第126話 修羅場とは
思わぬ和也の言葉に佐藤も、タクミも、トモでさえも目を見開いた。
「ね?うーちゃん。」
満面の笑みで私を覗き込む甘ったるい和也に、私は思わずこの前の二人の時間を思い出してしまって、狼狽えながら言った。
「…そ、そうなのかな?」
佐藤が和也と私を引き剥がしながら言った。
「聞いてないけど!けいちゃんは流されやすいから、和也に押し切られたんじゃないの⁉︎」
う、ちょっと当たってるかも…。和也は苦々しい顔をしながら、私の手をもう一度取ると佐藤に詰め寄った。
「おい、余計なこと言うなよ。うーちゃんと俺はのっぴきならない関係なんだよ。」
その場がピリっと凍りついたのが分かった。私は誰とも顔を合わせない様にしながら、この場をどうしたらいいのかと焦っていた。和也と付き合ってるって言えばいいの?でもさっき司先輩とキスした私が、和也の彼女ですなんて、トンデモ物件じゃないの?私の頭の中で、ビッチ、淫乱、尻軽というワードがぐるぐると回転していた。
その時タイミングが良いのか、いや、絶対悪い事に、聞き慣れた声が響いた。
「へー、ケイもやるじゃん。男たちを手玉に取ってさ。俺の代わりに随分好き放題してくれたんだね。あのさ、修羅場ってるみたいだけど、この子、めっちゃ流されやすいから。分かるでしょ?そうじゃなきゃ、僕の身代わりに男子校の寮生活に潜入するわけないじゃん?ケイ、行くよ。車待たせてるから。
あと、話し合いは僕に関係ないとこでやってよ。ほら、ケイ、行って。僕こいつらには話があるから。」
私はもう一度みんなにごめんなさいと頭を下げると、逃げる様に門の下の道に待たせていた車まで走った。私は卑怯な事に文字通り逃げ出してしまった。
健斗が何を彼らに話したのか分からなかったけれど、車にやって来た満足げな表情の健斗に聞けるわけもなく、健斗のニンマリした顔で囁かれた一言に私は震え上がってしまった。
「ケイ、これで借りは返したからね。」
この潜入期間の私への大きな借りを返すほどの話を、彼らにしたというのだろうか?私は健斗を怒らせると怖いことを子供の頃から身に染みて分かっていたので、走り出した車中で、下手に拗らせない様にやんわりと尋ねた。
「…ね、何話したの?」
健斗はとってもいい笑顔で私に言った。
「内緒。でもケイが困ることじゃないよ。」
私はこの時、一瞬でも健斗を信じてしまったことを後から後悔する事になった。だってよく考えたら、ずっと健斗に困らされてきたじゃない⁉︎何で忘れちゃってたんだろう、私!
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