第139話 加藤side取り残された俺たち

心なしか慌てた景が阿久津に引き摺られて行ったのを見送りながら、俺とミサは顔を見合わせた。


「何かさ、俺たち余計なことしたっぽい?」


ミサはほうじ茶ラテを一口飲むとため息をついた。


「どうだろ。あの二人はさっきの感じから行くと、はっきりさせないまま来てたっぽいし。良いキッカケになったのかもしれないじゃん。…ぐふふふ。それにしても景ってほんとヤバいね。」


ミサの思い出し笑い、きめえと思いながら俺はあいつらに初めて会った時のことを思い出していた。



同じ学部の入学後のオリエンテーションで、あの二人は妙に目立っていた。ガチムチで他の学生よりひと回り縦にも横にも大きい阿久津は間違いなくイケメンで、側にいる女子たちがヒソヒソ噂してるのにもあまり関心がない様子だった。


目立つ奴だなと思って眺めていると、不意に甘い顔をして隣に笑いかけるのだから、阿久津に注目していた男も女もその相手が気になったのは自然なことだろう。阿久津の隣にはすらりとした髪の短い女の子が立っていた。よく見ると手を繋いでいる。



こんな場所で手を繋ぐとかどんだけだよと突っ込んだのは俺だけじゃなかっただろう。不意にその子がキョロキョロとこちらを振り向いた。俺は三年付き合ってる彼女がいるけど、それでもその子には惹きつけられた。


少し吊り目の大きな瞳は明るくて印象的だった。ピタッとしたおへその見えそうで見えない赤いカーディガンカットソーから細い腰を引き立たせて、白いストレッチパンツが脚の長さとスタイルの良さを際立たせていた。


その時はそれがベリーショートって言うなんて知らなかったけれど、潔いくらい短い髪が、キラキラするピアスを引き立てていて、凄くチャーミングな女の子だと思った。



次に会ったのはクライミングのサークルだった。後ろ姿であの二人だって直ぐに分かったけれど、阿久津がクライミングなんて正直どうかなと思った。クライミングするには体重が重いだろ?実際阿久津は持ってる筋肉で登っていて、かなりやる方だったけれど、それでも景には敵わなかった。


阿久津は景の側にいるためにこのサークルに入ったのは間違いなかったし、景もそれが当然のような顔をしていた。阿久津は誰でも景に近づく人間を値踏みしたし、俺も彼女が居なかったらきっと仲良くしてはくれなかっただろう。


景の呑気な様子と、阿久津の執着ぶりにこのカップルは入学早々、ある意味キャンパスで有名になっていたんだ。

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