第6話【ヴィソ=コミェーリエの報告】



『つまり君は、見たというのだね。ヴィソ=コミェーリエ』


「はい、間違いなく。白いリベリオンを」



 画面の向こうで書類を手に訝しむ上司に、ヴィソは堀の深い顔を歪めた。


 最前線であるユーラシア連合極東地域の実情も理解せず、中央で政争に明け暮れている人間の目には危機感がまるで足りていない。



『……まぁ、現地の徴用兵からの報告とも矛盾はしないが』



 ぺらぺらとわざとらしく書類をめくる仕草が癇に障るが、それを表に出せば因縁を付けられシベリアに送られてしまう。


 あるいは平原の汚染地域か、どちらにしろロクなものではない。


 少なくともコミェーリエにとって、この地の政情安定化よりも無価値な仕事だ。


 苦労はあるが、最近は部下から多少信頼されてきている気もする。


 いや、そこまでいかなくとも。ユーラシア連合の貴族がルールすら守る事も出来ない蛮族レベルの連中ではない事は示せているはずだ。



『まぁいい、機体を失ったが情報は手に入った。悪い話ではない』



 どうやら上司は自分を更迭する気は無さそうだ。



『ジョージ・フジカワ・・・・・・ 米国と日本のクォーター』



 ぺろりと画面の向こうで書類をめくる。態々タブレットを使用せずに印刷した紙を使う事にコミェーリエは意味を見出せない。



『そして、ふむ。【特テロ法】の適応申請が出されていると』


「はい、改めて資料を見る限り。適応されてもおかしくない範囲ではあります」



 軍警察に対する反抗的な態度、MAUの操縦訓練にいそしむ様子。更にインターネットの不法使用の疑いまでかかっているのであれば限りなくグレー。


 いや、リ・レジスタンスに合流したことを考えると黒だったのだろう。



『そこでだ、手が遅い君に変わって。部隊を動かしておいた』


「はっ、それは・・・・・・」


『彼の家に特殊部隊を潜ませた。なりたてのテロリストは家に戻るからな』



 だが、彼はそこまで愚かだろうか? とコミェーリエは思う。


 ああも鮮やかに新型を用意し自分の部隊を壊滅させたのだ。そのようなありきたりのパターンをなぞるだろうか?



『た、大変であります! 現地の部隊より通信が!』



 そんなコミェーリエの考えを遮るように、画面の向こうで伝令の叫び声が響く。



『なんだ? 一流の特殊部隊を揃えているのだ。何が起ころうと――』


『リベリオンが2機、現れました!』



 その言葉を聞き、彼は手元のタブレットで藤川譲二の住所を確認する。



「――市街地だぞ!?」



 そう、都内の市街地。リ・レジスタンスの活動は、これまでユーラシア連合の軍事施設に的を絞っていた。


 それが崩れたという事実に、コミェーリエは背筋に悪寒が走る。



「MAU同士による、市街戦だと?」



 藤川譲二、青い目をした日本人。


 彼という変数が、この極東地域における流れを大きく変えてしまうのでは?

 

 そんな考えがコミューリエの頭を過る、理屈ではない。



『ええい! コミューリエ大尉! お前たちの部隊も再出撃だ! 』

 

「はっ! 我らがユーラシア連合三重帝国の為に!」



 モニターに向かって敬礼を行い、そのまま駆け足で通信室から外に出る。


 未だに整備は完了していない以上、予備機を使う事になるだろう。


 だが、それでもあの男は。ジョージ・フジカワは止めなければならない。


 ユーラシア連合三重帝国。その末席の貴族であるコミェーリエにとって、どれほど彼が好漢であったとしても。国の規律を乱すテロリストなのだから。











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