第125話 謝罪
学校のお昼休みのざわついた喧騒と対比する様に、誰一人話し出す人間がいないこの場所には、噴水の水音だけがバシャバシャと響いていた。
口火を切ったのはトモだった。
「ハハハ、やっぱりケンケンは面白いや。従兄弟じゃなくてお姉ちゃん?じゃあ、俺たちより年上なの?その割には幼いよね。ねぇ顔あげてよ。本当のケンケンはなんて名前なのさ。」
私は相変わらずの面白がりのトモに、今は少し助けられた気分で顔をあげるとみんなの顔を一人づつ見つめた。
「…私は健斗の年子の姉なの。漆原 景。今年の春に三年の留学を終えて帰国したばかりの時に、事情があって健斗の代理をする羽目になっちゃって。でもここでの生活が楽しくて、みんなが優しくしてくれたし、まぁ、トモは困ったことばかり言い始めてあれだったけど…。
今回、弟が退学する事になったから、最後にみんなに謝りたくて無理言ってついて来たの。本当に騙しててごめんね…。」
タクミと佐藤は顔を見合わせていたけれど、佐藤が言った。
「…あのさ、漆原。いや、ケイちゃん。俺たち何となく気づいてたっていうか。勿論本物の健斗のお姉さんだとは思いもしなかったけどね。夏休みに会ったケイちゃんが健斗なんじゃないかって疑ってさ、二学期はほとんどケイちゃんとして扱ってたんだ。
でも知ってるって言ったら、直ぐにでもケイちゃん学校に来なくなっちゃいそうで。俺たちケイちゃんと一緒に居たかったから、騙されたふりしてたんだ。」
私はポケっと佐藤の顔を見つめた。騙されたふり?じゃあ、トモは知っててあの際どいコスプレさせたって事?私は二学期に起きた色々なことを思い出して、無意識に眉を顰めていたみたいだ。でもタクミの言葉を聞いてハッと我に返った。
「ケイちゃん、俺こうなったからには、ケイちゃんと付き合いたい。夏休みに好きだって言ったのは嘘じゃないよ。あのケイちゃんと、今目の前のケイちゃんも、文化祭の時にキスした漆原も全部同じ俺の好きな人だよ。だからこれからも会ってくれる?」
タクミの言葉に一瞬でその場にピリついた空気が流れたのが分かった。勿論トモは別だけど。私はトモの面白い事になったとニヤつく顔を視界の端に入れながら、なんて言っていいのか本当に頭の中が真っ白になってしまった。
そんな私を抱きしめて、和也はみんなを見渡して言った。
「俺たち付き合ってるから。」
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