第131話 司って、その司⁉︎

彩花の家庭教師、五十嵐先生の院生試験の知り合いである、司さんに入学予定の学部を聞かれた私は、経済学部ビジネス学科だと話した。司さんは少し目を見開いて言った。


「僕も経済学部だけど、ビジネス学科だとは優秀だね。…もしかして帰国子女だったりする?」


私はにっこり笑って言った。


「はい。高校は向こうで留学してました。語学を活かせる経済学部は桜蔭大が飛び抜けてたので。」


司さんは納得した様に言った。



「そうなんだ。あの学部は語学力が無いと、多分単位取れないからね。留学経験の無い学生も居るけど、恐ろしく優秀だって話だ。僕の母校の男子校でもビジネス学科へ合格するのは一人、二人だと思うよ。」


私は司さんの言葉に嫌な予感を感じた。「司さん」と苗字を聞いた時から、まさかね?と考えない様にしていたのに。よく見れば面影だって感じるじゃないか。私は恐る恐る司さんに尋ねた。


「…あの、司さんに弟さんとかいらっしゃいませんよね?例えば医学部に決まった弟さんとか…。」


司さんは、目を丸くしてびっくりした顔で尋ねてきた。



「えっ⁉︎ 漆原さん、もしかして、僕の弟の知り合いなの?驚いた、世間は狭いんだね。えっと、弟とはどこで知り合ったの?」


気が付けば、みんなの目が私に注目していた。心なしか、彩花は驚きながらも、面白がっている顔だ。


「あ、えーっと、…私の弟の知り合いの先輩なんです。随分お世話になったみたいで、よく話を聞いてたものですから。実際に会ったことは無いんですけど…。」


私は嘘の中に真実を取り混ぜて話した。私ってば、いつの間にか嘘が上手くなってる…。なんて事だろう。反省。


司さんは納得したように頷くと、にっこり笑って言った。



「そうなんだ。あいつは寮で生活してるから、最近はなかなか話す機会もなくってね。今度漆原さんの弟さん?の事きいてみるよ。へー、それにしても全然関係ない所で弟の事知ってる人に会うなんて、びっくりだ。」


満を持して登場した彩花が私たちの会話に燃料を注いだ。


「司さんの弟さんも、上京組なんですか?何かご縁が有るんですね。今度良かったら一緒にみんなで会いたいな~。景も弟くんが『随分』お世話になったみたいだからお礼言いたいでしょう?」


そう言って私に微笑む彩花の顔が、私にはちょっとホラーめいて見えた…。



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