第135話 和也の話
「俺、うーちゃんの顔を見たら、はっきりするかと思って今日会いに来たんだ。俺たち、うーちゃんの弟に言われたんだ。うーちゃんと付き合ってるって思ってる男は一人じゃないって。
…実際俺も無理やり説得して付き合ってるって事にしちゃったし。うーちゃんは流されやすいって分かってて、俺はつけ込んだんだ。だから、うーちゃんは俺と無理して付き合わなくてもいいんだ。」
私は和也の強張った横顔を見つめた。自分のせいで余計に和也を傷つけているのかもしれない。でもあの時の気持ちは嘘じゃないけれど。
私は立ち上がって、足元にあるイチョウの濁りのない黄色い葉を拾い上げた。それを和也に渡して言った。
「和也。悩ませちゃってごめんね。…和也はつけ込んでなんてないよ。あの時、和也が欲しかったのは本当だし…。僕が流されやすいせいで、困らせてるよね。
このイチョウの黄色、とことん黄色いよね。そう思わない?これくらい物事がハッキリしていたら、随分簡単だなと思うんだ。でもそんなの無理だろう?
正直、僕はこうやって和也と会うのは、楽しいし、嬉しい。ちょっとドキドキもする…。でも、僕と会う事で和也が苦しくなるばかりなら、僕はもう和也と会っちゃいけないと思う。…和也はどうしたいの?」
私の言葉を黙って聞いていた和也は、手のひらの上のイチョウをじっと見つめていたけれど、空いた手で私の手をぎゅっと握り締めると言った。
「…俺、俺はうーちゃんと会えなくなるのは嫌だ。つけ込めるんだったら、どんな手を使ってもつけこむよ。うーちゃんが俺のキスに蕩けてくれるうちは、俺はうーちゃんに会いたい。
…俺はまだ高校生で、うーちゃんは大学生になるけど、俺他の奴に負けないから。だからうーちゃんもゆっくり大人になってよ。出来たら、俺が大学生になるまでゆっくり。」
そう言うと立ち上がってそっと私を抱きしめた。私は和也が離れていかない嬉しさと、それでいいのかなと後ろめたい気持ちとで複雑だった。けれど、慣れた腕の中は居心地が良くて、私は和也の肩に頭を寄り掛からせた。
耳元で和也のため息と何か言いたげな空気を感じて顔を見上げると、少し困った顔が可愛くて、私は自分から和也に口付けた。やっぱり和也とキスするのは好きだ…。
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