第三話:13種目の亜人(後編)
ネノカタス帝国軍イワヤト基地。
基地内の取調室の一角で1人の少年が尋問を受けていた。
少年は取調べに対し、協力的な姿勢で答えているもののその中身は要領を得ていなかった。
その光景をマジックミラー越しに見つめる1人の男がいた。
軍人らしい体格、茶色の髪をオールバックにし、無精髭を蓄え、口に煙草を咥えながら一連の光景をずっと眺めていた。
彼の名は、ワーウォルフ•ヴェーダ。帝国陸軍に所属し、階級は少佐。今現在尋問を受けている少年をこの基地に連れてきた張本人である。
歳は42歳。帝国軍に20年以上勤めており、二等兵から少佐に上り詰めた俗に云う兵隊元帥である。
現在は一個魔導士大隊の隊長に着任しているが、若い頃は中東の第一線で最強種と恐れられている
彼が少年を見ているのには理由があった。
最初に発見した際に少年が所持していた魔装の残骸。
10年近く前の作戦に導入された兵士の機体が破壊され、そのまま放置されたものだろう。
もう既に魔力など残っているはずもないその残骸から何故魔力反応が発せられたのか。その理由についてヴェーダ少佐には心当たりがあった。
(少年の生体検査の結果はまだ出ていないが…俺の予想が当たっていれば彼は…)
ヴェーダ少佐が煙草をふかしながら考えに耽っていると、取調室のドアが開く音がし煙草を灰皿に押し付けそちらに向き直す。
ドアから出てきたのはついさっきまで少年を尋問をしていた男性士官だった。男性は少佐の元に近づき互いに敬礼を交わした後、少佐から口を開いた。
「ご苦労。突然押し掛けてすまないな」
「いえ、これが本官の職務ですのでお気になさらずに。それにクマノの調査団の方で何か問題が起これば、1番近い私たちの基地が対応するようにと、本部からも通達を受けているので」
男性士官は無表情のまま答える。
「ところで、彼は一体何者なのですか?」
男性士官自身がここ数時間尋問を行い、わからなかった事を少佐に投げ掛けた。
「わからない。初めは人民戦線のスパイなのではと思っていたのだがな」
「催眠魔法も使用しましたが供述の内容は使用前とほぼ変わりませんでした。唯一、使用前と使用後で自身の家族に関する事の内容が変わっていましたが、存在しない国や地名、理解不能な単語を話していたりと…まるで異世界の住人ですね。本官にはお手上げです…」
普段から無表情が板につく男性士官が、疲れたと言わんばかりに口の頬を緩めた。
「異世界の住人か…」
士官が冗談で言ったのは分かっていたが、少佐にはどうしてもその言葉が引っかかった。
少佐自身、その言葉を一時期よく聞いていたからだ。
「魔法による高度な精神プロテクトを受けている可能性は?」
「有り得ません。調べましたが、本官とサイオウ訓練兵が使用した催眠魔法以外の魔法を現在進行で受けている可能性はありません。現行の探知や識別に引っ掛からない新種の物なら別ですが。」
「行方不明者リストや捜索願いで彼に近い特徴を持つ者はいたか?」
「調べた限りではいませんね。人民戦線側の手配書リストも調べましたが彼に似た人物は見つかりませんでした」
「そうか…」
「彼の言動について…普通であれは精神異常者の戯言として聞き流せるかもしれませんが、発見された場所が場所ですからね。ここは他国のスパイという線で、帝国憲法43条を適用して捕虜という扱いで帝都に送還するのが得策だと思われます」
「そうだな‥」
男性士官の提案に頷くも、心の中では少佐は結論を決めあぐねていた。
(彼がもし、俺が探していた人材だとすればここでスパイとして処理するのは惜しい…
だが、もし本当に他国のスパイかそれに準じる帝国に対する脅威だった場合、俺の独断で彼を匿う事は…)
少佐は悩んでいた。現在自身が行おうとしている計画に必要なピースの1つを獲るか、又は手放す事に。
そんな中、取調室がある通路からカツカツとヒールの音が響いた。
士官と少佐が音の鳴る方向に首を向けると、眼鏡を掛けた白衣姿の女性の姿があった。
「ドクター!!久しぶりだな!今はこの基地に駐在してたのか」
