第5話【蒼の閃光】


(ああくそぉ、ヤベェ……)



 セカンドリベリオン。いやラストサムライの中で俺は頭を抱える。


 思いっきり藤川譲二と名乗ってしまったことに後悔は無い。


 喧嘩どころか文字通りに戦争をおっぱじめようって言うなら、それこそ名乗りも上げないなんて恥知らずにも程がある。


 そんな事より、現在進行形で被った電位思考同調装置シンクロニアで頭痛が酷い。


 本来これは機体を動かす為のものじゃない。


 動作パターンを入力する補助であり、こうやってリアルタイムで空手の真似事をやることなんて想定されちゃいないのだ。



『ふぅむ…… フジカワと言ったか』



 ティエン・トゥリーが体勢を立て直す。正直ちょっとマズった。


 喧嘩をやる時は1発目でボスを倒して話し合いに持ちこめって。そんな当たり前の話をやり切れてなかった。



『無駄だとは思うが、今ならば前言を翻せばユーラシア連合国民として裁いてやる』



  四角いトノサマガエルが見下した言葉を口にする。その上でこちらを尊重しているのは伝わってくるのが質が悪い。



「どうせ何やっても死刑だろ?」


『無論、だが親類縁者には罪は問わん』



 どうやら、本気で俺を気遣っているらしい。周囲のディエンに動きはない。だがそれが、この隊長機が普段とは違う行動をしていて動揺のだとも感じられる。


 しばらく動かなかったおかげか、頭痛も大体収まった。



「江戸っ子が口に出した事を引っ込めるかよぉ!」



 途中まで突き上げる予定だったラストサムライの指先を拳の形に握らせる。


 傲慢不遜であろうと、こちらを貶める気は―― いや、相手なりに尊重しようとしているのが分かった以上。


 全力で殴りつけて、場合によっては死んでしまうとしても―― ただユーラシア連合本土の連中というだけで殺したいほど憎くとも。


 こちらを尊重する相手を貶めるなと、じいちゃんが最期に言っていた。



『ならば! テロリストではなく。特別にニホンの残党として我が斧を向けよう!』



 トノサマガエルが、いいや・・・・・・ ユーラシア連合軍最新鋭のMAUマルチアームドユニットであるティエン・トゥリーもこちらに合わせるように見得を切る。


 分かりやすく武器は持ってないとはいえ、ほぼ1機でユーラシア連合日本方面軍を手玉に取るリベリオン。


 その同系機を相手にそれだけの余裕を見せる胆力は素直に認めたいと思う。



『ああ、自己紹介が遅れたな。俺の名はヴィソ=コミェーリエ!』



 濃緑の巨人、その脚部に力が入る。


 

 さて、あれが直撃すればどうなるのか。ユーラシア連合が禁止する前に見たロボットアニメと同じように。ラストサムライが耐えてくれるなんてのは甘い話だ。


 

「いざ、尋常に――」


「『勝負!』」



 これでは戦争ではなく、決闘だと。俺は獰猛に笑った。


 テロだのレジスタンスだの、考えなきゃいけない事はいっぱいあるが。それはそれとして初めての命を賭けた戦いがこれ位気持ちいいなら上等。



(このラストサムライなら――)



 流石に全力で吶喊してくる最新鋭機を正面から力で抑え込める無法は出来ない。


 何よりMAUは基本先手を取った方が有利。質量×加速度が打撃力になる。


 細かいところは違ってるかもしれないが、大体そんなもの。


 出遅れてしまったとか、相手の方が先に動いたとか文句は言わない。


 

「やって、やれるさ!」



 操縦桿を捻り、ラストサムライを半歩左に動かし。トマホークの軌道から外す。


 ゲーム機代わりに本気で遊んでたシミュレーター。そこで動かした画面の中のティエンよりも遥かに軽い足さばきに胸が高鳴る。



『その、程度で――!』


「やれるのさ!」



 オープンチャンネルに叫び返して、そのまま振るわれたトマホークの腹に上半身のトルクを全力でつぎ込んだ右腕を叩き込む。


 標準的なモーションにはない動き。


 ちょっとした頭痛と引き換えに、俺は体勢を崩したコミェーリエの傍に立つ。



『だが、砲も剣もなく。何が出来る!』


「――誰が、コイツが何も持ってないって言ったんだ?」



 周囲のティエンが30mmのアサルトライフルを俺に向ける。


 だがそれが火を噴く前に黒い影が夜の山を跳び。ミス静山のリベリオンが圧倒的な速度と反応で取り巻きのティエンを切り裂いていく。


 俺を助けた時よりも、敵兵の練度が高いのか。一瞬とはいかない。


 もしコミェーリエがフリーならトマホークを叩き込む隙はあっただろう。



「吼えろ、サムライ――!」



 その言葉より前に、トリガーは押し込んだ後。


 俺のすぐ傍に組み込まれたA級ヴァルター炉心しんぞうが燃えている。


 ラストサムライに組み込まれた基本モーションが、そのサイドスカートに仕込まれた大型で刃のない柄を右手で強く握りしめ―― そのまま振りぬけば。


 蒼い閃光が、刃となり剣筋を描く。



『ヴァルター―― ブレードだと!? まさか』



 コミェーリエが叫ぶ、噂程度には流れていた。


 日本が敗戦寸前に開発した新型MAUは光の刃を持つと。まるで禁じられたアニメの中に出てくるロボットのように万物を切り裂く刃の機体が生まれたと。


 けれど、そんなおとぎ話は、鉄の刃を振るう反逆者リベリオンが押し流した。


 もしそんなものが完成していたのならば、あの21世紀最悪のテロリストが駆るリベリオンが使っている筈だという状況証拠。



 だが、今この手に。俺が駆るラストサムライの右腕にそれは煌々と輝いて。


 質量と加速度ではなく、暴力的な熱量が常温超電導プラスチックヴォルテックスの重層装甲を溶かし尽くし。いや昇華させ。



「俺の、勝ちだ。コミェーリエっ!」



 俺の勝利宣言と共に、ティエン・トゥリーの両腕がトマホークごと切り飛ばし。


 まだここに、俺とラストサムライの胸に煮えたぎる熱がある事を高らかに示す。


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