第124話 弟の追求
司先輩に帰ってもらって直ぐに、健斗が部屋に入って来た。入ってくるなり胡乱な目つきをした健斗は言った。
「ケイ、どうゆう事なの?同室のやつだけじゃなくて、結局さっきの三年にも女だってバレてるみたいじゃん。しかも何あれ。溺愛?随分と楽しく俺の身代わりやってたんだ。」
いや、健斗が考えるよりもっとやばい感じなんだなぁ…とは言えず、神妙に項垂れる私に健斗は肩をすくめて言った。
「僕、ここに戻らなくて正解だったかも。さっき手続きしに行ったら、僕に対する他の生徒の感じが去年と全然違ったし。妙に馴れ馴れしいというか、…もしかしてケイってここのアイドル的ポジションだったりした?…うわ、まじか。悪い予感は本当だったわ。こうなったら、さっさと立ち去るのが正解だね。段ボールに全部突っ込んで。さっさとやるよ。」
健斗は私を呆れた様に見つめると、段ボールにどんどん荷物を詰めていった。私も主に自分の私物を中心に詰めていった。私は手を動かしながら、このまま立ち去っても良いのかと葛藤を続けていた。
この姿を、佐藤たちは夏休みに一緒に遊んだから知ってる。でも健斗の姉としてじゃなくて従兄弟としてだ。以前適当についた嘘が今になって辻褄が合わなくなってしまったとは…。あの時はバレる前提じゃなかったし、しょうがないんだけど。
私は自分の分を終えるとスマホを手にSNSにメッセージを打ち込むと、健斗に先に出てるからと部屋を出た。お昼休みになったばかりで、増えてきたすれ違う生徒が皆ギョッとした後、驚いた顔をするのを感じながら、私は寮を出ると学校の門の側の噴水まで急いだ。
しばらくすると走って来た数人の足音が聞こえて、私は緊張して心なしか震える手を握りしめた。意を決して足音の方を振り返ると、そこには驚いた顔の和也と、佐藤、タクミとトモがいた。正確にはトモだけは面白そうな顔をしていたけれど。
佐藤が息を切らしながら呟いた。
「…今、漆原から連絡もらったんだけど。学校辞めるって。…ケイちゃんだよね?今日はどうして…。」
私は皆の前に深々と頭を下げて言った。
「ごめんなさいっ!実は健斗は私だったんですっ。今日は健斗の退学手続きと退居の片付けの手伝いに来ていて。本当は来ない方が良かったのかもしれないけど、みんなにどうしてもひと言謝りたくて。健斗の振りしてたのは姉の私だったんですっ。みんなを騙していてごめんなさい!」
私はみんなの沈黙が怖くて顔を上げられなかった。そして誰一人何も言葉を発しなかった。
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