並んでいた。
「早かったね。 ようこそ浮遊城へ。 騎士さんは何か言いたそうだけど僕が、ここの主だよ」
◇
応接室に通され、出された紅茶を飲む。
城で出される紅茶よりも格段に美味い……。
「ユウトよ、この紅茶は一体どこで仕入れたのだろうか」
「この世界にはない茶葉ですから商会でも手に入りませんよ。 合いませんでした?」
「いや逆だ。 爽快な渋み、上品な香り、今まで飲んだ中で1番と断言出来る」
「冒険者ギルドで出された紅茶と、比べることは出来ない。 だが城の紅茶よりも美味いのは確実だ」
「この紅茶は、色、香り、味の全てにバランスが取れた、異世界のディンブーと呼ばれるものなんですよ」
「先程から気になっていたのだが、『この世界』や『異世界』とは一体……」
「実は……僕は一度死んでいるんです」
僕は経緯をザックリと陛下に話した。
◇
「……にわかには信じがたい」
「第二の人生を過ごす為、神から命とこの島を与えられた……と」
「わしは冒険者ギルドで、ユウトに『どうするんですか』と聞かれた際に『出来ることなら余生を過ごしたい』と言ったが、その気持ちは今も変わっておらん」
「僕としては神獣も住んでいる為、悪意が無ければ構いませんが、良いんですか? 自分が治めていた国を離れて」
「構わぬ。 息子のテオシウスは、もう二十四。 学もあり優しく鍛えられている。 いつ交代しても問題ないと思っておる」
信頼されてるんだな、まだ会ったことないテオシウス殿下。
「ところで、少しばかり茶葉を買い取りたいと思っておるのだが、金貨何枚程だろうか」
「異世界だと、百グラムあたり銀貨一枚と大銅貨四枚ですかね。 百グラムならティーカップ約五十杯分になりますよ」
「それは……安すぎないか……?百グラム金貨一枚でも買うぞ」
「うーん、なら冒険者活動の傍ら喫茶店経営でもして商品も取り扱おうかな」
口から出た呟きにより、後の王都一の喫茶店経営とガジャーノ陛下含む王族の余生場所が決定した。
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