少佐が久しぶりの再会に喜びの声をあげる中、女性は気恥ずかしそうに笑いながら
「ドクターは止してくれ少佐。メディカでいいといつも言っているだろ。例の少年を捕えてきたのは少佐の隊かな?」
「ああ、もしかしてその手に持っている紙は彼の検査結果か?」
それを聞くと、メディカが手に持った紙をひらひらとはためかしてきた。
そしてもう片方の手で手招きをしながら少佐に近づくように促した。
少佐がメディカに近づいていくと、メディカは嬉々として顔を近づけ小声で
「少佐!君が連れてきた彼!一体何者なんだい?私も検査結果を見た時は驚いたよ!まさかルナちゃん以外でまた同じ人間を見るとは夢にも思わなかったよ」
「ということは彼の体内に…」
期待した報告を聞き、少佐の口角が吊り上がる。
「ああ。しかも驚くことにルナちゃんと違って彼、『純生』なんだよ。これは史上初の大発見レベルだよ!!どこで見つけてきたんだ少佐?これを成功させた研究機関を突き止めて、今すぐ襲撃して研究データをかっ攫いたいぐらいだよ!」
物騒なことを言いながらテンションを上げているメディカに対し、
「落ち着け。で、上には既に報告したのか?」
「いいや、まだ。君とお偉いさんが企てている悪だくみに重要なことだと思ってね。最初に教えたくてね」
「ナイス判断だドクター」
「だからドクターはやめてって言っ」
メディカの話を切り上げ、内緒話をしていた2人を眺めていた男性士官に近づき、
「准尉殿、さっきの話はなしだ。彼の身柄は私の隊で預かる。司令官にはそう伝えといてくれ」
―
もうこの場所に来てどれくらい時間が経過しただろか。
一面の白い空間、簡素な机に備え付けられているライトの照明が自分に向けられていて目が眩しい。
部屋の一角には黒いガラスが目張りされており、ドラマなどでよく見る典型的な取調室のような部屋に俺はいた。
変な2人組に銃を向けられて、怪しい方法で眠らされて目が覚めたら…
…体が子供になっていた訳ではなく、この部屋にいた。
最初に目が覚めた時は手に手錠がされた状態で椅子に縛り付けられていた。
目が覚めたときこの現実が夢ならどれほど良かっただろうと、15年生きてきて今日ほど思ったことはなかった。
手錠自体は何分後かに部屋に入ってきた外人の男性に敵意がないことがわかるとすぐに外してもらえたが、一向にこの部屋から出してもらえる気配がない。
目が覚めてからこの方、何も口に入れてないのでそろそろ腹が限界を迎えていた。
飲み物に関しては部屋に来た男性から水をもらえたので喉は乾いていないが、廃墟で目覚めてから確実に6時間以上経っているのは間違いないのでまだ朝食すら食べていないことになる。
ここ数時間、ずっと男性から同じような質問を繰り返されていた。
出身はどこか?あの廃墟で何をしていたのか?どこの軍の所属か?あなたは国際法に基づき尋問を受けた場合には所属と個別番号、又は軍の登録番号を自ら開示しなければいけなく、このまま虚偽の言動を続けるならば…うんたらかんたら…
聞かれた質問に対し全て正直に答えていたが、相手からは怪訝な顔をされるばかりだった。
同じ質問をされすぎて途中うとうとしてしまってその間の記憶が曖昧だ。
家族について自分から話してた気もするがよく覚えていない。
もしかしたら家族について話したら一発でこの状況から解放されるかもしれないが、未だにここがどういった施設でここまで連行してきた2人組とさっきまで部屋にいた男性は何者なのか不明な状況で明かすべきではないと考えていた。
最初は警察署かとも思ったが、部屋に入ってきた男性の服装が明らかに警察官のそれではなくどこかの軍隊の物だった。
そして男性が見た目は完全に外国人でありながら日本人レベルの日本語を話しているのも違和感があった。
廃墟で出会ったあの二人組も鋼のマスク越しに流ちょうな日本語を話していた。
一体自分はどこに来てしまったのだろうか。どこかの犯罪者集団に海外にまで連れ攫われてしまったのだろうか。
1人部屋で答えが出ない問題を永遠と考えながら腹の虫と闘っているとき、部屋の扉からドアノブを捻る音がする。
