第13話 キスレクチャーの仕様書

今日は何だか視線が突き刺さる日だった。


昨夜の食堂で敢えて堂々と田中翔太を名指ししたせいもあって、学校中の噂の的なんだろうな。


「何だか、漆原がやる気になったみたいで嬉しい様な、寂しい様な…。」


隣の席の佐藤が口を尖らせて、僕に甘えた口調で言ってくる。おいコラ、可愛い系男子がそんな言い方したら、只々可愛いだけだぞ。


僕は心の中でひとりツッコミながら、もっぱらポーカーフェイスだ。


「佐藤がリスト渡して、やれって言ったんじゃないか。僕は面倒なことはサッサと終わらせたいタイプなんだ。

ところで、レクチャーはまさか衆人環視の中でやれとか言わないよね?


でもだからと言って個室だと、佐藤の時みたいに僕が面倒な事になるのはごめんだし…。」


僕が愚痴りながらボソボソ文句を言ってたら、後ろから大きな声が聞こえてきた。


「漆原のキスレクチャー、ちゃんとやったかどうかチェックする人間必要

じゃねぇ?ケンケンなら、田中言いくるめて、してないのにしたとか言わせ

そうだし。」


随分余計なちゃちゃを入れる奴だなと、声のした方を睨みつけるとそこにはいかにも肉食系の色男がいた。

背が高くてロン毛なのに妙にこなれ感がある。ハッキリ言ってチャラい。


もちろん僕には誰だか分からない。


「誰?」


「うわー酷い。出遅れケンケンが学校来てから何日も経つのに。ていうか、去年も居たでしょうが!オレそんなに存在感無いのかなぁ、自信無くすわー。」


チャラ男はケラケラ笑いながら、自分は園田タクミだと名乗った。


「ごめん。タクミね。今覚えたから。」


「うわー、その冷たい眼差し結構ゾクゾクしちゃうわ。オレ、美人系より可愛い系がタイプだけど、ケンケンはアリだわ。」


僕はタクミのチャラさが面白くなってしまって、思わず笑いながら言った。


「安心しろ、僕はお前ナシだから。」


タクミはちょっと黙った後、咳払いすると佐藤に言った。


「それで、どこでやるって?佐藤がチェックすんの?」


佐藤が何か言う前に僕は遮って言った。


「僕が自分からやりたくてやってる訳じゃ無いんだから、他のやつに見られながらなんて趣味の悪いことはしないから。レクチャーはする。

僕がやるって言ったんだから。

まぁ、田中をメロメロにしてやるよ。ふふふ。」


あれ、なんか教室が静かになっちゃった。ヤバ、ハズしたっぽいわー。


僕は冷静を装い、真顔を死守したのだった。





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