第138話 何をもって普通

困惑する二人の友人を前に、私はポップコーンを摘みながら頷いた。


「…確かに。私たちって変かも。でも本当に付き合ってないの。」


加藤はニンマリすると、身を乗り出して言った。


「なぁ、じゃあ景って今、フリーなの?」


私は興味津々な加藤と美紗の顔を見つめながらため息をついた。


「それがね、自分でもよく分からないって言うか。多分、フリーって言うと、文句言う人たちがいる気がするんだよね。でもさ、キスとか手を繋ぐことぐらい挨拶みたいなものでしょ?」



ミサは加藤に顔を寄せて言った。


「景って、帰国子女だからちょっとそこら辺の感覚はおかしいかもしれないよ?」


加藤はなるほどと頷くと、じゃあ聞くけどと言って私を更に追い詰めた。


「じゃあさ、阿久津にその、司先輩?に会うって言ったらどうなる?」


私は目を閉じて眉を顰めて考え込んだ。


「…うーん。そーだなぁ。多分拉致られるかも。でも司先輩には、会いたいんだよね。私の癒しだから。」



「…司先輩って誰?」


私は目をぱっちり開けて、目の前の二人を見た。加藤もミサも私の後ろを強張った顔で見上げている。私は玲の低い声に少々動揺しながら振り返った。


「玲!早かったね?」


玲は私に微笑むと、隣にドカリと座った。なんだか会う度に玲が大きくなってる気がするんだけど、気のせいだろう。



「それで?随分楽しそうな話してたね。司先輩って、景の周りにそんな奴いたっけか。…くそ。見落としがあったのか。」


何だか玲の顔が不穏だ。目つきがやばい。私は玲の顔を両手で挟んで言った。


「玲知らなかったっけ?高校の先輩で、私が落ち込んだ時慰めてくれた人。話してなかったかなぁ?」


玲はニヤリと不敵に笑うと、私の手の上から大きな自分の手を重ねて言った。



「うーん。何か景がこうやって甘えてくる時は大概誤魔化そうとしてる時だよなぁ?そっかそっか、見落としてた訳ね?もうちょっと自由にさせておこうかなと思ってたけど、色々景のこと狙ってる奴らも出て来たし、ハッキリさせなきゃな。


じゃあ、俺たちこれから行くとこあるから、またな。」


玲は目を丸くしてる二人にそう言うと、私の手を繋いでカフェから引っ張り出した。


「…玲?何か怒ってる?」


私が恐る恐る玲に尋ねると、玲はニヤっと笑って繋いだ私の手の甲にキスすると言った。



「怒ってないよ。ケツに火がついただけ。本当、油断も隙もないよ、景の周囲は。ハハハ。」



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