第12話 疾風と調査報告
「S級ランクのパーティって初めて見ました! どうやったらS級になれるんですか?」
「D級やC級までは魔物を討伐してれば実力を認められてランクが上がるんだ。 しかし、B級やA級になるには護衛依頼を受けて、他の奴との協調性が良くないとなれない。 実力があっても、素行の悪い奴のランクが上がったら横暴な態度をとる可能性が出てくる。 だから、早く上がりたいなら護衛依頼を受けた方が良い」
「ここまでは良いか?」
「はい。 S級だと指名依頼とかですか?」
「そうだな。 A級に上がれば指名依頼が受けられる様になる。 指名依頼・通常依頼・護衛依頼……後はないに越したことはないが緊急依頼の達成率を考慮して、S級に上がれるんだ」
「もちろん、S級に上がるにはギルドマスターの許可がないとムリだ」
「先が長そうですね……」
「ねえ、話割って入るけど、ちょっと良い? 戦闘中の詠唱の事なんだけど…」
「詠唱ですか?」
「そう。 あ、私はエルフ族のシュリーよ。 ランクはS級」
「それで、詠唱なんだけど、さっきの戦闘中、呪文を唱えて無かったわよね。 どうやるの?」
え?! 呪文の省略? 考えたこと無かったなあ…)
「え…えーと、まず、1つの魔法の詠唱呪文を必要な所だけ区切ります。 風魔法のウインドカッターの場合の詠唱呪文は、『風よ我が手中に集いて鋭く断ち切る刃となり敵を貫け』です」
「ここから更に詠唱を短くします。 『我が手中に集いて風切り進む刃よ』。 この詠唱に慣れたらあと一息です」
「『
「応用編になるんですけど、『風よ切り裂け』ではなく、『風よ穿て』なら、右へ曲がりますし、『風よ引き裂け』だと、左に曲がります」
「「「「「……………」」」」」
あれー? もしかして、やっちゃった?
「あのー……」
「はっ! 途中から何言ってんのかサッパリ理解出来なかった…」
「聞いてたけど、抜けてった…」
「ファジール魔術学園の教師より、教師っぽい……」
「長く生きてきたけど、詠唱の省略化なんて考えたこと無かったわ…」
と、ジャック、シーフのパスク、僧侶のブルガ、エルフのシュリーの順にそれぞれ呟く。
「ホントにC級なの?」
それは言わないでケイリーさん。
◇
疾風の四人と一緒に、僕とケイリーさんは冒険者ギルドに帰還し、受付を目指した。
「あら、随分早かったわね、もう報告?」
「はい。 調査報告に来ました、ミリアさん」
「応接室まで案内します。 疾風の皆さんはお待ち下さい」
「ギルドマスターに報告するんだろ? なら一緒に伝えることがあるからついて行って良いか?」
「わかりました。 どうぞ」
ミリアさんを先頭に、僕、ケイリーさん、疾風の順で応接室に入ると、既にギリックさんが紅茶を飲んでくつろいでいた。
ギリックさんの前、つまり部屋の奥には一人の男性とソファーの後ろに騎士が立っていた。
「失礼します。 ギルドマスター、ユウトくんとケイリーさんがダンジョンの調査報告に来ていて、疾風パーティは報告したい事があると仰っております」
「む、ダンジョンの調査報告だと? 是非とも聞きたいものだ」
「そうだね、ユウトくん報告を聞こうか」
「はい。 と、その前に僕の名前はユウトと言います。 C級冒険者です。 よろしくお願いします、ガジャーノ陛下」
「ほう、礼儀正しい若者だ。 私はガジャーノ・トルテ・ファジールだ。 それにしても黒髪黒目とは珍しい」
「では、十七階層と十八階層の調査報告を……」
僕は、ダンジョン内での出来事をこと細かく報告した。
十七階層に着いた時の話では、陛下が驚愕の表情をしたが、討伐した事を伝えると安堵していた。
また何故、疾風が十八階層にいたのかと話を聞くと、僕らの時と同じく魔物で埋め尽くされていて、スタンビートで増える魔物を減らす為全進するも、後に引けなくなり十八階層に降りたと言っていた。
「以上で、報告を終わります」
「あの、ギルドマスター。 私のランクを降格して欲しいです。 ユウトの戦いや私のこれまでの振る舞いを考えて、思いました」
「うん。 じゃあ、ミリア、ケイリーのランクを降格しておいてくれ」
「かしこまりました」
そう言ってミリアさんとケイリーさんは、静かに退出した。
「じゃあ、次はジャックたちの話だね」
ジャック率いる疾風が受けた、オーガ・キング討伐の失敗。
更にダンジョン内で魔物の押し付けというマナー違反。
をギルドマスターに謝罪した。
ええ、オーガ・キング倒しちゃったよ。
「うーん、今回の討伐依頼の失敗は不問にするよ。 オーガ・キングはユウトくんが討伐しちゃったしね」
ギリックさんは紅茶を飲み、そう言う。
「さて、話が一区切りついた所で、先程までの話を続けよう。 ああ、ユウトくんも聞いていて構わない」
「……はい」
「『神の島』に、疾風が調査に入ったところ、森を住処としているらしいフェンリル様に『許可なく二度と足を踏み入れるな』と言われたそうだ。 これについてギルドマスターとしての意見を聞きたい」
は? 浮遊城の森に入った?
「許可なく……ですか。 誰に許可を取るんですかね」
「ジャックが言うには、『神の島』には城があったらしい。 という事は何者かが住んでいて、許可を取るならその城の主ではないかというのが、宰相の意見だ。」
これは、完全に巻き込まれてるな……。
「許可を取る相手がわからないのにどう「許可を取ってどうするんですか?」」
「貴様! 今は陛下が「許可を取ってどうするんですか? 島を奪うつもりですか?」」
ガジャーノ陛下は眉間にシワを寄せて唸りつつ、騎士の言葉を無視して話た。
〈スキル 真偽の目〉
「『神の島』を奪うつもりなど無い。 私は帝国のドルバ皇帝とは違う。 城の主と面会し我が国の敵とならないか確認したい。 そして出来ることなら、余生を『神の島』で過ごしたい。 それだけだ。」
ウソはついてない……。
「……ガジャーノ陛下、明日これをつけたまま、島の森に入り城まで来てください。 話を通しておきます。 「指輪? 何だこれは……」では失礼します」
陛下が指輪をつけたのを確認して部屋を退出した。
ユウトが部屋を出た後、ギルドマスターのギリックが、何かに気づいた様に呟いた。
「……まさか、いや……しかしこれなら……」
「どうしたギリック。 険しい顔をして」
「陛下、ユウトくんは『神の島』の関係者もしくは城の主ではないかと思います」
「何?! ならば呼び戻して! いや、いい……不敬があっては……」
「大魔法を発動された気分だ」
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