顔をそちらに向けると、さっきまでいた若い外人男性とは別の男性が手に灰皿らしきものを持って部屋に入ってきた。
歳は三十代ぐらいだろうか?がっちりとした体に髭がよく似合ったいかにもダンディーな外国人男性といった風貌だ。
「いや、すまないな。こんな所に長居させてしまって」
聞き覚えのある渋い声だった。
男性は灰皿を机に置き、席に着いた。
この声はつい最近聞いた。多分だが、あの廃墟で会った2人組のうちの紅褐色の鎧を身に付けていた男性の方だ。
一気に警戒心が高まった。何せ今こんな状況になったのは目の前にいるこの男(あともう1人)が俺を眠らせてここまで連れてきたからだ。
男はジャケットのポケットから煙草の紙箱を取り出し、そこから1本取り出し口に咥える。
ズボンのポケットからジッポーライターを取り出すと、煙草に火をつけ天井に向かって煙を吐き始めた。
煙草の匂いは好きでも嫌いでもないがこんな密閉空間で吸われると煙たくなるのでやめて欲しかったが口には出さない。
吸う前に一言あってもいいものだが、これも外国人だし文化の違いと言うことで飲み込んだ。
その間、俺は敵意の目で男を見ていたが、それに気づいたのか気づかないのか男は紙箱を持った手をこちらに向け、紙箱から煙草を1本突き出して差し出してきた。
「吸うかい?」
「い…いえ、未成年ですので…」
「そうか。もう成人はしていると思ったのだがな」
男はそう言って煙草の箱をポケットにしまった。
最初に会った時とは打って変わって気さくな態度で接してくるので呆気にとられそうになる。
というかもう成人してるって、俺どんだけ老けて見られているんだよ…実年齢より下に見られたことはあっても上に見られたのは初めてだ。ちょっとショック…
「自己紹介がまだだったな。私の名はワーウォルフ・ヴェーダ。帝国陸軍の魔導士大隊の隊長をしている。最初に会った時は手荒なマネをして悪かった。なにせ民間人立入禁止区域に不審人物が帝国軍機体の残骸を持っていたもんだから、てっきり他国の工作員だと勘違いしてしまった」
「は、はあ…」
笑いながら話しかけてくるワーウォルフ。しかし俺は彼が発した単語に意識がいってしまい、まともな返事を返せなかった。
魔導師大隊?何を言っているんだこのおじさんは?
帝国陸軍ということはここはどこかの国の軍事施設の中ということだろうか。それにしてもさっきの男性のみならず、この男ワーウォルフも日本語が流ちょうなことに違和感を覚える。
「最近、帝国内で人民戦線のスパイが摘発されてな。軍事機密が漏洩した疑いがあるとかで軍内部も敏感だったんだ。こんなご時世になっても人類同士で争っているのだから愚かなものだな」
話している内容はさっぱりわからなかったが、ワーウォルフが話しながら俺の反応を観察していることはなんとなくわかった。
「さて。何度も聞いてしまってすまないが、もう一度、君は何者でどこから来たのか聞かせてもらえないか」
本題だとばかりにワーウォルフの眼と声に真剣味が帯びていた。
またか…と、辟易としながらもさっきの男性の質問の時と同じように答える。
「俺の名前は…アキシノミヤ…昭人。歳は十五歳。日本に住む学修院高校一年生です。家はトウキョウ都ミナト区元赤…」
「いや、わかった」
話している途中でワーウォルフによって中断されてしまった。
一体何なんだ。いきなり話せと言ってきたのはそっちなのに全部言わせずにそっちから話を切るなんて。
ワーウォルフはなんと話していいかといった感じで、神妙な面持ちで考え込んでいた。
数十秒の間の後、ワーウォルフは口を開いた。
「まず、アキト。君の誤解を解かなければならない」
なんだろう。それよりもここはどこで、あんた達は何故俺を軟禁しているのか教えてもらいたいものだ。
ワーウォルフは煙草の煙を吹かした後、吸い殻を灰皿に押し付けて火を消した。
「この世界に『二ホン』なんて国は存在しない。少なくとも100年以上前からそんな名前の国は確認されていない」
「は?」
思わず声が出てしまった。本当に何を言っているんだ…このおじさんは。日本がない?バカな、そんな見え見えの嘘ついてこいつどういうつもりだ?
