第11話 ダンジョン調査

 昨日と同じく王都の門を出て、東の森へ向かう。

 東の森の更に奥にダンジョンがある。

 どうやら、聖女がダンジョンの十七階でスタンビートが起こるかもしれない、と言ったことからその予兆があるかを確かめるべく調査依頼を国王陛下自ら出した様だ。


 スタンビート。

 魔物が活発化し過ぎて起こる大規模進行。

 ただでさえ世界各地の神獣が消えて活発化しているにも関わらず、スタンビートまで起こってしまったらば取り返しがつかない事態になりかねない、その為の調査だ。


 ダンジョン内は、見る限り静かだ。

 ダンジョンに来たのは初めてだが、一階層、二階層、三階層と魔物一匹でない静かさだ。


 「静かすぎるわ。」


 「静かすぎると何かあるのか?」


 「当たり前でしょ。 そんな事もわからないの? これだから下級ランクは」



 足を止めることなく十七階層……。


 「グギャギャギャ」

 「ガァルァァァ」

 「キシシシシィ」


 魔物の声が複数響いているのを聞いた気がして、十七階層の入口からそっと見ると魔物で埋め尽くされていた。


 「ヒッ!」


 自称A級冒険者ケイリーさんが、背後で小さく悲鳴を上げる。


〈光魔法 インビジブル〉


 インビジブル。 周囲に溶け込み姿が見えなくなる魔法だ。


 そして、威力が高く広範囲に魔法を放つ殲滅魔法の詠唱を開始した。


『雷雲引き連れし……聖者の怨鎖よ……其は孤独な凍れる牢獄に等しく……命の天秤を滅びへと傾けん』


 周囲から風が、魔物に向けた手の平に集まる。

 やがてそれは大きく、大きくなる。



〈フルウインド・オブ・バースト!〉



 竜巻を見たことがあるだろうか?

 人も家も建物も何もかも巻き上げる、近づきたくないあの竜巻を。


 だが、縦に伸びる竜巻ではなく、横向きで真っ直ぐ勢いよく切り裂く竜巻は見たことが無いのではないか?

 轟音とともに敵を切り裂き、その質量と圧倒的な速度で魔物の体をバラバラにする様を。


 魔法は数百キロ先まで切り裂き、そこにいるであろう魔物を蹂躙し、視界の右斜め上にあるマップの赤い点が消え、風魔法の通った所では命が消えている。


 そして、十七階層の魔物の反応が全て消えた頃、恐る恐るといった感じにケイリーが口を開く。


 「な、何がC級よ……こんなのA級でも……」




 「さあ、下に行きますよ」





 調査依頼は基本的に指定された階層と下の階層も、報告しなければならない。



 十八階の奥の方から低い咆哮のような叫び声が聞こえた。


 洞窟の奥から四人の冒険者が、なりふり構わず全力で走って来る。


 更に冒険者の背後から、十人の赤黒い肌をした人型の魔物が全力で駆けてくる。


 「逃げろ!」


 人型の鬼の魔物として有名なオーガが、手に持つ武器を走る冒険者の背に向かって投げた。



 身体が反応していた。



〈スキル 身体強化〉を足に集中し跳び、武器を蹴り返す。

 蹴り返した武器がオーガの胸に突き刺さり、壁に激突し土埃を上げる。


〈風魔法 エアカッター〉を放ちつ。

 瞬時に〈風魔法 エアソード〉を持ち、オーガの胴体を切り裂く。

 死体になった素材をアイテムボックスに収納する。


 この間僅か、三十秒程度……。


 ケイリーはもちろんの事、四人の冒険者もポカンと口を開け呆然とし目を丸くしている。



 「Guraaaaaaa!!!」



 一際大きい咆哮が洞窟内に響き、耳鳴りがした。


〈スキル 鑑定〉


 オーガ・キング

 討伐ランク B



 ユウトは万能具を出現させ、銃と剣のイメージを頭に思い浮かべる。

 すると、イメージ通りのこの世界にはない黒い銃とちょっとカッコイイ白銀の剣が、両手に握られていた。


 ユウトの足元に魔法陣が浮かび上がり、瞬時に地面を蹴った。 剣を振り上げオーガ・キングの武器と火花を散らす。

 魔法銃の銃口を向け乱れ打つと、オーガ・キングは痛みに叫び声を上げ、抗い、ユウトの剣を横薙ぎに払う。

 魔物はその信じがたい脚力で、勢いよく上空に飛び上がった。

二十メートル程離れた天井まで飛び上がり天井を蹴って襲い来る。

 ユウトは剣先を向けて魔法を叫んだ。


〈水魔法 アブレッシブカッター〉


 オーガ・キングの眉間に高圧水流が貫通し天井に凹みを作る。

 オーガ・キングの死体は勢いを無くし地面に落下した。


 十八階層のオーガ集団の討伐が、オーガ・キングを最後に終了した。



 「ふう……。 さ、報告に帰ろうケイリーさん」


 「なあ、お前らダンジョンの外に行くのか? だったら俺たちもついて行って良いか?」


 「僕はユウト、C級冒険者です。 後ろのエルフの女性は自称A級冒険者のケイリーさん。 上まで、よろしく」


 「俺たちはS級ランクパーティ疾風で、リーダーのジャックだ」

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