「日本ですよ!?日本!!東の端の島国で先進国の」
「ああ、だからそんな名前の島国は存在しない」
あまりにも突拍子のない発言を真剣な表情で話すものだから、つい声を荒げて反論ししまったが間髪入れずにワーウォルフに否定されてしまった。
ワーウォルフは椅子から一度立ち上がり、ズボンのポケットから四つ折りの紙を取り出し、机に広げて見せてきた。
ポッケにいれていたため少し紙がくしゃくしゃになっていたが、紙には世界地図が描かれていた。
正確には、世界地図のようなものだ。
何故ならその地図には日本の地形が本来あるはずの場所に何も描かれていなかったからである。
それ以外にも自分が本来知っているはずの世界地図とは、形が異なる部分がいくつかあった。
それよりもまず目が行くのが、地図の中に書かれている文字だ。日本語でも英語でもない。中国語やフランス語でもない初めてみる文字だった。
そして地図は国別に色分けされているのがわかるが妙に一国一国の国土が大きい。全部数えても二十数国しかないのではなかろうか。歴史の教科書の世界地図を見ているようだった。
「どうやら初めて見る、といった顔だな」
ワーウォルフはそう言い、地図に指をさし始めた。
「ここがネノカタス帝国だ。いま私たちがいる場所はイワヤトといって、ここら辺だな」
ワーヲォルフが指さした所を見てみると本来の地図であればフランス、パリがある場所を指さしていた。横には謎の文字。多分、ネノカタス帝国と書かれているのだろう。
色分けされた領土を見てみるとかなりの大国だった。本来ならフランス、ドイツ、イタリアがあったであろう場所がネノカタス帝国の色で塗られていた。歴史の教科書で見たローマ帝国がこんな感じだった気がする。
「さらにその上の島国が大王国。そして新大陸の合衆国、最東の人民第一戦線」
ワーウォルフは次にイギリス、アメリカ、中国があるであろう地形に指を順に動かしていった。呼び名は少し違ったりするがここら辺の国々は自分の記憶通りの場所にあった。
「まだいくつかの小国が残ってはいるが、以上が現在まで存続している100年前は『列強』と呼ばれていた四大国だ」
「え?他の国はどうしたんですか?まだ地図で紹介してない国が沢山ありますよ。」
馬鹿げた話を真面目に聞いてしまったからか、他の塗り分けられた領土にも国名であろう文字が刻まれていたので気になって聞いてしまった。
「…この4国以外の大半の国は滅んだ。または戦争の過程で4国のどれかに吸収されていったよ」
「戦争?いや、滅んだならどこの国の領土なんですか?例えばここ。俺の記憶が正しければインドがあるはずですけどどこの植民地なんですか?」
今度は俺が地図を指さした。インドがあるであろう地域はさっきワーウォルフが紹介した4国のどの色とも違う色が塗られていた。
「亜人だ」
「アジン?」
アジンって、あのゲームとか漫画でよく耳にするあの亜人か?異種族とかそんな感じの。
俺の馬鹿にしたような反応にも気にせず、ワーウォルフは淡々と話し始めた。
「今から約108年前、この
「奴らはある日突然この地上に現れ、人類に対し攻撃を開始した。人類が応戦するも圧倒的な力を持つ亜人の軍勢には当時の人類の科学力では太刀打ちできなかった」
「この出来事を我々人類は『ドミニオンの厄災』と名付け、ここから起こる人類と亜人の戦争を『亜人大戦』と呼んでいる。」
「数多の国々が亜人の力によって滅んでいく中で、当時『禁忌』とされ、表社会から姿を消しつつあった魔法を扱う『魔導師』という存在が亜人に対抗し始めた」
「生き残っていた国々はすぐさま魔導師を徴用し、国家規模で魔法技術の研究を行った。その過程で魔法技術と科学技術の融合という発展を遂げ、数十年の歳月をかけて亜人大戦を終結させるまでに成長した」
「ただしその間に人類の人口は15分の1まで減少し、現在の人類の人口は1億人ほどになる」
「魔法技術の発展により人類は亜人と対等になれたと思えたが、実は終戦にまで持ち込めたのはもう一つの理由がある」
「亜人同士でも争っていたからだ」
「亜人と一括りに呼んでいるものの、その種類は多種多様だ。種族によって見た目、習性、文化の形成から様々で、同じ亜人でも多種族間で戦争が起きた」
「その後、人間が消えた土地に各種族の亜人達が住み着き、独自の生活圏を形成しだした。種族内で独自の文化を生み、子孫を増やし繁栄し我々が国と認識する存在へと変わっていった」
「その地図で紹介しなかった土地は全て亜人達の土地だ。亜人は【
「ネノカタス帝国は現在、複数の亜人国家と戦争状態にある。熱帯大陸に『
「100年前の『大戦』は終結したが、人類と亜人種族の戦争は100年間通して今だに続けられている」
「目的は双方とも同じ。人類側は亜人によって奪われた土地の奪還。亜人側は領地拡大」
「以上が私たちの世界の内情だ、アキト」
長い話が終わり、ワーウォルフは一息いれるためか煙草に火を着けだした。
かなり壮大な話を聞かされてしまった。この設定で一本物語が作れてしまいそうだ。
この話が百歩譲って本当だとすれば、俺は別世界に迷い込んでしまったということになる。絶対に有り得ないが…
このおっさんは何故こんな話を俺にしてきたのか。
もしかして、俺を洗脳しようとしているのか?
だが、ふと思い出すと最初に廃墟で全身鎧姿のワーウォルフともう一人の女性?に出会ったとき、彼らは現在の科学では説明できない現象を起こして見せたことを思い出した。目の錯覚や手品の類でなければ、その現象について一応の説明はつく…信じたくはないが…
そしていくつかの疑問点が浮かび上がる。
「…いくつか…質問していいですか?」
「ああ。かまわんが」
ワーウォルフは口に煙草を咥えながら答える。
「ワーウォルフさんは…最初は俺を他国のスパイだと思ってたはずなのに、なぜ今は俺が別世界から来たことを確信しながら話しているんですか?」
咥えた煙草を灰皿に置き、
「君がこの基地に着いて眠っている間にいくつかの検査を行っていたんだ。その検査結果から君は私たちとは異なる肉体構造をしていたのでね。ああ、心配しなくて良い。体に害があることはしていないから」
検査と聞いて顔色が悪くなりだした俺に対して先手を打つようにワーウォルフは答えた。
「異なる部分って?」
「魔力だ」
「魔力?」
「そうだ。この世界の人間は基本、肉体に魔力を持たない。体内に魔力を持ち、かつこの世界には存在しない地名や単語を話す君を異世界人と思っても不思議じゃないだろう?」
「まあ、私は君が異世界人であろうがなかろうがどっちでも良いが、君がこの世界について全く知識を持っていない素振りだから解説してあげたに過ぎない」
俺の体内に魔力があるって?また馬鹿げた話をし始めたなこの人は。
「俺の体に魔力なんてありませんよ。魔法どころか特別な力すらありません。俺の世界では魔法なんてものは空想の世界での話ですよ。第一、さっき魔導師が活躍したみたいな話してましたけど、彼らはどうやって魔法を使用しているんですか?」
「彼ら…というより私たちがこの世界で魔法を行使できるのは空気中の魔力を使用しているからだ。この惑星で魔力を体内に持つ生命体は亜人しか確認されていない」
「亜人は体内に魔力を持っているですか?」
「ああ。そういえばさっきの話で言ってなかったな。そういった意味では君は人間の見た目をしながら体内に魔力を宿す第十三の亜人という見方もできるな」
俺が亜人?もしかして俺をここで軟禁しているのはこの後解剖して内部を調べるためじゃないよな…さっき亜人と戦争してると言っていたし…このまま生かさず殺さずの半殺し状態で人体標本にされるんじゃ…
そんな想像をしながら戦々恐々としていると、ワーウォルフは笑いながら、
「心配しなくても解剖しようってわけじゃない。ただ、私としては君に少しばかり協力してほしいだけだ」
ワーウォルフは悪い笑みを浮かべながらまた煙草を吹かし始めた。
「協力って…何を?」
「それはまた後で話すとして、他の質問はいいのかね?」
話が逸らされてしまった。仕方なくもう一つの疑問をぶつけた。
「俺は今日本語で会話してますけど、なんで異世界人のワーウォルフさんやさっきの男性と会話が成立しているんですか?」
「それは私が聞きたいぐらいだ。私も君の尋問を担当していた准尉も帝国語で話している。逆に君がここまで流ちょうに帝国語を話せているのが謎だ」
思いもよらない返答だった。
さっきから魔法だなんだと、自分の世界の常識じゃ妄想の類と一蹴してしまいそうな話が次々と飛び込んできたので、てっきりテレパシーで会話しているや、他人の心が読めるとかそんなことを言われると予想していたがどうやらあちらも使っている言語が同じだと言う。
そんな偶然あるのか?
疑念は深まってくるばかりである。大体、俺が見た魔法と呼ばれる現象も俺自身が浅はかなだけで現在に科学の力でどうにかなることかもしれない。
そんな事までして俺がここは異世界だと思い込ませることに何の意味があるのかは見当がつかないが…
疑心暗鬼になっていることが顔に出てしまっていたのか、
「どうやらまだ信用していないようだな」
「え?」
ワーウォルフは吸っていた煙草の火を灰皿に押し付けて消し、席を立ちあがり部屋から出ていこうとした。
そして扉の前で振り向き、
「よろしい。見せたいものがある。付いてきたまえ」
「…この部屋から出てもいいんですか?」
「ああ。出て直に見せなければ君の信用を得ることはできそうにないからな。さあ」
「あ、はい」
いまだ何が真実かは定かではないが、今は少しでも情報が欲しい。
まだワーウォルフという男を信用した訳ではない。
不安はあるがワーウォルフと共に取調室を後にした。
あと、お腹すきすぎて死にそう…
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